眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

虚飾鏡

2012-04-29 | 
世界の中心点で愛して
 狂おおしい刹那の波動で
  やがて花が咲き枯れる様に
   枯渇した井戸の底に
    僕等は魂の寝床を封印した
     壊れゆく沈黙と
      打算の無い地団駄の孤独
       消え去るのなら
        ねえ
         お願い
          消え去るのならいっそ

          誇り高き野良猫の黒が
         優雅にあくびをする
        魔法を操れる民の如く
       彼の瞳が流れた
      氷が溶けるんだ
     容赦ない人々の群れに闇を眺む
    辛辣なる太陽の日差しが
   彼にピストルを持たせた
  弾丸は入っていないよ
 くすくす笑って
君は銃口をこめかみに突きつけた

 太陽が溶け
  月が消え行く
   世界はまるで磨耗された白黒フィルム
    ねえ
     あのネガは何処に消えたのさ
      きっと其処に
       僕らの真実が詰まっているんだ
        愚らない現実のオブラートに包まれていない
         怠惰で神秘的な愚弄が
          
          僕等はかつて僕らだった
           信じられるかい
            僕等は僕ら以外の何者をも必要としなかった
             
            ご覧よ
           少年が呟く
          あの小鳥は病室の窓ガラスにぶつかって
         ちからなく堕ちたのだ
        眼鏡の縁を悪戯しながら先生が微笑んだ
       ICUに入れようかな?
      
      ねえ、先生。

     なに?

    ここは一体何処なんですか?

  難解な質問ね。

 髪の長い女性は僕の瞳を覗き込んだ

いつかの風景
 いつかの想い
  いつかの声
   風の鳴る音
    風鈴の声
     君が君でいられた世界
      君が蔑んだ日常
       君が望んだ世界
        空気の澄んだ深緑の草原

        あなたは本当に忘れたの?

       描写された幻影が紅い唇で口ずさむ歌

      忘れてはいけない歌

     忘却の彼方の地平で少女が歌った歌

    僕らは約束したのだ

   やがて花が咲き枯れる頃

  見せてよ

 オブラートに包まれていない現存在を

枯渇した意識の深い井戸の底に仕舞っている夢の名残を

 波止場で宿泊した夜

  フロントで鳴らした呼び鈴の残響音

   本当に此処が何処か忘れてしまったの?

    少女が哀しげに指をさす

     扉だ


     向こう側だ




      行こう




     生きている


    愚かさに塗れていても



    粉飾された


    
    虚飾鏡 







     








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幻影

2012-04-07 | 
壊れかけた錆びた愛車で
 煙草を口に咥えている
  沈み行く夕日の光の加減で
   煙が紫色に染まった
    アクセルを踏み込んだ瞬間
     まるで君が歩いている幻覚を見た
      僕は驚いて振り向いたけれど
       君の後姿がバックミラーの端から消えた
        やりきれない想いで僕は深いため息をつく
         デジャ・ヴィウ
          記憶の階層が螺旋状で
           いつまでたっても
            星空には近ずけない
             
            もし目が見えなくなり
             耳が聴こえなくなったとして
              五感が永遠に失われるなら
               僕は世界に遮断されひとりぼっちで
                サンドウィッチを齧らなければならない
                 孤独とは
                  午前三時に飲むスコッチに似ている
               
              大切なひとから突然連絡が途絶える
             僕はため息をつき
            煙草に灯を点ける
           いつか伝えようとした言葉を
          云わせてくれる隙も与えず
         僕の五感は閉ざされ
        永遠にひとりで緑の森の迷路で迷子になる
       哀しくて
      精神は崩壊するのだろうか?
     僕は君と一緒にいたかっただけなのに
    ただそれだけだったのに
   世界の果て
  樹海の森で限りなく孤独になるのだ

 世界の果ての森はひとりぼっちには辛すぎる
僕は何度も路に迷い
 魔法使いに路を尋ねる
  何度も路に迷う僕に呆れて魔法使いの家の扉は
   いくら叩いても返事がない
    
 神様の使いだという天使がにやにやしながら僕の前に立っていた
  君さ、誰かを探しているのかい?

   大切な存在を探しているんです。

    サヨナラは云ったのかい?

    さよなら?

    魔法の言葉だよ。さよならを云うと
     大抵の人たちは永遠に再会できない。二度と会えないんだ。
      この世界の決まりなんだ、悪いとは想うけど。
       それで。君はさよなら、と云ったのかい?

       僕はひとしきり考えて答えた

        さよならは云わなかった。

        そう。

       天使は嬉しそうにワインのボトルを取り出した
      ならいつか会えるはずだよ。
     君が忘れず誰かが君の存在を憶えているならね。
    グラスに赤いワインがそそがれた
   待てばいいんだよ、ただそれだけ。人生は比較的単純に構成されている。
  それに。煙草もワインもたっぷり用意してきたんだ。
 天使でもお酒と煙草を飲むの?
天使はふくれ面をして少し怒って見せた
 お酒と煙草が嫌いな天使なんてきめつけないでよ。
  人間の創った勝手な常識なんて迷惑してるんだ。
   挙句に天使なんていない、なんて決め付ける。散々な扱いだ。
    云っとくけどさ、くだらない常識なんて捨てちまえばいいと想うよ。
     世界にはいろんな意見はあるけどサ。
      お酒と煙草が好きな天使がいたって誰にも迷惑かけてないのに。
       それに。おいらはあんたのことを救いに着たんだよ。
        救いに?
         そう。

        僕らは煙草を吹かしながらお酒を飲んだ

       ね。僕を救いに着たんでしょう?

      まあね。
     天使は上機嫌で鼻歌でビートルズの「FOR NO ONE」を口ずさんでいる
    だいぶ酔っ払っている様子だ
   ひとつ質問があるんだけど。
  いいよ、なんでも聴きな。

 世界はいったいな何で創られているの?

天使が一瞬真面目な顔になった

  夢さ

   夢?

   そう。世界は夢で構成されているんだ。

    いいよ、信じなくても。

     天使がワインの空き瓶を振り回しながらふて腐れる
      まるで反抗期の子供だ

       でもね、世界は夢で出来ているんだ。

        僕は煙草の煙を深く吸い込んだ


       幻影の君は真っ直ぐに前を向いて歩いていた
         あれはたしかに君の影
        会いたくて会えない虚無の憂い
         
         苦しいよ

        お願いだ君に会いたい


         
         夢





             
        
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春の出来事

2012-04-03 | 
震えるほどの郷愁を
 僕らは世界と呼んだ
  桜が満開で
   長い石畳の坂を登ると
    其処にかつての僕の姿が現れるのだ
     少年は気に入りの詩集を手にし
      そっと辺りを見回してから
       隠れる様に煙草に火を点ける
        それから桜の木下で
         煙を吹かし詩集に目を落とす
          
         不確かな存在
          君はまだ気付かない
           音楽室に忍び込み
            教師しか触る事が許されなかったオーディオで
             古臭いレコードに大切に針を落とした

             ジョン・レノンのアルバムだ

             そう
            憶えている
           かつての記憶の残渣と共に
          僕らは椅子に座り込み
         煙を嗜みながら音楽に集中した

        ふいにアルトリコーダーの音色が聴こえた

       何の前触れも無く
      君が現れた

     また君かい?
    音楽室の備品は勝手に使用する事を禁じられているんだ。
   それに、煙草。
  未成年なのに煙草を吸うなんて

僕は面白そうに言葉を並べた

  学校の備品は我々学生のものだよ。
   それに神様は何も禁止しちゃいない。
    煙草もワインもね。

    君は呆れれた顔で僕を穴が開くほど眺めた

    それで君は音楽室で煙草を吸いワインを飲んでいるんだね?

     そう。よかったら君も一杯どう?

      今すぐ煙草とワインをかたずけるんだ。
       僕が担任に云いつけるまでにね。

       僕はため息を吐きながら残ったワインを一息で飲み干し
        煙草の根元まで吸い終えてから
         シガレットケースと灰皿をかたずけた

         これで文句無いだろう。
          それと、
           君のリコーダー良かったよ。
            ショパンをリコーダーで吹く奴がいるなんて、
             まるで冗談さ。

             聴こえてたのかい?

            君は一瞬顔を紅くした

           聴こえてきたんだよ。
          比較的まともな音楽だった、不愉快にならないくらいには、ね。

         馬鹿にしてるの?

        君は大真面目で僕を問い詰めた

       そうじゃないさ。ずいぶん感心してるだけだよ。

      そういって僕は黒いギターケースから楽器を取り出した

     ギター弾けるのかい?

    下手くそだけどね。コード弾きくらいなら問題ないよ。
   なにを突っ立ってんさ。早く何か吹いてよ。

  ギターに合わせて吹くのかい?

 君は少しばかり神経質だった

でも音が漏れると先生達に見つかるし。

 やれやれ、と僕は呟いた

  ここは音楽室なんだ。音楽を探求する僕らが文句を云われる筋合いはないね。

   君は軽くうなずいてリコーダーでグリーンスリーブスを吹いた
    僕は簡単なコード進行で伴奏をひいた

     曲を吹き終えると君は興奮気味に僕に語りかけた

      すごく楽しかった。
       一人で吹くよりずっとね。

      ね、取引しよう。

     取引?なにを?

    僕は君が飽きるまで伴奏するよ。だからさ、

   そう云ってワインのボトルを取り出し煙草に火を点けた

  内緒にしようよ。お互い様だしね。

 一瞬むつかしい顔をして
  それから君はワインのボトルを僕の手から奪い取って
   ボトルのままワインを飲み干した

    僕は微笑みながらビートルズを弾き始めた
     少年がほろ酔いでメロデイーを奏でた

      
       不確かな存在
          君はまだ気付かない

        
       震えるほどの郷愁を
        僕らは世界と呼んだ
         桜が満開で
       長い石畳の坂を登ると
    其処にかつての僕の姿が現れるのだ


       もう消え去った存在


        宇宙のどの位に位置するのだろう


         かつての僕


        
        かつての想い出たちは

















         
        
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