眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

同じ日

2010-07-30 | 
1965年8月
 
  
  「Help!」

  
  とジョン・レノンが叫んだ


   
    まったく同感だ





    「あんたの音楽、悪く無かったよ」



     黒猫のハルシオンが呟いて



      雨の降りしきる街角へ消えた







       Help







          Help me,


           
             I`m Fool In the Rain














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愚者

2010-07-04 | 
空間の余白に白線を引いた
 そこからここまでは君の領域
  このまるい部分は僕の世界
   少年は冷たく言い放ち
    優しさのかたちをした十字に
     赤いワインの一滴を零す
      赤い線が流れる
       世界の境界線
        僕が正常だと定義し
         君が良識の範疇外に指定した虚脱の空間
          僕はただワインを舐めている
           僕は世界を舐め回している

           あんたが指定した座席に
          全体どんな存在意義が或るのさ?

         野良猫が鉄柵の上で憐れむ視線で僕を認識する

        待ってよ、ハルシオン
       違うんだ。そうじゃないんだ

      黒猫の口元が皮肉に舌なめずりをした

     違う?
    違うって何が違うのさ
   あんたはそういう言葉を使ったんだ
  言葉は魔法の第一定義なんだ
 いいかい。誰かが世界の始まりに「光あれ」と云った
そうして世界に光が存在したんだ
 あんたは
  あんたはその言葉を使ったんだよ
   意味を知らなかったのか邪気だったのか
    そんな事は問題じゃない
     あんたはこの世界で言葉を使ってしまったんだ
      消えない唯一の事実さ

       ハルシオンの赤い舌が髭を舐めた

       僕は僕の限りに於いて
        優しさのアリバイに執着した
         言葉で優しさを表現しようとして
          無数の失敗を繰り返した
           
         失敗?
        違うよ。あんたの生き方の問題さ。
       違うかい?

      黒猫が爪で楽器の弦を引きちぎった
     世界の終わりの音がした

    クレーン車が空き地に佇んでいる
   孤独なクレーンが青い月と重なった
  僕はただ独りで青の中ビールを飲んでいる
 そこには虚無の感覚だけが残された
全てが零れ落ちた
 何も無かった
  手のひらには何も残らなかった
   僕は愚らない虚無だけを大切に握り締めていた
    大切な何かを今度も失った
     愚かさの代償に
      詭弁と自尊心の滑稽さが舌を出す
       赤い舌
        云い訳の効かない劇薬
         其れを小瓶から出してワインに零した
          
         あんたさ
        何時までそうやって生きてつもり?

       フィリップモーリスを咥えて誰かが云った
      広い部屋には誰もいなかった
     誰かが重たげに煙を吐き出す音がした
    時計の在る場所を求めたけれど
   暗闇で何も視界に入らなかった
  雨の音がした
 降りしきる雨が止まない
僕は大切な何かに果物ナイフを突きつけたのだ
 青臭い林檎の香りがした
  唐突に音楽が途絶えた
   僕はやはりこの現世に戻ってくるべきでは無かったのだ
    
    どうしようもないよ

    ハルシオンが面倒臭そうに呟き
     僕はただ自堕落に酒に溺れた
      水面に光が射したような気がしたけれど
       全ては気のせいだった
        どうしようもないのだ
         僕自身が愚かさに塗れた粉飾された
          虚偽の記載事項だったからだ
           時間だけが過ぎ行く
            しかし時計の針は見当たらない
             
            それでも
             それでもあんたは言葉を紡ぎ続けるんだね?

             黒猫が尋ねた

            帰って来やしない者の為に
           大切な物を失ってもまだ
          あんたは言葉を使って世界を続けてゆくんだね?

         僕は酔いどれた頭で何度も転んだ

        もはや悔い改めることなど出来ない

       出来れば冷淡な苦笑を

      蔑みのスープの生暖かさで

     馬鹿にしてもらえれば

    少しは笑って見せられる



  僕は









   
     
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誓い

2010-07-03 | 
泣きたい夜に
 独りきりでお酒を飲むの。
  少女はウイスキーで溶けた氷を
   ざらついた舌の上で転がした
    周辺の言葉は
     余白を許さぬ大人達の領域で
      彼女はふと怯えた表情になる
       大丈夫
        全部記憶の残渣さ
         怯えなくても君は素敵な大人になる
          素敵な恋をして
           緩やかにお母さんになるんだ
            君のお母さんがかつてそうだったように

            じゃあ
           あなたとこうしている世界はどこに消えるの?
          記憶は磨耗されるんだ
         古臭いネガフィルムの記憶の断層は
        やがて薄れて灰になる
       君はそうやって僕を忘れるんだよ
      あらゆる事象がそうであったように
     少女は哀しげな目つきで憐れむように僕の瞳を覗き込んだ
    あなたは
   そうしてあなたは何処に消えるの?
  鯨は
 死期が近ずくと鯨の墓場に消えるんだ
或いは
 捨て猫の姿が急に消えて無くなるだろう?
  あの類さ
   少女はグラスのウィスキーの角で僕の額を冷やした
    馬鹿みたい。
     あなたは居なくならないし
      わたしはまだあなたと過ごす時間が必要なの
       誰も消えてなくなりはしないわ
        どんなに哀しくても?
         はっか煙草に灯をつけ
          深く深呼吸をしながら少女は微笑んだ
           どんなに哀しくてもよ
            あなたもわたしも消えてなくなりはしない
             そんなこと絶対に許さない

             少女はボトルに残った記憶を飲み干した
            ねえ。
           わたしは馬鹿なのかな?
          君が馬鹿なら僕はさらに付け加えて大馬鹿だ。
         はっか煙草の先端が彼女の前髪を焦がした
        質問していい?
       どうぞ。
      僕はワインのコルクを抜くのに手間取った
     
     「絶対に正しいことはないし絶対に間違ったこともない。」

    あなたはこの答えに反論できる?

   絶対に間違ったことはない、には同感だけど。

  絶対に正しいことがあるの?
 少女の茶色の瞳が僕を審査する

誤解を怖れずあえて云うとしたら

 「詩」はどんな人にも訪れる

  貧富の差も人種の壁も正しい人にも罪人にも
   愚かな権力者にも貧困の子供らにも
    
   「詩」は必ず平等に訪れる

    そこには決して妥協がない
     そうして其れは救いなんだ、と想うんだ。

      そう。
   
       少女はにっこり微笑んで
        僕がグラスに注いだ赤いワインを舐めた

         変化する努力を
          変化しないものを受け入れる勇気を

           ねえ。

            救われた気持ちになるの。

             哀しい夜にお酒を飲むと。

              大丈夫。

              青の月夜

              哀しい夜に



             あなたがここにいて欲しい





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