詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

タケイ・リエ「みとりとみどりと」

2018-12-22 09:20:31 | 2018年代表詩選を読む
タケイ・リエ「みとりとみどりと」(「現代詩手帖」2018年12月号)

 タケイ・リエ「みとりとみどりと」(初出『ルーネベリと雪』9月)。二連目、三連目がおもしろい。

あらしのまえにみんなを抱え
黙々とかくれ
ぬくぬく育ったみどりのなかを駆ける
完熟ライム
あまいにおいの夜
窓は濡れて意味を灯した

温度にふれる
みみべりをすべる
枝のおもしろさを手折って
肌と話しあった
ゆびがゆるりほどけ
ひとりでもふたりでもおなじあかるさ

 音が交錯する。「抱え」「かくれ」「駆ける」という具合に、行を越えて響くことばがある。その「か」の音は「完熟」という名詞のなかで結晶する。その瞬間「完熟」は「完熟する」という動詞にかわる。これが「あまい/におい」という迷路を通って、「意味を灯した」という、それこそ「意味/象徴」に変わる。
 どんな「意味」か書かれていないが、詩(文学)なのだから、これでいい。ひとはそれぞれの「意味」を抱え込んでいる。作者の「意味」につきあわなければならない理由なんかない。こういう瞬間にも「意味」は生まれるということをつかみとればいいのだと思う。
 タケイは意図していないかもしれない。私が勝手に、ここに「象徴」というか、「抽象」のようなものが動いていると思うだけなのかもしれない。
 「みみべり/すべる」「枝/手折って」「肌/話し」「ゆび/ゆるり」にも音が交錯している。これは一行のなかで動いている。「ひとりでも/ふたりでも」も同じ。
 だから、どうした、と言われると困るのだが、私はこういう音を聞くとなんとなくうれしくなる。
 「肉体」が音に誘われて動く。
 特に「みみべり/すべり」がおもしろい。「みみべり」ということばを私は知らないのだが、「みみ」の「縁」だと思って読む。「へりをすべる」か。確かに耳の縁はつるりとすべりそうだ。ひっかかるものがない。
 「肉体が動く」というのは、説明が必要かもしれない。
 私そのものが、何か大きな「耳」のへりを滑り台をすべるみたいにすべっていく感じがする。そういう「感じ」を「肉体」そのものとして感じる。「思い出す」というと語弊があるが(そんなことをしたことがないのだから)、でも「想像する」というよりも「思い出す」という感じが近い。
 ほかのことばも、想像するというよりも「思い出す」という感じで「肉体」で反復してしまう。
 そしてこの「反復感(?)」が「ひとりでもふたりでもおなじあかるさ」のなかで、「意味」になろうとする。反復することで「ひとり」と「ふたり」が「おなじ」になる。違うひとであっても、反復するということで、「おなじ」動きになる。その「おなじ」の感覚が「あかるさ」につながる。

 私の書いていることはあまりにも抽象的すぎるかもしれない。私自身にもよく分からないことを書いているからだ。「予感」のようなものを書いているからだ。
 こういう形でしか書けない感想もある。おもしろい詩は、たいていそうである。あとになって、ああだったかな、こうだったかな、と思い返す。それが少しずつ「肉体」のなかにたまっていって、私を動かす力になる。
 「正解」はない。


*

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