眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

羅列される月夜

2012-12-16 | 
訪れた虚無感に怠惰する
 昼過ぎまで惰眠し
  ただ限りなく毛布に包まったいる
   煙草を取り出し縁側で火をつける
    重く垂れ込めた空の下で
     青い月夜を想った

     清潔な青に染まった夜
      僕等は大学の構内を散歩した
       いつもの通りの道筋をゆっくりと歩み
        池のほとりのベンチに腰掛けた
         他愛の無い話に熱中し
          あるいはただ黙って沈黙の中の世界に埋没した


          先輩、これからどうするんですか?

          君が呟き僕等は並んではっか煙草を吸った

           正直なところ、全くどうしていけばいいのか
            皆目見当がつかないんだ。

           君が面白そうに微笑んだ

            なんだか他人事みたいに話すんですね、自分の事なのに。

            青い月夜
           僕等が愛した永遠の理想郷
          わざわざ窓際を乗り越えて
         僕等は静けさの青の中に埋没した
        ふいに心が震えた
       数日後には友人もこの世界からいなくなる
      僕は永遠に取り残されるのだ
     この青い世界に

    手紙書きますね。

   後輩は優しい瞳で僕をじっと見つめた

 住所と連絡先だけは教えてください。

僕は小さくうなずき
 やがて消え去る連絡網を想った
  みんないなくなるのだ
   それはどうしようも無いことなのだ

    僕等が辿る人生は
     結局のところ独りきりだし
      独りでいることが出来る強さを持った者だけが
       大人と呼ばれた
        繰り返される青い月夜の晩だけが
         壊れそうな精神を優しく包み込むのだ
     
         先輩とビール飲みながら散歩する夜
          好きでしたよ。

         僕等はそっと乾杯をした

        彼女が旅立つ未来

       そうして永遠に青い世界の中の僕に対して

      

      そっと雨が降り始めた

     どうしても孤独に耐えられない深夜に

    僕は言葉を紡ぐのだ

  まるで手紙を小瓶に詰め遠い国へ流れ着く様に

 誰かがその手紙を見つけてくれる事を願いながら

孤独は甘い味で僕の虚無を無関心にさせる

 青い月の夜

  壊れやすい魂の均衡

   青い月夜













    
コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

銅版の三日月

2012-12-09 | 
街にいる頃
 僕は黒いギターケースを抱えて
  寒さをしのげる珈琲店をさがした
   古ぼけたビルの2階にあるその珈琲店は
    珈琲一杯でしばらくの間寒さをしのげた
     いつもの様にマフラーを外しコートを脱いで
      マンデリンを注文した
       珈琲が出来上がるとそれを舌先で転がし
        心地良い苦味と共に
         ショートホープに灯をつけ
          深呼吸するように薄紫の煙を吸い込んだ

          狭い店内では美大生らしき数人の学生が
           つまらなさそうに建築雑誌を眺めたり
            人生の答えを見つけようと
             世阿弥の言葉に熱心に読みふけっていた
              僕はただ黙って煙草を吹かしていた

              店の半分のスペースは
               小さなギャラリーになっていて
                写真や抽象画や彫刻が展示されていた
                 珈琲を飲み終わった僕は
                  そこに足を運んだ
                   予定なんか何も無かったし
                    退屈しきっていたからだ

                    ギャラリーに足を踏み入れると
                   若い女性がルー・リードを聴きながら
                  退屈そうに座っている
                 僕は彼女に一礼してから作品を眺めた
                
                それらは不思議な作品だった
               全てがいびつに出来ていた
              例えば針の無い時計や片足の無いマネキン
             齧られたままの林檎
            彫刻は天使が地上に堕落した表情で
           いつまでも不服を申し立てていた
          
          どう?あたしの子供達。

         振り返ると受付で退屈そうな表情をしていた女性が
        僕の後ろに立っていた
       人の気配が全くしないので僕はとても驚いたのだが
      なんとか愛想笑いを浮かべ
     この作品たちを上手く表現できる言葉を探した

   斬新ですね。

 女性は退屈そうに煙草に灯をつけた
それから僕に向かって薄紫の煙を吐いた

  僕は仕方なく別の表現を探し出した

   壊れ物ですね、みんな。
    何かが決定的に欠如していますね。

   そう云うと女性は満足そうに微笑んだ。

    君、まだ子供の癖にいい表現をするね。
     壊れ物。うん、そうだね。
      それで君は壊れ物は嫌いかい?

      女性はそう尋ねて面白そうに僕を見つめた

       嫌いではないですね。

        僕はそう答えた

         人も物も完全などありはしない
          いつも何かが足りなく
           いつか存在の欠落に涙する

           金髪のショートヘアの女性は
            三日月のネックレスを手にし
             僕に手渡した

           君へのプレゼントだよ。それ。
          いいんだ。ここで作品を展示するのは今日が最後。
         客なんて数少ない友人数名と君だけだったからね。
        なにかの縁だと想ってさ、もらってよ。

       僕は三日月のネックレスを手にし
      彼女に問いかけてみた

     壊れ物は嫌いですか?

    彼女は微笑んで煙草に灯をつけた

   それから後ろ向きに振り向き
  手をひらひらさせて何処かへ消えていった

僕は彼女がくれた三日月のネックレスを
 
 しばらくギターケースに巻き付けていた

  寒い冬だった

   街に白い雪がちらちらと降り始めていた

    僕は店を出ると

     マフラーに顔をうずめる様にして

      街角にたたずんだ

       
       銅版で作られた三日月のネックレスを眺めながら

















   
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

残像

2012-12-08 | 
どうして君はあんなにも音楽を愛したのだろう?
 いつもの部屋で
  君は何度も音階練習を繰り返す
   ゆっくり運指を確かめる様に音を紡ぎ
    だんだんと指の動きが速くなる
     加速する指が指板の上で
      まるで道化師のようにくるくる回り始めると
       難解な運指の解読に諦めて
        僕は窓辺で煙草に火をつけた
         紫色の煙がゆっくり立ち昇り
          灰色の空に消えていった

          ねえ
           そんなに何度も音階練習を繰り返して
            よく飽きないね。

            そう云うと君は少しだけ目を上げて呟いた

             時間がないんだ。

              時間?

              そう。
               僕や君や彼等彼女等の一瞬は
                すべからく通り過ぎてゆく
                 約束された明日なんて来ないかもしれない。
                  それは世界の戒律なんだ。
                   昨日と同じ今日、
                    今日と同じ明日は存在しないんだ。
                     こうしている一瞬にも
                      此処は過去になっているのさ。
                       全ては
                        全ては磨耗され消費されてゆく
                         だから
                          その想いを祈るしかないのさ
                           全てが幸せである様に


                  その音階練習が祈りなのかい?

             皮肉な僕の言葉を聞き流して
            君はアラン・ホールズワースの様なレガートで
           難解なパッセージを軽々と弾き飛ばした
          それから僕にベースギターを弾くように促した
         僕は煙草の灰が床に落ちるのを気にしながら
        6弦ベースを調弦した
       そうしていつもの様に僕らは音楽を始めた
      寒い冬の午後
     暖房の壊れた部屋で
    マフラーをしっかり首に巻きつけて
   煙草を吸ったり 
  珈琲を飲みながら
 僕らはまるで永遠に続くあのユートピアを想像した
世界は清潔な清らかさで僕らの音を祝福した
 
 永遠に続くはずだった世界

  永遠に一緒だと信じていた記憶の破片

   やがて夜になり
    青い月が顔を出し
     窓の外の風景に街灯が灯った
      誰かの人生がその青い世界で嘲笑された
       大人
        誰かが笑った
         だがその皮肉な喜劇の主役は後の僕の姿だった
          誰かが空のビール瓶を投げつけた
           瓶は僕の頬の横を通り過ぎ
            汚れた壁で粉粉に割れた
             壁には落書きがされていた
              壁には青い扉が描かれていた

              タッピングでトリルを続けながら
               僕は君が歌うのを待った
                僕の描いた詩に旋律をつけ
                 ギターを弾きながら君は即興で歌い始める

                 野良猫たちが空き地に集い
                パレードを祝って
               すっとんきょうな声で云う

              さあ
             パレードだあの街の向こう
            そこでまた始まる
           始まりはいつもの広場
          水の無い噴水
         空に舞い上がる赤い風船
        飛行船
       ワイン
      深夜の徘徊
     止まない頭痛
    不確かな時計
   壊れやすい水

  僕らの

 僕らの世界


   時間がないんだ

    君がそっと云う

     この世界も消え行く

      君も

       僕も

        忘却のメソッド

         ただ

          このままが

           このままが

            
            地面に叩きつけられて

             粉々になった緑のビール瓶

              時間が無いんだ


               だから君は


            失われた世界で今だってずっと音楽を止めないんだろう


             いつか磨耗され消え去る世界の中で

      
             永遠に音を紡いでいるのだろう


             哀しいけれど

            僕には君の歌声は聴こえないんだ

           失われた扉の鍵を

          僕は探し続けているんだよ

         
         何処にいるの



        ねえ



       君






















        
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする