眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

ボレロ

2013-05-31 | 
世界がまだ美しかった頃
 僕は少年と呼ばれ
  静かな寮の自習室で
   ラバーソウルを聴いていた   
    音楽は震えるほど甘美で
     他の追随を許さない
      ジャニス・ジョップリンの
       かすれた声が表層を支配した
        ジミ・ヘンドリクスのギターが
         紫色の煙草の煙に巻かれた

         僕は詩を描いている
          冬の或る日
           君を想い
            窓から見える景色を想い
             夢見ている
              夢見ている

              誰かがギターを弾いている
               タクシーの男が云った
                人を失わないように、と

               世界がまだ美しくあった頃
                蝶の標本が沢山載った
                 ヘルマン・ヘッセに耽美した
                  僕は僕で君は君で
                   世界は
                    たおやかな甘美の青に包まれた

                    マグカップの珈琲だけでいい
                     何も要らない
                      君の雑音の果てに流れる歌以外は


                洋ナシのタルトを美味しそうに啄ばむ小鳥には  
               葡萄の皮の苦味など無分別だ
     
              凌駕せよ
             この終焉にも似た悪しき嗜好品の目録
            ワイン
           煙草
          音楽
         腐乱した勇気
        全ては絶望と呼ばれた

       貴賓室で待ち合わせた
      僕はシガレットを咥え
     惰眠を貪る午前零時の出来事
    皮肉にも君が遠ざかる記憶の図式
   春が来るだろう
  桜が満開に佇み
 僕等は永遠の17歳だった
未完のエンドレス
 嗚呼

  嗚呼

   呼吸音に喘鳴が木霊する
    苦しいのさ
     無作為だよ
      この呼吸の仕方は
       まるで洋ナシのタルトの技法
        魔法だ
         世界がまだ美しかった頃
          僕は少年と呼ばれた
           皮肉な幻影で
            君は君を想い
             僕は校舎の屋上で煙草を吹かせる

              嗚呼

               嗚呼


               呼吸に苦しむ自我


              こんな筈じゃあ無かった絶望の孤独


             ワインに溺れた自堕落な

            僕の日常


           震える呼吸音


          僕の誕生日


         誰かが産まれ

        誰かが旅立つ日


      日常


   ね

 
  眠れないよ


 眠れない







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病室

2013-05-04 | 
世界の様相に触れた瞬間
 汚れた電話ボックスの窓に雨粒がへばり付いた
  僕は深夜三時の電話を待っている
   記憶が寸断された世界で
    君との約束をいつだって待っている
     封印された魔法の番号の組み合わせ
      
     僕等の唄を皆が笑った
      呆れるほどに
       僕等は真剣に冗談を云い合った

               小鳥のさえずり
                昼間のビールの緑の瓶
                 皆既日食の日
                  太陽が翳る
               刹那の微温
               36・9分の微熱
               電子体温計の不穏  
               螺旋の嘘
               未払いの水道料金
               金子光春のインキ壷の中からの抵抗


      薬が切れたんだ
     君は診察室で先生に訴える
    脈拍の上昇
   看護士が手馴れた手つきでバイタルチェクする
  呼吸音がまるで届かない真夏の午後
 僕は6本目のビールに手を伸ばす
忘れないでいて

 空間は左様な形で変質し
  其の時間帯は病室の白い壁と
   白いカーテン
    清潔な白いシーツの惰眠
     エアの空気管
      
      しゅー、しゅー

       すー、はー すー、はー

        孤独な呼吸音は
         すべからく世界の端っこ
          其処から先は駄目だよ
           この世界から零れ落ちてしまう

            テレヴィジョンから韓国映画の台詞が流れる

             僕は観察していた
              まるで朝顔の成長日記の如く

             ボーリングのピンが割れた
            係員を呼ぶ怒声は
           あの時の君の叫び
          忘却する記憶の残り香
         夏だ

        暑い日に
       僕等はレモネードを飲んだ
      からん、と哀しく氷が鳴る

     忘れないでいて

    ハンバーガーを齧った
   ビールで飲み干して
  夏休みという世界に鎮座した陽光
 海に近い場所で君の存在の提示を待つ
いらいらと警官が切符を切った
 
  午後
   紙煙草に火を点ける
    螺旋階段を昇ると
     あの小惑星に辿りつけるのだろうか?
      青い月は余りにも遠い
       ジャックダニエルの瓶
        転がり始めるヴァイオリンの余韻
         不必要に多い倍音の響き
          夏だ
           世界の端っこで誰かがピアノを弾いた
            忘れられない曲
             置き忘れられた主旋律

             魚の影は見つけたのかい?

            サカナ?

           そう。君が永遠に探し続ける青い記憶

          先生が微笑んだ

         サナトリウムの夏

        僕の泣き声が聴こえるだろうか?

       君に会えない

      キミにアエナイ

     アエナイ

    病室の午後





  清潔な嘘




冬から夏への手紙









コメント (2)
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