眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

作り笑い

2009-12-27 | 
作り笑いも趣きがあって良いよ
 君はそう云ってボルヘスの「幻獣辞典」を閉じた
  ぱたん、と音を立てて本を閉じるのが君の趣味だった
   
   作り笑い

   僕は君の言葉を何度も脳で再生した
    真夏の暑い日に
     開け放した窓から石畳の坂道をぼんやり覗きながら
      僕自身のひきつった笑みを想像してみた
       それはひどく哀しく鏡に映るだろう
        そうして孤独はいつも独白を伴う
         君がいなくなってからの僕の癖
          僕は住所を忘れて
           配達しそびれた一枚の葉書だった
            たぶん
             たぶん其の手紙は廃棄され処分されるのだ
              
             位置が解らない
            僕の位置からは君の影しか見えなかった
           残像だけがいちいち点在し
          実像には手が届かない
         いや
        真実はこうだ
       たぶん実像そのものこそが存在しなかったのだ
      影は
     影は光の悪戯だったのかも知れない
    そう口にした僕は自分の独白に辟易する
   また独り言だ
  風が吹き抜け大きな雲が少しずつ移動した
 記憶の街
画像の乱れたテレヴィジョンの郷愁

 何処かの国で誰が創ったのか解らない100年前のギター
  ケースから引っ張り出しメルツの小品を弾いてみた
   時が流れる
    忘却は救いだよ
     猫が眠たげにあくびをしながら囁いた
      ねえ
       壊れているんだ

       時計のことかい?

       そう。

      治せばいいさ。

     冷徹な意見が僕らの診断書に書き加えられる
    要修理。
   大きな音を立てて検閲に合格した判が押される

  作り笑いも趣きがあって良いよ

 君の言葉が何故かやけに哀しい

 誰かになる君は君という存在を寸分の狂いも無く消しゴムで消し去る

   作り笑い

    君は大人と呼ばれるだろうか?
     相変わらず僕は青い空の下ではっか煙草を咥えている
      消しゴムで消された君の影を探し出そうとしている
       君の実像は消えてなくなってしまったのに
        

       記憶が忘却されなければ孤独に耐えられないのだろうか

       そうして残された君の影を追い求める

       ヘンツェの「緑の木陰にて」を弾いてみた

         暑い夏の日

       僕にはいまだに作り笑いの趣が解らないのだ

         ぱたん、と本が閉じられる



            世界











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ワイン

2009-12-24 | 日記
いつかのクリスマス・イブに、一人でなにしようか途方に暮れた。
その話を知り合いの飲み友達のオヤジに話したら、酒を呑んでろと云われた。
 「だってお前、敬虔なクリスチャンは一切れのパンとワインで世界を祝福するんだろう?
    じゃあ、お前も酒呑んでパンかじれ。」

うーん。
オヤジのいうことももっともらしので、とりあえずワインを三本買ってきた。神様がどのくらい呑めるのか分らないけど、まあワイン三本は適当じゃないかな、と思った。
パンは用意しなかったけど、部屋の灯りを落としてバッハの無伴奏チェロ曲をちいさくならしてワインを飲んだ。

いいこともわるいこともあるけれど孤独はかなり地獄に近い様な気がする。
酔いがまわってきた。

もうひとつワイングラスを用意する。
それにワインを流し込んで乾杯をした。
あっち側へ旅立った、友達となんだかもう一度乾杯できるような気がした。

酔っ払った頭で想う。

  あんたが呆れるくらい生きてみせるからな~。



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5番街の肖像

2009-12-19 | 
5番街を抜けると
 路地裏で誰かが焚き火で
  冷えたこころを暖めようとしていた
   震えた手のひらをコートのポケットで握り締め
    僕は薄暗い街並みを徘徊した
     排水溝から汚染されたガスが零れる
      淀んだ川の水面には
       誰かの希望が沈んでゆく
        拳を叩きつけたコンクリートの壁に
         悔しさの赤がこびりついた
          
         トマトの赤が籠から落ちた
          宣伝された虚構が
           まるでなにかの活動の様にざわついた
            勘弁してくれ
             途方に暮れた深夜に
              煙草が切れるなんて
               灰皿をあさり
                吸殻を探し当てマッチで火を付ける
                 何時かの肖像

          徘徊した窓辺を
         抜け出した筈の領域は
        だがしかし
       いつまでも僕を捕らえて離さない
      無常な虚無感だけが肺の中に納まった
     暗闇では花の色は見えない
    通り過ぎる車のナンバーなど
   とっくに忘れた
  まるで最後に食したパンの切れ端とワインの赤
 いつかの絶望は全体何色だったのだろう?
空気が霞む
 テーブルライトの下で
  可能性が沸騰点に達し
   空間の中に消えて無くなってしまう
    永遠に5番街を徘徊する夢を見る
     誰かの空気が手招きをする
      声がする
       駄目だよ
        そっちはあんたの世界じゃない
         僕は振り向き
          青い月に独白する
           それなら
            それなら僕の世界は一体何処なんだい?
             声は聴こえなかった
              手招きを無視して又歩き始める
               
              がらくたの山に埋もれたジャンク屋
             僕自身が壊れ物の烙印を押された場所だ
            修理不能です
           ぴーぴーぴー
          ガガガ
         音声が冷徹に僕を分析した
        誰かが憐れむような目つきで僕を一瞥して
       パーティー会場に消えた
      トイレの鏡で自分の姿を見た
     赤い鼻をした道化が映っている
    青い道化だ
   それが僕だった
  ご機嫌にもあたまにひまわりの花を刺している
 皆が嘲笑した
僕も笑った
 引きつった笑みを絶やさずに
  舞台に立たなければならない
   大きな玉に飛び乗り
    勢いよく転んでみせる
     誰かが笑った
      僕は丁寧にお辞儀する
       いつかの肖像

       5番街の肖像
        永遠に終わらない物語
         救いの可能性は午前三時に消えた
          
          街の風景

           



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THETA

2009-12-14 | 音楽
雨が降りしきる。切なさの残像が浮かんでは消える。夜だ。僕はフランシス・コッポラというワインの瓶とグラスを抱えて部屋の灯りを落とした。そうして、ちいさなロウソクに灯を点けて、孤独と対峙した。
儀式なのだ。たまに、僕はそうやって自分自身を取り戻そうとする。寂しさは静かな安らぎだと云う人もいるらしい。sionはできれば勘弁してくれ、と歌った。全く同感だ。孤独を愛せない人間は哲学者にはなれない、なんてまことしやかに云った人もいた。僕はただの酔っ払いでいいので、グラスにワインを零す。
寂しいんだ。寒いのさ。ロウソクの灯だけが暖かく心を包み込む。
そうして、僕は音楽を流し始めた。

[seeds of the dream / THETA]
友人がCDを送ってくれた。その中の一枚がこの音楽だった。
僕はワインのボトルが空くまでこの音楽を再生し続けた。そして蝋山陽子さん- vocals, flute の歌声に心を集中させた。切なく、哀しい、そしてひんやりとした冷たい空気の清潔さのある声に耳を傾けた。魂というものが存在するなら、僕の魂は震えていたのだろう、自身の孤独と彼女の声が反応しあい。
僕は、声を押し殺して泣いていた。
そんな夜だった。

僕の音楽の範囲はある意味において限定されているのかも知れない。気に入りの音楽を何年も聴き続ける。工事ランプを頼りに街の路地を徘徊する。呼吸が白い息を発し、辿り着けないものを想って探し続ける。そんな聴きかたしか出来ない。たまに、孤独に耐えられなくなると誰かの声が聴きたくて、音楽に耳を澄まし歌声の吐息を想う。大切な声。忘れてはいけない声。それが蝋山陽子さんの歌声だった。
彼女が亡くなって二年の月日が流れたそうだ。
彼女は此処ではない何処かへ旅立ったのに、僕はその事実も彼女の存在さえも知らなかった。人生とはそういう風に出来ているのだろうか?でも今夜はワインを舐めながら貴女の声を聴いている・・・。
彼女のホームページに接続する。最後の日記の言葉の静かな波が、僕の感情を哀しみの青に染め上げた。他界した理由はわからない。ただ、重い欝状態が続いていたらしい。僕はただやるせない。孤独なんて嫌いだ。本当に嫌いだ。だから、今はいない彼女の歌声に涙した。

歌が流れる。いつか。僕の存在も綺麗さっぱり消えてしまうだろう。
声がささやく。孤独と対峙した儀式。
声が聴きたい。
再生キーを押し続ける。そんな夜に。

蝋山陽子さん、ぼくは貴女に魅かれるけれど違う道を歩いてゆこうね。
そしていつか。
その声を忘れてしまう時間が過ぎたなら。貴女に逢えるのだろうか?
どうか安らかに。
僕は馬鹿だから泣くことしかできない。


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赤い電話

2009-12-10 | 
赤い公衆電話
  君と僕とを繋ぎ
   彼と彼女を引き合わせた

コミュニケーションは電話線から発せられる
 
  ジリリン ジリリン

人待ち顔には暖かい音
寝不足のまどろみには不快な雑音

  やがて
 君も街角から そうっと 消えていなくなる
誰もかれもがそうであったように
 いなくなる 
 何時の間にか

   街角のうらびれた煙草屋
    赤い公衆電話をかけた
     10円玉をかき集めた

10円玉 10枚ぶんの 期待と不安
  優しさと 
   別れ話の茶番めいた滑稽さは
    まるで年老いたピエロに似ている
  道化の半分落ちかけた化粧のように
赤い電話には それなりの意味不明な妖しい魅力があったのだろうか?

10円玉 10枚ぶんの 夢と現実
   発せられた言葉が嫌になるほど懐かしくなる

   赤い電話
 
  今夜も雨らしい
  

  ジリリン ジリリン




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消失した夢

2009-12-07 | 日記
忘却の果てに、僕は名前を見失う。それは存在そのものの不確実さ。猫が泣いている。誰かの名前を呼んでいる。でも、野良猫の呼ぶ声には、もう応えられない。僕が名前を失くしてしまったからだ。アスファルトの路上でグラスを叩きつけて皆と別れた街の深夜。僕は永遠に名前を見失う。誰かが昔の名前で僕を呼び止めた。交差点の路上で、僕は呆然とし息を止めた。しばらく僕の顔を覗き込み、かつての友人は、「失礼。人違いでした。似ている人を知っているもので・・・。」そう呟き、わき目も振らず満員の電車に乗り込んだ。記憶が薄れ行く。薄明の白い空気のなか僕は見慣れたはずの駅の構内をぐるりと見渡した。
知っていて筈だ。僕を呼び止めた男が、かつて大切な友人だったことを。それでも僕には名前すらない。ぼんやりとした記憶の残流に身をゆだね、忘れる事を願った夜の感触にそうっと触れてみる。傷跡が風化し肉が盛り上がっている。撫でると、軽い痛みが走る。戻らないものを想って泣こうとしたけれど、神経が硬い殻に覆われ真実に近ずく術を知らない。青い月夜を想った。
僕の名前は何だったんだろう?思い出そうと必死になる。誰かがまた名前を呼んだ。聴いたことのある響き。けれどもそれは、たぶん今の僕の名前ではなかった。
雨の夜。
僕は車を止め、シートを倒してラジオの声を聴く。下らないお喋りと反吐の出そうな音楽が流れ続けた。煙草に灯を点け在りもしない夢の続きにすがった。奇妙に寒い夜だった。僕は忘れた名前を想い出そうと努力する。消えて無くなった顔と思い出せない名前。誰が僕を暖め、誰が僕を寒い夜に部屋から追い出したのだろうか?いや。あのとき逃げ出したのは僕の方だったんだ。
記憶に蓋をした。
灰色の部屋で、ワインを空けフランスパンを引きちぎって食べた。壁の落書きにはラテン語で「Memento_Mori」と書き殴られている。
   「死を想え」
対立した概念。死を想い生に這い蹲る。僕の名前は一体何だったのだろう?
ながいながい時間、呼ばれなかった存在のかたちはいつしか変容し、同じ名前など何処にも存在しなかったのだ。もちろん例外なく僕の名前もこの瞬間に、永遠に消失される。フライパンで肉を焼き食べた。ブラックペッパーを入れ過ぎたようだ。刺激が舌を麻痺させ今日も眠れそうに無い。遣り残した膨大な雑事に振り回され、公園のベンチの記憶が薄らぐ。あのとき、真剣に語った言葉はどうして省みられなかったのだろう。風が街の路地を吹き抜ける。言葉は意味を見失った。
表層のあらゆる認識は、すべて誤認だ。あるいは物語に記された幻想。
ワインの最後の一滴を零す。ウイスキーの瓶の蓋を開けた。
空き瓶を作らなくては。君に長い手紙を書いて瓶に詰め、何処か都合の良い浜辺から海に流す。僕の独白はいつか君の手元に届くのだろうか。差出人は不明のままだ。僕には名前が無いから記入できなかったんだ。海水の湿気にやられ、手紙は多分永遠に判読不能だ。そうしてそれこそが僕の真実だった。
忘却の果てに、僕は名前を見失う。
病室の白い壁は清潔だ。ひんやりとした空気の中、おぼろげにギターを弾いた。グリーンスリーブスを就寝時間まで弾き続けた少年。おれんじ色の非常灯の灯りが暖かかったのを憶えている。やがて忘れ行く記憶。憶えている名前と忘れ去られた名前。どちらの数が多いのだろう。消え行く静か過ぎる沈黙。
缶詰めのビーフシチューをなべで温めたのは深夜の出来事。喉がやけに渇くので、グラスに残った氷を齧った。
    「死を想え」
猫が泣いている。誰かの名前を呼んでいる。
でも、野良猫の呼ぶ声には、もう応えられない。
かつて野良猫だった僕の記憶は、もう戻らないんだね。消えてしまった大切な仲間達と同じように。
乱雑なる意識の混濁。容赦なく、肩に雨が降りしきる。


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優しさの資格

2009-12-03 | 
オレンジを皮ごとかじりながら少女がつぶやいた。
  「ね、優しさの資格って何だと思う?」

僕は珈琲の入ったマグカップをこぼさないように机に置いた。
少女が何処か遠くの方を見つめながら何かを尋ねるとき、それはとても大切な話なんだ。
僕は一息呼吸を入れて慎重に言葉を選んだ。

  優しさに資格なんているの?

少女はおおきな瞳で、僕を検査する様に覗き込んだ。

   あたりまえじゃない、そんなことも知らないの?

  僕は珈琲に少女にばれないようにブランデーを混ぜた。

   たとえば?
    少女はオレンジの皮を地面に吐き捨てながら答える。

    たとえば。
  「優しさにもいろいろあるわ。押し売りみたいな優しさ。自尊心をくすぐる優しさ、哀れみのこもった迷惑なものからありとあらゆる種類の優しさが陳列されてるの。」

  それで、可愛そうな捨て猫を見るように僕の顔ををぼんやり眺めた。

     あなたも十分気をつけることね。

  問題は、優しくしたい、というエゴが相手を傷つけることにあるの。
   ほんとうに必要な優しさなんて、そんなに多くないんだから。
    優しさは、

   彼女はオレンジをかたずけてしまってから煙草の箱に手をのばした。
    あいにく中身はからで、それを面倒くさそうにひねりつぶした。
     僕は吸いかけのはっか煙草を少女に渡した。

    ありがと

    そう云って、深くまるで深呼吸するみたいに煙を吸い込む。

   優しさは
    優しくされる人が許してくれる行為なの。
     優しくすることを許してくれる人がいてはじめて成り立つものなの。

    優しくされて、みんなありがとう、なんて云うけど。ほんとにありがとうを云わなくちゃいけないのは優しくすることを許されたほうなのよ。
     だって、優しくする対象がいなかったら誰に向かって優しくするの?

    だから優しくするには、それなりの資格があるのよ。
      
  それから、優しさについて考え込む僕のテーブルの下からとっておきのブランデーの瓶を引っ張り出して、口をつけてごくり、と飲み干した。
 それ、すんごくとっておきなんだけど。
僕の云うことには耳を貸さない。
 とっておきのお酒は皆で飲むものよ。あなた、さっきからかくれてのんでたでしょう?見てたんだから。

   心配そうな僕を覗き込んで、
  大丈夫。あなたとわたししかいないから、分け前は十分よ。

  そういってとても可笑しそうに笑った。

    あなたも気をつけることね。

     優しさの押し売りに。

  少女はブランデーの瓶をかざしながらつぶやく。

 今日は久しぶりの良い天気だ。

庭には草木が嬉しそうに咲いている。








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信仰

2009-12-01 | 
深夜三時のショットバーで
 カウンターの隣にいた男がぶつぶつ独り言を呟いている
  僕はバーボンを舐め
   店のマスターは地球の様な球体の氷をアイスピックで刻んでいた
    狭い店内には
     我々三人しか存在しなかった
      まるでこの世界にただの三人しかいない様な
       絶望的な時間帯だった
        マル・ウォルドロンのレフト・アローンが
         哀しげに店の空間に漂っていた
          レフト・アローン
           僕は胃袋に酒を流し込んだ

           神様を見たんだ。

          完璧に酔っ払った男が僕に語りかけてきた

         神様。
        ジェフ・ベックでも見たのかい?
       僕がそう云うと
      男は不満気に意義を申し立てた

     神様だよ、神様。
    あんた見たことないのかい?

   天使すら見たこと無いよ。
  
  本当に?

 もちろん。

男はまたぶつぶつ呟きながらグラスを煽った

  僕は少しだけ悪い気がして男に話しかけてみた

   友人にさ、火星人を見た奴なら昔、独りだけいたよ。

    火星人。本当かい?

     ああ。
      もっともそいつ自身がまるで宇宙人みたいだったけどね。

       どんな奴?

        ザック・ワイルドみたいな格好でジャクダニエルを飲んでた
         信じられない位、指が速いギタリストだったよ。

          火星人か。
           男は少し機嫌を良くした
      
            その友達は神様を見たのかい?

            その辺のことは分らないけれど
         火星の衛星に宇宙人の前線基地があると寿司屋で云ってた。
        焼酎を舐めながら火星の地図を描いてくれたよ。

       で、その友人は今何処で飲んでるの?

      さあ?最後に連絡が来たとき
     会社を辞めてハワイに行く、と連絡があったよ。

    ハワイ。ハワイでなにをしてるんだい?

   スカイダイビングのインストラクターになるとか云ってたけど。

  男はマスターに酒を要求した

 それで?

それっきりさ。15年間連絡も無い。

 あんた、それってさ。

  男はごくりとウイスキーを飲み干した
 
   そいつ、神様に会ったんじゃないの?

    深夜三時のショットバー

     呆れるくらい無駄な会話が流れる
      無口なマスターが氷を球体に削って
       レコード盤を変えた
        静かにセゴヴィアのギターが響き渡る
         どちらかというと
          僕はジェフ・ベックの方が聴きたかった
           
         
   
          ねえ、本当に神様見たことないのかい?

           ないよ。

            そのうち会えるといいね。

             男はカウンターに突っ伏して眠った

              店のマスターが迷惑そうに首を振った

               神様ですか・・・。

               マスターが呟いた

              ジェフ・ベックでも聴きます?

             僕は頷いてバーボンのついた氷を舐めた

            「哀しみの恋人達」が流れた

           

           やがて朝が訪れるだろう






   


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