深く潜れ(Dive Deep)! キネシオロジー&クラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)の蒼穹堂治療室

「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

魍魎(もうりょう)

2020-12-19 15:59:21 | 一治療家の視点

去年(2019年)の今頃、H氏のコンサルを受けていた。「自分のコンサルではこれまで奇跡のような結果を出してきた」とメルマガや動画で公言しているH氏だが、私には何の成果もなく、コンサルも1年のコースを申し込んでいたが半年でキャンセルし、H氏とは袂を分かった(その後、間もなくして新型コロナの世界的なパンデミックが起こり、結果論ではあるけれど、あの時に残りのコンサルをキャンセルしてムダな出費を止められたことは大英断だったと思っている)。

そのH氏から繰り返し聞かされたのが「僕の知り合いやクライエントには治療家やヒーラーを名乗る人が結構いるけど、凄く上手くいってた人が50代くらいで突然死んだりおかしくなってしまうことが何例もある。人を癒やすことは、それだけ他人の邪気みたいなものを受けることになるので、それをちゃんと取っておかないと、ヒーラー自身に影響が出ちゃうんだ」ということだ。

だからH氏とのセッションは電話と対面があったが、いつもコンサルティングの前に私のどこにそういう影響が出ているという説明と、それを取るためのヒーリングがあった。彼がある霊能者について修行して身につけた不動明王の何とかいうそのヒーリングは、電話を通しては全く何も感じなかったものの、対面でのそれは本当に気持ちのいいもので、2~3日の間は爽快な気分でいられた(だから少なくともその点に関しては、H氏は口先だけではなく“本物”だった)。

結局、H氏のコンサルは私にはほとんど得るものがなかったが、わずかでも得られたものがあるとすれば、それは相手のどこに邪気?による影響が出ている(とH氏が見ている)かが、ほぼ分かるようになったことだ。ついでに言うと、H氏はそれを全て捉えられていると思っているようだが、実は彼には認識できていないもの──それは必ずしも無視できるような小さな影響というわけではない──があることも分かった(それを知るためのヒントは既に「筋反射テスト考 その13」に述べた)。

そのせいか、YouTubeなどで治療家やセラピスト、ヒーラーを称する人たちが挙げている動画を見ると、異様な感じがするものが少なからず含まれているのが以前よりもよく分かる。その中でも特にそれを強く感じたのは、ある人(ここでは仮にX氏と呼ぶことにする)が治療院のコロナ対策について解説した動画である。

X氏は自身も治療家であると同時に、治療家相手に経営指南のセミナーを開いたりDVDの販売もしている。私はX氏とは一面識もないし、教材も買ったことはないものの、長いこと彼のメルマガを購読していた(有料になった今は購読していないが)ので何となく人物像は知っている(本田健さんの人間関係のマトリックスで言うと、もう笑っちゃうくらい典型的なポジティヴ自立タイプの人)。そのX氏が2020年の春にYouTubeに挙げた動画がある。普通に見ていても別に顔色がよくないとか調子悪そうということはないし、話している内容も極めてマジメで真っ当なものだが、そこに映る彼とその周囲に広がるものは、ちょっと言葉にならないくらい異様で、飛ばし飛ばしでさえ私には1分も見ていられなかった。

で、本当ならここにその動画を貼り付けるかリンクでも張って実際にそれを見てもらい、「確かにお前の言うとおりだ」とか「見てみたけど、全然そんな変な感じはしないぞ」とか、それぞれの見解を知りたいところだが、名誉毀損だの訴えるだのと言われると面倒なので、興味がある人は自分でYouTubeで探してほしい。「治療院 コロナ対策 …」といったキーワードを使って検索すれば辿り着けるだろう。

ちなみに、私はX氏の動画に京極夏彦の『魍魎の匣(はこ)』の中のあるシーンを思い出した。古本屋「京極堂」の主で陰陽師の中善寺秋彦が、語り手である小説家の関口巽(たつみ)、探偵の榎木津礼二郎を伴って、「神秘の御筥様(おんばこさま)」を祀る教団の本部に乗り込み、教主の寺田兵衛(ひょうえ)と対峙するシーンだ。

※以下の部分は『魍魎の匣』の一部ネタバレになるので、未読の人はご注意! なお、ここで京極堂はふざけて関口のことを兵衛には「亀山」と紹介している。

 

「これはこれは教主様。初にお目文字致します。私は中善寺と申します。善くある拝み屋です。実は私の許に相談をしに参りましたこちらの男性、あの手この手と処方を施しましたのですがとんと効き目がない。如何せん、私の手に余りますもので、是非とも教主様のお力をお貸し戴けないかと、参上仕った次第で」
(中略)
「ほう。それで──」
兵衛の重たい視線が京極堂を捉える。
「はい。教主様でしたらもうお判りのことと思いますが、この男──御覧の通り大層大きな魍魎が憑いております。私は悪鬼怨霊狐狸妖怪の類なら難なく祓い清め、祈り鎮める技を体得しているのですが、どうにもこの、魍魎だけは苦手でございまして。(中略)聞くところに依ると、こちら様は魍魎専門でいらっしゃるとか。(中略)」
(中略)
兵衛は祭壇側の円座に座った。成り行き上次に連なって入室した私は、已むを得ずもうひとつの円座に座る。(中略)
兵衛が私を視る。善く通る声が私を恫喝する。
「伺いましょうか」
「ああ、あの」
何を云えばいい? 私にはあんな出任せなど。
「どうしました?」
「ぼ、僕は」
「ああ、駄目だ駄目だ亀山君、こっちに来たまえ。君、命が危ない」
京極堂は突如(いきなり)入って来ると、私の襟首を掴んで引っ張り上げた。
「か、かめやま?」
「そうだ。亀山君! 君の体力じゃこの部屋は無理だ」
亀山と云うのはどうやら私のことらしい。
「中善寺──君だったか? それはどういう意味だね? この部屋──」
(中略)
「恍惚(とぼ)けちゃ困りますよ。この部屋は魍魎で一杯じゃないですか! こんなじゃあ命がいくつあったって足りやしない。(中略)」
「君は何を──」
「ご教主、これは──はわざとやってらっしゃるんですよね。信者の方から魍魎を引き剥がしてこの部屋に放つ。これだけ採れれば信者も安心だ」
(中略)
「き、君は何を云っているんだ!」
京極堂は兵衛の方に向き直った。
「寺田さん! あなたは怖くないのですか? (中略)他人の苦しみを、他人の不幸をこんなに集めてしまって、どうすると云うんです。これをひとりで背負(せおい)込んで、それで平気でいられる程強い人間などいない。(中略)ご教主、このままではこの部屋の歪みがあなたを殺す」

また京極堂は兵衛に対してこんなことも言っている。

「陰陽師が、何故神祇官の領域であった宮中の祭祀を、仮令(たとえ)一時的であれ独占することができたのかと云えば、それはそれまで祓い流してしまった穢れを、あなたと同じように一身に引き受けるような存在になったからです。彼等は穢れそのものになることでその存在を認められた。そして陰陽道が中央を追われた後、彼等は鬼そのものになってしまった」

 

オマケとしてアニメ版『魍魎の匣』の動画を貼っておこう。該当シーンは24:00頃から始まる。

 

治療家、セラピスト、ヒーラーなどは(もちろん私も含めて)、人の持つ穢れを何らかの形で引き受けることになる。だからこそ注意しなければならない。フリードリッヒ・ニーチェの『善悪の彼岸』の中の有名な一節。

怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ。おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ。(Wer mit Ungeheuern kämpft, mag zusehn, dass er nicht dabei zum Ungeheuer wird. Und wenn du lange in einen Abgrund blickst, blickt der Abgrund auch in dich hinein.)
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