眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

白い肖像

2014-04-28 | 
ショートカットの少女は
 キャンバスに向かい木炭でデッサンをしている
  真剣な眼差しで林檎と木切れに集中し
   それを誰にも分からない抽象で戯画した
    僕は煙草に灯をつけ
     緑色のソファーに寝転びビールを飲んだ
      やがて暖かい季節が訪れる或る日の昼下がり
       庭の洗濯物が綺麗に日光浴される日の事だった

       僕はビールを飲んでしまうと
        数少ない友人からもらったスコッチを舐めた
         そうして
          遠い国へ旅立った友人との記憶を舐めた
           奇妙に化粧臭いウイスキーだったのだが
            あるいは僕の味覚が可笑しかっただけの話かも知れない
             けれどアルコールでありさえすればそれで良かったのだ
              世界は化粧臭い事物で溢れ返っていたし
               僕と友人は少々刺激に飢えていた
                だから
                 丸眼鏡のサングラスをかけ
                  白いヘルメットを被った君が
                   最後に残した酒としては満点だった

                   ご覧
                  化粧臭い世界を
                 残されたサーカスの道化師達の様な酒を
         
                僕は想い出す君の仕草を真似て
               苦々しく煙を吸い
              空き缶に吸殻を突っ込んだ

             ねえ
            動かないで

           少女が僕に命令した

          どうしてさ?

         あなたのデッサンを取っているからよ。

        どうして?

       あなたが安楽な姿勢だからよ。
      ソファーに寝転ぶ酔っ払いはすごく魅力的なの。

     君、あたま可笑しくない?
    ソファーに寝転んで煙草を咥えている人間が魅力的な訳ないじゃないか?
   どちらかと言うと人生の落伍者の哀れな末路の様だよ。

  人生の落伍者のあなたに興味は無いわ。
 わたしが求めているのは安楽な姿勢だけよ。

そう云って少女はグラスに酒を注ぐ僕を厳重注意した

 動かないでよね。
  ただでさえ退屈なあなたが動くと
   余計に退屈さが浮き立つもの。
    あなたはね、
     あなたらしく怠惰に酔いどれて
      深い眠りにつくべきなの。

       脅しかい?

       違うわよ、ただ安楽な姿勢が欲しいだけなの。

        しばらくそうしてじっとしていて。

         少女に異議申し立てをしようとして
          僕は諦めて空を眺めた
           青い空に白い雲がもくもくと立ち伸びていた
            この空はきっと何処かの国の空に繋がっている
             そう想った
              君の国の空に繋がっている
               そんな気がした
                世界は心地よい陽気に包まれ
                 酔いどれの僕は
                  緑色のソファーで安楽な姿勢を取り続けた

                  万物は流転するのだ
                 酔っ払いの空想と同じ様に
    
                世界がその詳細を宛名書きした頃
               僕は眠り続けていた
              様々な出来事や
             かつて友人だった人々の夢を見た
            いったい彼等は何処に消え去ってしまったのだろう
           意味の無い虚無に襲われた時
          寒さに震えて目が覚めた
         夕暮れ時の哀しみがやがて訪れた
        
        ね
       どうして泣いているの?

     少女が不思議そうに僕を見つめた

    夢を見たんだ

   夢?

 そう、

みんなが幸せである夢。

 そう。

  どうしてそう想うの?

   どうしてもだよ。

    あなたの肖像画が描けたわ

     僕は少女が描いたはずのキャンバスに目を向けた

      そうして其処には何も描かれていない真っ白な白が存在した

       気付いていたんでしょう?

        少女が憐れみの眼差しで僕を見た

         そうだね、
          想像していた通りだよ。

           ただ白いだけの肖像画

            燃え尽きた白い灰

             僕は途方に暮れる

              それが僕だった

               あの日と同じ

                僕だった





























或る画家に向けて

清潔で清らかな眠りを
























  
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エレジー

2014-04-18 | 

 薄明の下の表層
  壊れやすい希望の衰弱した意識は  
   ただ呼吸音を機械的に繰り返すのだ
    酸素濃度のパルスを受診す
     あの日想い出した懸想が界隈を赤い舌で舐める
      エアの音
       鼓膜に輪廻した夜想

        綺麗な夜
         清潔な不穏と
          帰宅願望の少年
           君の居場所は何処だい?
            黒猫が皮肉に歌うエレジー

            希望のありか
             魂の行方
              戯れて見せたのは道化師の三番目の幕
           
              翡翠の玉座の王は
               哀しみに憂い
                世俗を垣間見る
                 やがて消え去る童夢

                 近距離で発砲した銃弾は 
                  この壁に風穴を開けてくれる筈だったのに
                   風の木霊が聞こえる
                    寸分たがわぬエレジー

                 やがて僕らは
                乖離した意識の果て
               優しい夢を見る
              蛹が蝶になる瞬間
             虚空に向かう
            清らかなる閃光
           其の光にて
          我等の原罪を贖罪してくれたなら
         僕は甕の水を
        ワインに変えて見せるのに
       道化の足取りで
      綺麗な夜だった

     愛している
    あなたを愛している

   ぴーぴーががが

  ノイズの向こう側
 羅針盤の針が夕暮れ時に惑う意識の分解
誰が誰のために優しく微笑み
 怯えて暮らすのだろう
  暮らしは瑣末な雑事に忘却するのだ
   消された記憶たち
    タップダンスの要領で
     君はグレゴリー・ハインズの足裁きで
      煙草の吸殻を揉み消すだろう

       愛してる
        君を

         綺麗な夜
          ねえ
           お伽が似合うよ
            赤いワンピース
             ハイビスカスの様な色彩の魔法
     
             眠れない夜
              綺麗だ

              冴えた思考は
               震える魂の寝床
                うっすらとした薄明の朝
                 やがて意識下に埋没される夢物語

                 甘いテノールの響きで
                  どうか僕らを眠らせて
                   甘いお菓子を

                   静かな清潔な夜

                 僕らは君の赤いワンピースを夢見るのだ

                辿り着けない地平

               其処を最果ての国と名付けた

              綺麗な夜

             意識は君を想う

            君を想う

           君を想う











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止血

2014-04-01 | 
身体引き受け性の責任の重さ
 箇条書きにされた契約事項にうんざりとした朝
   的確な条件など
    ウィスキーで戯れて酩酊する意識では
     理解出きる筈も無い
      困惑のリピート記号
       ダルセーニョマークを見失う
        全体何小節目に飛んでいるのだろう?
         
        飛ぶ鳥が羽を休めた午後のひと時
       僕らはかいつまんで事態を把握しようと試みる
      消えてしまった記憶
     誰かの掠れた笑い声
    触れた手のひらの繊細な暖かさ
   だんだんと溶け行くアイスクリームのチョコレート
  意識が空を舞う深夜
 あるはずの無い奇行に夢を抱くのだ
あの
 あの卵を抱く少女の如くに
  或いは何時かの少年時代の深夜の散歩
   路行く人は誰もいない道路で
    たまには車のテールランプが流れ去る
     まるで忘却する記憶の階層の様に
      
      壊された部品を求めて旅に出た
       砂漠の温度は高くって
        うんざりしたように少女が呟く
         「あなたの部品、ほんとうにみつかるの?」
           昨日まではあったと思うんだけど・・・。
            それは幻想だったんじゃないの?
             少女が僕の瞳を覗きこむ
             本当は
            ほんとうはなにも存在してなかったんじゃないの?
           それは全て夢の産物だったんじゃないの?
          彼女の視線が僕の混濁した意識にパルスを送る
         もしそれがほんとうなら・・・。
        君の云うようにそれが本当だとしたら
       僕はこの現世では壊れ物なんだろうね?
      そういうことになるわね、たぶん。
     
     壊れた機械と壊れた記憶は美しい事
    身体という概念と心の暗中模索は
   時として星空を旅する夢の希望的観測
  缶詰めのコーンビーフを開けようとして
 指先を切った
赤い線がそうっと流れ始め
 僕はその光景をただ懐かしく想い出していたのだ
  少女が僕の指先にくちびるをあて
   止血してから可愛そうに、という瞳で僕を見た
    あなたは
     あなたは馬鹿なのよ
      止血の仕方も知らないくせに
       いつも血を流してる
        白いハンカチで上手に傷口をふさいでくれた
         もう大丈夫だわ
          
          もう大丈夫だわ

           
           心配しないで


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