Sofia and Freya @goo

イギリス映画&ドラマ、英語と異文化(国際結婚の家族の話)、昔いたファッション業界のことなど雑多なほぼ日記

「ウィキリークスの内幕」感想

2013-10-03 21:48:00 | いろいろ
今月北米&ヨーロッパで公開される映画The Fifth Estate。原作のひとつである本「ウィキリークスの内幕」を読みました。著者は元ウィキリークスの広報:ダニエル・ドムシャイト=ベルク、そう、ポスターにジュリアン・アサンジと並んでいる誠実そうな眼鏡の人です。本には「元No.2」なんてタイトルもついてます。




政府や大企業の機密のリーク部分や、新聞等のメディアの対応や動きも面白かったけれど、やっぱり1番面白いのは人間関係とアサンジがどういう人かってこと。巷ではこの二人のブロマンス映画だという説もあるようですが、ブロマンスって男同士の深い友情とすると、私にはそうは思えません。私が本を読んだ限り、ダニエルはジュリアンに「天才的なハッカー」として尊敬と憧れが混ざった感情を抱いていたけれど、ジュリアンのダニエルへの対応は始終友達なんてとんでもない、同僚でもない、部下扱いだったんですから。つまり関係は双方ではなく、ダニエルが一方的にカリスマに惹かれたんだよね?としかこの本のジュリアンの対応描写からは思えないです。

しかし謎なのは、当のダニエルがそれをどこまで分かっていたのか?彼によれば、ジュリアンは変人で、ウィキリークスのために働いた他の人達をも信用せず、独裁者だった、つまりウィキリークスのために尽くして報われなかったのは自分だけではないとのこと。だけどダニエルにとっては、初期のブレーンはジュリアンとダニエルのふたりだけで、技術的な仕事を任されたスタッフは後で数名現れたけれど、創設期から仕事を分け合って、有名になってからもスポークスマンとして取材を受けたと自負している。たぶんパートナーのような対等な関係だと思っていた。

しかし、ダニエルがウィキリークスを去った時には関係が修復不可能なほど悪化していて、それはジュリアンがダニエルをとにかく信用せず反逆者とみなし嫌っていたからなのだが、ダニエルにはそれほどまでに嫌われた理由がまったく思い当たらないのが、この本の不思議なところです!

これはダニエルから見た内幕なので、ここはやはりアサンジ自伝も読まねば、不公平というものなので、次に読もうと思っています。でもダニエル本から察するに、ジュリアンの方はダニエルを自分の組織の持ち駒の歩くらいにしか思ってない気がするので、本当は、ダニエル本と共に映画のベースとなったガーディアン・チームによる「ウィキリークス WikiLeaks アサンジの戦争」も読んだ方が第三者の客観的な目による二人の関係がわかるんだろうな。

ジュリアンは独裁者だけど、一方ダニエルの人柄は誠実で真面目で、分をわきまえた常識的な人だと本を読み始めた時は思った。自分の行動や思考を客観的に判断しているみたいだけど、でもやはりこの本は一人称、ダニエルの視点だ。ここで考慮しなくてはいけない点がひとつ。ダニエルはドイツ人。彼は取材も英語で受けてる英語には困らない人ではあるけれど、彼の思考回路はドイツ語なのだ。ドイツ語とは世界の言語の中でも直接的な、含みのない言語なのです。英語も我々日本語ネイティヴにとってはYES/NOのハッキリした言外の意味の少ない言語ということになっているけど、遠慮とか、空気を読むとか日本語の世界と同じにあります。しかしドイツ語にはそういう世界が薄く、気をつかってハッキリ物を言わないこと=正直でない不誠実だという価値感なのです。それはどういうことかと言うと、こちらが言いにくくてNOと言えないことを察してくれない。額面通りに受け取る。ドイツ人にはNOという意味のYESは通じないのです。私はそれでどんなに腹の立つ思いをドイツ人にしたことか!変人かもしれないけど、ジュリアンってあれだけ自意識の強い人だ、感受性は強いはず、つまり、ダニエルは自分の知らないところで、ジュリアンを相当怒らせてる可能性は高いです!!!



上のポスター、公式じゃないのでしょうか?トロントや北米の町に貼ってあるみたいだけど、公式の緑っぽいのよりも、私はこのコンセプトにとても興味があります。HERO とTRAITOR という文字が二人の顔に貼られて、その逆転バージョンも。つまり、1人がヒーローならもう片方は反逆者。ヒーローも反逆者も相対的な立場ということですよね。 



ダニエルが崇拝したカリスマ=ジュリアン・アサンジ。プラチナ・ブロンドとも言われるけど白髪は生まれつきなのか、それともマリー・アントワネットのようにある日そうなったのか。父は宗教団体に入って不在、母親と住所不定暮らしの少年時代が自伝に載ってるらしい(アマゾンの解説によると)興味深い。ダニエルによるジュリアンの奇行は自伝で解明できるのかな。




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さて、ここからは、非常に個人的な感想。読み飛ばしていただいて結構です。

私は昔、当時有名だったデザイナーの広報担当として働いてたことがあります。ファッション界というのは、デザイナーがいるブランドや会社なら、デザイナーをトップとしたヒエラルキーがある。そして成功したデザイナーには、変人やワガママも多い。腑に落ちないことですごく怒られたり、と同時に感情的な部分が非常に人間らしくて愛せる部分もある。私自身も、当時ファッション業界の人間としてそのデザイナー=上司を尊敬し、憧れながら働いていたので、ダニエルのジュリアンに対する感情をとても理解できます。(ただ私の場合は、本当に上司だったけど、ダニエルは友人でありパートナー的な対等な立場だと思ってたところは違います。)私も働き始めたばかりのころ、デザイナーをすごく怒らせたことがある。それは、宣伝費の管理は私の仕事だったので、デザイナーである上司にたのまれた買物で、予算を気にして意見をし、彼の希望のものを探して来なかった時。その時に、前職の広報担当の人が、私に悪気があったわけではないことをデザイナーに取り次いでくれて、そして前職の人が私には「デザイナーの言う事は絶対である」と諭した。私はその時に目に見えないヒエラルキーを理解したのですけど、そういう仲介者がジュリアンとダニエルの間にはいなくて、ジュリアンはダニエルを部下と思い、ダニエルは対等と思っている履き違いのまま時間が過ぎていったのじゃないでしょうか。ジュリアンにとってはなんてムカつく生意気な部下。ダニエルはジュリアンがなんで怒ってるのか意味不明。
ちなみにヒエラルキーを仕事のために受け入れた私は、部下として働きつつも、人間として愛情も抱いてました。変な人というのはチャーミングでもあるのです。かわいいところがあるのです。デザイナーと一緒に出張に行ったり、出版社の人との付き合いに同行したり、取材に同席したり、泊まりがけで働いたり、ショー前には一緒に徹夜したりしたので、ダニエルが死ぬほど忙しかったジュリアンとの、自分の理想の仕事を追いながら、世界を回りプライベートも見て来た日々を甘酸っぱい思慕の情を持って回想するのもわかるな。
と、ダニエルに感情移入しながら読んじゃったんですよね・・・・