「詩客」短歌時評

隔週で「詩客」短歌時評を掲載します。

短歌時評第145回 国際タンカ協会の順当な活動 間 ルリ

2019-04-26 07:22:26 | 短歌時評

INTERNATIONAL TANKA (以後ITと略す)は日本歌人クラブ所属のTHE TANKA JOUNAL(1992~2017)の後継誌として2017年6月1日に第1号を発行した。発行しているのは、国際タンカ協会(International Tanka Society(以後ITSと略す)である。ITSの目的は雑誌の最終頁に英文で書かれているように定型の短歌(和歌)を世界に広めること。そのために日本語プラス多言語で短歌を書いてほしいというものである。自分の作品の発表だけでなく、著名な歌の英訳やスペイン語、ロシア語、フランス語、ラトビア語などへの翻訳も掲載する。ITSに世界各国より送られて来る短歌や俳句に関する出版物の書評も特徴だ。

 

ITTHE TANKA JOURNALから引き続き投稿してくる各国の著名なタンカ雑誌のエディターやライターの作品を鑑賞できる。例をあげれば、Eucalypt というオーストラリアで最初のタンカ専門雑誌の編集人のMs. Beverley Georgeやカナダで一番古いタンカ雑誌のGUSTSの発行人のMs. Uzawa Kozueなどである。海外会員は現時点で33名余である。この絆はTHE TANKA JOURNALから長年編集長を務めてきた結城会長の人脈によるところが大きい。

 

日本国内の会員も24名で、全国に幅広いネットワークがある。編集人の紺野万里は福井県在住であるが、原稿の提出はほぼ全員がメールで行い、頻繁にスカイプ会議をし、充実した誌面を企画、校正している。

 

また、海外会員が多いため、会費の徴収は多少でも困難がある。多くの会員はpaypalという送金方法を取っているが、小切手で送られてくると換金に手数料がかかる。昨年より会計をしている冨野光太郎は国内、海外に連絡を取り会計処理を支えている。

 

4号より発送業務を三上智子が担っている。海外への発送は印刷所からはできないので、三上氏がひとりで会報を封筒に詰め、国別に分けて郵便局から地道に行っている。

 

ここに会長の結城文の作品をIT 4号より引用する。

 

ベランダの手すりの上よりかたつむり大空をゆくヘリを見てをり

on the railing 

of my porch 

a snail looks up 

at a helicopter

in the great arch of the sky

 

また、編集人の紺野万里はラトビア民話「ダイナ」より邦訳の作品を載せている。

 

<LD4153>

Nevienam nesacīju

Savu lielu žēlabiņu,

Vējiņam vien sacīju,

Tas iepūta ūdenī.

I did not tell anybody

My great sorrow,

I told it to the wind only,

It wafted it into the water.

 

人に言へぬわが悲しみを風にだけ告ぐれば風は水に放ちぬ

hito ni ienu/ waga kanashimi o/ kaze ni dake/ tsugureba kaze wa/ mizu ni hanachinu

 

人には言へぬわが悲しみを風にだけ告ぐれば風は水に放ちぬ

 

ITSは題詠プラザという企画をしてきた。雪月花のうち雪と月を特集した。これは英語で送られてきたタンカを日本語に訳してローマ字表記し、海外の愛好者に日本語の歌の韻律を味わってもらうという試みである。

 

     ☽~~Amelia Fielden (Australia)

Not seeing/the moon or the stars, / I’m happy/in days of sunshine/while you are with me

月も星も探すことなし幸せは

tsuki mo hoshi mo/ sagasu koto nashi/ shiawase wa

日の差す日々に君とゐるとき

hi no sasu hibi ni /kimi to iru toki

 

さらにITSになってより新にチャレンジした仕事としてもう一つ「富士山大賞」が挙げられる。2018年は世界より107通の投稿があり、それをITSのボランティアが邦訳し審査員の岡井隆氏、穂村 弘氏、東 直子氏により選歌される。日本の国内会員も英語タンカと日本語の原作を投稿している。2018年の第1位の作品である。

 

another illness

another unknown mountain

to climb

lighting a thousand candles

in my comfortless room  

  

また増えし病は未知の未踏峰 千の蝋燭灯す侘び住み

Pamela A. Babusci   USA     

 

<総会のお知らせ>

ITSは総会を毎年1回開く。2019年は5月15日(水)13時30分より16時40分まで、新橋「ばるーん」201号室である。参加ご希望の方は  itstanka@yahoo.co.jp    までお問合せください。業務的な事業報告、会計報告他、ITS6号への意見、ミニスピーチ、IT 5号への提言や検討事項を話し合う予定である。