ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

人生の数式

2023-07-03 11:49:42 | 

キャンパスの並木道

学生たちの若い声色に包まれながら

彼はベンチに腰掛け、遠くを見ていた

人に上り目線と下り目線があるならば

彼は下りを向いていた

 

学生時代の恩師が余命幾ばくもないと聞き

彼は地元に戻り、恩師の自宅を訪れた

最近、病院から移されたらしい

大きかった体は枯れ木のようだった 

すでに点滴も受け付けない状態だが

わずかに意識はあった 

 

「世話になったな」

小さな声で恩師は言った

「はい」と彼は短く応じた

そのやり取りは、20年前の出欠確認に少しだけ似ていた

本当は聞いてみたい事があった

「先生は幸せでしたか?」と

 

学生の頃、幸福は漠然としていた

しかし、根拠なき未来への自信はあった

今はそれが具体化され

大学教授になり、新しい家族にも恵まれた

それなのに幸福感が足りない

イコールにならない

「先生、これは難問です。簡単なようで難しく、難しいようで簡単な気はするのですが」

彼は足早に大講義室へ向かった

 

 

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