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眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

四月の夢

2025-03-28 | 
雑多な出来事は
 いつの間にか
  優しく降り注ぐ霧雨の様に
   薄いヴェールを世界に音も無く覆いかぶせる

   悪夢を見た子供たちの
    ちょっぴり興奮気味の心拍数

    最新鋭の飛行機が落ちそうなので
     やっぱり熱気球にすべきだったなんて
      可笑しいね
       変わりに飛ぶ夢を見た

    夢のなかで夢をみている

   誰にも見えない
  場所を探して
 三日月の夜は
遠く 遠く
 酔いがまわる
  
  「もしかしたら」
  は
 在りもしない夢の末路
暮らしぶりはいつだって
 予感をはらませる
  
        しらふの時に云ってよね

       僕には

      しらふの時に行ってよね

     と聞こえたんだ

    四月
   入学式の頃
  馴れない街で
 初めて食べた弁当と
満開の桜を憶えている

  綺麗だ


赤い花

2025-03-28 | 
凝縮させた記憶の場所に
 赤い花が咲いた
  如雨露で水をかけ
   しばらくぼんやりと煙草をふかした
    庭園は世界の果て
     懺悔した我々の密やかなる夢 
      君が残し
       僕が受け継いだ意思の下
        誰にも聴こえない歌を歌った今日と昨日と明日
         古臭いギターケースから楽器を出して
          哀しいけれど少し歌った
           ラムネの甘ったるい記憶
            風鈴がちりんと鳴った

            赤い花
         
           君はあの時代そう呼ばれ
          ふてくされた表情ではっか煙草を咥え
         つまらなさそうにギターを弾いた
        僕はグラスのウイスキーを舐めながら
       こんな時間が永遠に続くといいと想った
      このままが
     このままが
    真夏の昼下がり
   風鈴の歌

  ねえ
 僕らは十年後にどうしているだろうね?

ぼんやりと酔いのまわった頭で僕は彼女に尋ねてみた
  
 赤い花は珍しく優しい声で答えた
 
  あたしは赤い花のままだわ。

   いつまでもね。

    僕は?

     あなたはたぶん名前を忘れるわ。

      そしてあたしの顔も髪型も影の形も忘れるの。

       どうして?
        君のこと忘れるはずが無いよ。
         それに僕は君のそばにずっといるんだよ。

         赤い花は可哀想に僕を見つめた

          あたしはこの場所に残るわ。
           あなたは此処から旅立っていくの。

            僕だって何処にも行きはしない。
             この場所に残るよ。

             決まりなの。
              あなたの十年後はこの場所ではないのよ。

               風鈴が哀しくささやいた

                ちりん

               哀しい時には歌って。

              それで哀しみを分かち合えるわ。

             僕は残ったウイスキーを飲み続けた

            永遠はいつまでたっても訪れなかった

           時代が変わり世界が通りすぎ僕は縁側でビールを飲んでいる

          スピーカーから戸川純の歌が流れた
   
         「蘇洲夜曲」

         泣きたくなる青い空の下

        赤い花が綺麗に咲いた













 

春のバスタブ

2025-03-26 | 
虚飾された世界で
 粉飾された電波を打電する
  不可思議な世界で
   ただ眠りたいと想う朝の10時頃
     バスタブに湯を張って
      何も考えずにビールを飲んだ
       生暖かい風が
        何だか春らしい
         小鳥のさえずり
          庭に咲く花びらの加減
           光が差す日曜日
            安息の日を望み沐浴した

            神様と試行錯誤した深夜
             sionの「12号室」を聴いた
              病室の静けさと清潔なシーツ
               無音の錯誤
                誰かがピアノを弾いている
      
                 届かぬ想いは辟易とした記憶の有象無象
                  歌うたいの少女が
                   ギターを抱え
                    水の無い噴水で歌をささやく
                     誰のためでもない世界  
                      君は笑うのだろうか?
                       あの頃と同じように   
                        皮肉な陽光の加減で

                        小さな鍋で水を沸騰させ
                         卵を三つ入れた
                          ラジオから流れてくる音楽を聴いていて
                           忘れかけた頃
                            卵をそっと救い上げる
                             割れたゆで卵に塩を塗し
                              ワインで流し込んだ
                               そっと優しい酩酊が訪れる
                                縁側で煙草にそっと灯を点け
                                 庭の木々を眺めた
                                  

                                  あなたがここにいてほしい


                                  春だ
                                 日差しの優しさにまどろみ
                                ワインのボトルを空けながら
                               なんだか少しほっとした
                              酔いつぶれて眠っても
                             誰も意義を唱えなかった
                            あの頃を想い出し
                           苦笑しながら独りで酒を飲んだ


                          あの頃の僕等は
                         ただ楽しくて
                        終わりが来るなんて誰も気付かない

                       お風呂から上がると 
                      縁側でビールの空き缶を作る事に余念がない12時
                     ギターを取り出して歌った
                    陽気なふりをしてジャンゴ・ラインハルトを弾き
                   ブルースを手癖でひとつふたつ
                  いつの間にか僕は此処に居る
                 煙草を吸った1時頃
                フランスパンをちぎってワインで租借し嚥下した

               人が何と忠告しようと
              僕の成分はお酒と煙草で出来ているらしい
             気だるい朝
            眠れない夜
           きっと月夜の晩に
          テインカーベルが囁きにくる
         パレードはあの街の向こうよ

        窓から逃避した夜空は静かで
       永遠は
      摩耗された記憶の層に鎮魂された鳥の化石
     深い井戸の底に眠るかつての友人達
    あの洋館で繰り広げられた終末さえも
   やはり訪れなかった

 永遠を探しているの?
緑の草原で少女が尋ねる
 僕は珈琲を飲みながら苦笑する

  永遠なんて無かったよ
   皆、消えてしまった
    すべからく僕らがそうであるように

     あなたは歌を忘れたの?

      そうじゃないさ、
       毎日が忙しすぎるんだ。
        或いは
         毎日が退屈すぎるのさ

         少女は黙ってギターを弾いた
          酔いどれの僕は
           少女の伴奏にでたらめな旋律を付け加えた
            時が優しくほほをなぜる
             居なくなった誰かが僕に合図を送る

             思念は表層の自堕落
              ゆっくりとさ、
               お湯に浸かるといいよ

                午前のお風呂は優しい

                 鳥の声が聴こえる

                  静けさの中

                   ほろ酔いで花びらを眺める
   
                    静かだ

                     そんな春の訪れ

                      眠りには

                       魂を再生させるちからがある

                        柔らかな眠りを

                         そっと君に贈る

                          君を愛している

                           たとえ冗談にしか聴こえなくても

                            永遠に君を愛しているんだよ

                             君はきっと笑うだろうね

                              いつもの皮肉な微笑みで

                               くすくす

                                くすくす
















哀しい青の空の下

2025-03-21 | 
哀しいくらい青い空の下
 僕は清潔な空気に触れながら青い林檎を齧った
  此処が現実なのか遠い国の出来事なのか
   今日も分からずにただワインを舐めている
    お腹が空けばフランスパンを齧って
     安い酒で胃袋を満たした
      知らない国の知らない鳥の鳴き声が聴こえた

      飽きもせず空を眺める僕に
       君は微笑み声をかけた

        あんたの世界はまるで夢だね

         夢?

         そう。

          あんたの構成物質でこの世界は構成されているんだ。

           君はそう云って齧りかけの僕の林檎を奪い取った
            それからシガレットケースから葉巻を2本取り出し
             1本に灯をつけ
              僕に手渡した
               キューバ産のパルタガスを燻らせ
                ただ静かに水面の表層を撫でた
                 哀しいくらい青い空の下で

                 あんたはこの空虚な世界を愛しているのかい?

                誰も彼もが立ち去った今生に

               いつまでもしがみ続けるのかい?
              まるで
             荒唐無稽な物語を創り出す
            チャールズ・ラトゥジ・ドジソンや
           サン・テグジュヴェリの様に
          いつまでも此処にいるつもりなのかい?

         僕は分からない、

        と呟いて白く灰になった葉巻の先端を
       丁寧に白い灰皿に落とした
      まるで忘却された記憶の欠けらの様に

     あんたが望むなら
    おいらはあんたのその悪夢から逃れさせてあげるよ
   そうしてまた新しい世界を覗かせてあげるよ

  黒猫のハルシオンがジャック・ダニエルを舐めながらそう云った

 悪夢?

そう。

 あんたが探しあぐねた路地裏の界隈を抜け
  あんたが永遠に探し続ける誰かの影に
   追い着けれる様に時間と空間を超越させてあげれるのさ

    猫は美味そうに葉巻を燻らせ
     紫色の煙を舌先だ転がした

      上等の葉巻だね。

       猫は独り言を呟き僕の深層心理を模索し始めた

        全てはね、夢なのさ。

         この世界は青い月明かりの下の世界
          誰かを待ち続ける街角の街灯なのさ
           あんたは一歩も動けずただ立ち尽くしているんだ
            悪夢だよ
             決して目覚めること無い世界の緩衝
              もう魂は血流が無くなって
               感覚すら探し出せないんだ

               僕は
              ピアノに向かって歩き出し
             鍵盤の正しい音を探して歌を紡ぐ
            静かな界隈
           雑踏とした意識の向こう側

          不意にフィルムの中に
         あの影を見つけた
        もう永遠に会うことが叶わない意識伝達
       君は何処の物語の世界に紛れ込んでしまったのか
      お酒を浴びるほど飲んだ時だけ
     磨耗された記憶の絞りかすが存在を訴える
    
    ねえ
   何処にいるの?

  僕の問いには答えず
 君の影がしらんぷりして歩き出す
僕は12の扉を一つずつ開け
 その全てに困惑する
  どの世界が現実なのか
   失われた世界をさまよっている
    哀しいくらい青い空の下

     もっと飲みなよ

      誰かがそう云ったけれども
       それが誰なのかすら分からない
        オイルサーディンの缶詰めを空けて
         僕らはいつまでも飲み続けた
          誰も騙そうとはせず
           誰も騙されなかった
            注ぐ酒が切れるまで
             僕らは優しい夢をみた

             僕らは僕らの世界の存続の為に
              この世界からの脱出を試みた
               偽造パスポートの不備で
                僕だけがこの日常に取り残されたのだ
                 青い空の下
                  悲しみだけが伝染した

                  ねえハルシオン。
                 僕の額にはしるしがつけられているのかい?

                猫は哀しそうに答えた

               残念だけれど
              あんたは預言者ノアの箱舟には乗り込めない
             あんたの額のしるしは原罪なんだ
            それを誰かが贖罪する日は永遠に来ないんだ
           だからあんたは水の底の世界の静けさに
          魂を拘束されているんだ
         そうしてそれを本当に望んだのは
        あんた自身なのさ

       深夜に豆のスープを飲んだ
      胡椒が利きすぎている
     昼食を終えると
    僕は図書室でヘルマン・ヘッセの「蝶」を眺めた

   君が微笑んだ
  長い前髪が風に揺れた
 今夜も眠れそうも無い
深酒を繰り返し
 僕は途方に暮れる
  旅立つ箱舟を見送りながら
   いつまでも夢の中でまどろんでいる
    いつか世界の終わる頃
     ぼくは水の中から青い空を見上げ
      忘却された記憶の箱を抱いている

       大好きだよ

        君の事

         もしもね

          世界が終わっても

           君だけを探しているんだ

            可笑しな話だけれども

             探しているんだ

              青い空の下


               哀しみの染みが

                どんなに洗濯を繰り返しても

                 消えないんだね

                  額のしるしは




                  哀しいくらい青い空の下で














   

プレゼント

2025-03-18 | 
あの日あの時間違えた別れ道で
 僕はいつだって憂い
  煙草を吹かせて哀し気に微笑んだ
   何時かの微笑
    困惑した世界の中心点で黒猫があくびする
 
     ねえハルシオン
      どうして僕は現世にいるのだろう?
       もう誰も居なくなってしまった世界で
        どうして僕は楽器を弾いているんだろう?

        黒猫は何も答えずに優美に紙煙草を嗜んだ
         それから一枚のタロットをめくった
          「道化」
           くすくす微笑んで
            黒猫は楽しそうにワインをグラスに注いだ
             僕は途方に暮れて空を見上げた
              あの日に少しだけ似た
               重く垂れ込めた灰色の世界
                地団太の孤独
                 少年時代から出遅れた足音
                  オルゴールが鳴り始め
                   世界が終焉を迎える頃
                    あの日あの時の一瞬
      
                    僕はギターを弾いていた
                     カルリの練習曲を弾き
                      回らない指でジュリアーニの楽譜をさらっていた
                       中庭の卓球台で試合を楽しんでいた男性が
                        お調子者らしく
                         エリック・クラプトンは弾かないのかい?
                          と口笛を吹いた
                           「ティアーズ・イン・ヘブン」
                            その頃
                             みんなこの曲に浮かれていた
                              僕は黙って
                               ランディーローズの「Dee」を弾いた
                                退屈そうにみんな中庭を去った
                                 僕は黙々と楽器を弾いていた
                                  とてもとても寒い冬の日だった

                                  寒くないの?
                                 声に驚いて顔を上げると
                                先生が優しそうに珈琲カップを僕に手渡した
                               口にした珈琲がとても暖かかった
                              寒くないの?
                             彼女はもう一度確かめるように尋ねた
        
                            寒いですよ、もちろん。

                           手袋をすればいいのに。

                          手袋をしたらギターが弾けないんです。
                         僕の答えに彼女は
                        それもそうね。
                       と呟いて巻いていた緑色のマフラーを取って
                      僕の首に巻いてくれた

                     暖かいよ、それ。

                    でも先生が寒いでしょう?

                   大丈夫。医局は暖房が暑いくらいなの。
                  それに素敵な音楽で気持ちが暖かくなったから大丈夫。
                 あとね、
                煙草は控えめにね。

               そう云って彼女は建物の中に姿を消した
              残された緑色のマフラーはいい匂いがした

             先生は忙しそうにカルテを抱えて歩き回っていたけれど
            僕がギターを弾き始めると何処からか現れて
           曲が終わるまで興味深そうに聴いていた
          それから
         また聴かせてね、と云ってすぐに何処かに消えた
        不思議な先生だった
       でも僕はその先生となんとなく気が合った

      こんにちは。

    そう云って先生が中庭のベンチの僕の隣に座った

   今日は忙しくないんですか?

  私、今日お休みなの。

 休日出勤ですか?

そんなところ。
 ね、良かったら何か聴かせて。

  僕は魔女の宅急便の「海の見える街」を弾いた
   曲が終わると先生は満足そうに微笑んだ
    それからキャンデーを僕にくれた
     煙草のかわり。
      そう云って自分の口にもキャンデーを放り込んだ

       不思議よね。
        どうしてそんなに指が動くのかしら?
         私の指も練習したらそんなに動くのかな?

          出来ると想いますよ。

           彼女は笑って無理よと呟いた。

           私、不器用なの。手術もそんなに上手じゃないし。
            
           僕はなんて云ったらいいのか分からず黙り込んだ

          先生は悪戯っぽく、嘘よと微笑んだ。
         僕等は二人でくすくす笑った

        先生は他の先生たちと飲みに行ったりしないんですか?

       どうして?

      いつも此処にいるから。

     そうね。人が多い処が苦手なの。それに。
    それに他の先生たちとは大学が違うから

   そういうの関係あるんですか?

  それはやっぱり人間関係だから。

 なんだかままならないですね。

そうね。ままならないわ。
 そこにいつも貴方のギターが流れてくるのよ。
  花を見つけた蜜蜂みたく吸い寄せられるの。
   お陰で仕事が溜まって休日出勤なの。

    ごめんなさい。
     僕が謝ると、
      嘘よ。信じないで。
       と可笑しそうにくすくす微笑んだ

        此処を出たら大学に戻るの?

         キャンデーを舐めながら先生が尋ねた
          僕は途方に暮れて空を眺めた
           
           あなたはたぶんもう大丈夫。
            何処に行ってもね。

             僕は先生にマフラーを返そうとした

              いいの。あげる。

               いいんですか?

                うん。
                 あなた今日何の日か知ってる?

                  知りません。此処にいると時間や日にちが曖昧になって。

                   クリスマスよ。
        
                    プレゼント。それ。
                     いつもギターを聴かせてくれたお礼に。
                      

                      ね、いつか私にも教えてくれる?


                       何をです?

 
                       ギター。


                      教えてね。


                     そう云って先生は建物の中に入っていった

      
                    三日後


                   僕は其処を去った


                  先生に挨拶をする事は叶わなかった


                 ねえハルシオン。


                先生ギター弾いているかな?


               懐かしそうな目で黒猫は空を眺めた


              冬の日


             掠れかけた記憶の残像


            クリスマスプレゼントの想い出
























         
                        

橋の上

2025-03-16 | 
アーチ型の古い橋の上で
 別れた雨の日に
  傘は持っていなかった
 人は皆なにかを失う

  雨宿りという言葉は知りもしなかった
   純粋さを求めた
    琥珀色のウィスキー
     誰の為でもなく生きていけると信じて
      疑わなかったのは
       僕の神経が張り詰めていたんだね
        ヴァイオリニストのピッチカートで
         弦が一瞬の内に切れたんだ

        星空は素敵だ

       惑星の配列を眺めるのは面白い
      果たして僕は
     一列に並ぶそのどこら辺に位置するのだろうか?
    
    橋の上で初めて待ち合わせをしたのは
   いったい本当にあった出来事だったのだろうか?
  不ぞろいの意識下では
 記憶は曖昧な盲点をついてくる
  
   ね、教えてよ。

    僕は安易に酒に溺れ
     容易に事態を収拾させようとする
      無駄な戯言
       そうして事態は困難をきわめた

     雨の橋で出会い
      雨の橋で別れを告げた
       刻印された者達は
        時間が解決してくれると口をそろえた

       ね、教えてよ。

      かたん、と
     
     音を立てて写真立てが倒れた

    歪んだ記憶の曖昧な代弁者は

   酔いの淵を溺れる歪んだ暮らしを錯綜する
  僕のアリバイ
 疑心暗鬼の警官達が
手馴れた尋問で職務質問す

    橋の上の小さな出来事

     咀嚼できず今も想い出すんだ




        

愛煙家

2025-03-11 | 
寛さんはいつも窓際の席でぼんやり煙草を吹かしている
 通りがかった僕に「ちょっと来い」と命令する
  僕は、忙しいのでという言い訳を口にするが
   お前の愚らない人生に忙しい事なんかあるもんか、といきなり全否定だ
    書類を抱えながらため息をこぼしつつ彼のそばに座る
     若い看護士が訪れ
      煙草は身体に悪いですよと苦言を呈す
       身体に悪いと死ぬのかと寛さんは僕に尋ねる
        たぶん健康には良くないでしょうね、と答える僕に
         死んだら吸えないのだから生きてるうちに吸えと
          滅茶苦茶なことを云って
           ピースを一本差し出す
            一服した僕の顔を眺めて
             美味いか?と尋ねる
              美味いですよ、もちろん。
               そう云う僕に満面の笑みを浮かべて
                そうだ。それでいい。
                 と満足げに微笑む
                  僕は苦笑しながらライターで
                   彼の煙草の先に灯を点けた
            
                   大体煙草が悪いと誰が決めたと不機嫌だ
                  さあ?誰でしょうね。
                 天皇陛下か?
                其処の所はよく分かりません。
               わしらが若い時分には
              煙草を吹かすのは大人になった証拠だった。
             皆得意げに煙草を吹かしたもんだ。
            戦時中も戦後間もない頃も煙草は貴重品だったからな。
           寛さんは呟き紫の煙を吐いた
          召集令状が来てな
         いきなり長崎に連れて行かれたんだ
        海軍に入隊したんだ
       当時沖縄の連中は方言のなまりがひどくてな
      お前等、日本語も話せないのかと上官にこっぴどくやられたよ
     外出の日でも憲兵がうるさかった
    翌朝、酒の匂いがする奴は上官に死ぬほど殴られたもんだ
   お前等酒を飲んでどうやって国を守れるのかってな
  酷い所だったよ
 終戦を迎えたのも長崎だった
今日から諸君は民間人と一緒だ、と
 飛び上がるくらい嬉しかったな
  飛行機が無かったから船で宮古島に帰った
   波止場には村中の人々が集まって出迎えてくれた
    嬉しかったね
     酒を飲んで煙草を吹かした、想い存分な
      誰かが三味線を弾いて歌ったよ
       「なりやまあやぐ」だ
        懐かしかったね
         お前は三味線は弾かんのか?
          駄目な奴だ
           三味線はいいぞ
            子供の頃には
             登川誠仁が近くに住んでいてな
              いつも
               寛兄さん、寛兄さんと遊びをせがんでいたよ
                あいつは子供の頃から上手かった
                 天才というのは確かにいるんんだな
                  あいつのは速弾きは凄かったもんな。
                   ところで今は何月だ?

                   そう云って
                  寛さんは黙り込み目を閉じた
                 煙草の先が灰になり
                ぽとり、と落ちた

               僕が声をかけると
              うるさい、と呟いた
             何を考えているんですか?と尋ねると
            昔のことを思い出しているんだ
           無粋な奴だ
          と目を開けた

         世間は平和か?

        そうでもないですよ。

       そうか。
      昔もそうだった。

     気をつけろ。

   僕はウィンストンを引っ張り出し
  一本咥え火を点け
 寛さんにも勧めた

懐かしい煙草だな

 お前は何時から煙草を呑んでるんだ

  さあ?15歳くらいですかね。

   寛さんは苦笑いした

    立派な不良だな

     僕等は並んで煙草を吹かし続けた

      窓の外の世界に

       煙がゆらゆらと舞った

        皆いなくなったよ

         十分気をつけろ

          煙がゆらゆらと踊った

           まるで


           まるで何処かの国の様に













               

この夜に

2025-03-07 | 
優しさと哀しみのお話し
 疲れ果てた界隈でラジオから流れる音楽に耳をすました
  木霊する旋律に
   どうかこころが柔らかくなりますように
    そっと祈った

     世界の路地裏で少女がギターを弾いている
      あの懐かしい音色で
       道化師がタップダンスを踊り
        黒猫のハルシオンが優雅にお酒を舐めている
         僕は
          両の手のひらを握り
           ただ安かれと祈った
     
           あなたの場所よ

            公園の噴水で少女が告げた

             僕の場所?

              そう。
               暖かな音楽があなたのこころを柔らかくするの。
                そうしてそこがあなたの場所なのよ。
                 あなたは帰ってくる。
                  ここにね。

                  僕は此処に帰れるのかい?

                   大丈夫。
                    心配しないで。
                     あたしが此処に居続ける理由。
                      あなたが此処で物語を描き続ける理由。
                       あなたはあなたの場所に帰ってくるのよ。

                        少女がそっとギターを弾いて歌った
                         誰の為でもない歌
                          旋律は雨降りの夜に
                           澄んで流れた

                           いつか
                            雨は降り止むわ。
                             歩き疲れたらあたし達の物語を想い出して。
                              優しさと哀しみの歌を歌っているから。
                               大好きな音楽にそっと耳を澄まして。
                                音楽には
                                 音楽には魂を再生させるちからがあるの。

                                 空の話

                               いつか君に伝えようね

                              怯えた孤独な夜に

                            優しさと哀しみの成分は似ている

                           あなたの零れ落ちた涙が

                          いつかあなたの優しい物語になりますように

                         僕は手のひらを握りしめて

                        ただ祈り続ける


                   「変化する為の努力

                    変化しないものを受け入れる勇気を」

                 この夜に

                あなたが少しでも眠れますように

               きっと

              朝日がやってくる


             僕は君が大好きだよ





























歌会

2025-03-01 | 
青い月明りに導かれて
 僕等は窓から逃避行した
  風が優しく耳朶を撫で
   昔歌を口ずさみながら散歩を続けた
    行き先はあの草原だった
     たっぷりのワインと煙草を手に
      上機嫌の僕等には柔らかな青の光が道しるべとなった
       ヘンゼルとグレーテルみたいね。
        少女が呟いた
         お菓子の家にはたどり着けないよ。
          僕が云うと
           いい、甘ったるいのは嫌いだから。
            お酒と煙草があれば何もいらないわ。
   
            草原にたどり着いた僕等は
             大きめのマグカップにたっぷりとワインを注ぎ乾杯した
              安いハウスワインだったけれど
               酔っぱらうには十分な味だった
                二人で煙草を吹かし
                 僕等は静かに青い月明りで月光浴をした
                  世界は静寂で風は優しく
                   僕は生きていることを感謝した
                    こんな日が来るなんて
                     あの頃には想像も出来なかったからだ

                     それからマグカップにワインをなみなみと注ぎ
                      今はいない君に乾杯した
                       あるいは過去の記憶に向けて

                       ね、
                        あなたはいつまでもあなたなの?

                         少女が不思議そうに僕を見つめた          
                          
                          どうして?
                           僕は僕のままだよ。
                            ころころ変わるほどカメレオンにはなれないしね。

                             あなたはだから時代遅れなのね。
                              あなたには友達はいたの?

                               僕は苦笑いしながら答えた

                                いたよ。
                                 大切な友達が。

                                 彼等彼女等は何処に行ってしまったの?

                                  少女の茶色の瞳が哀しげに問う

                                  みんな消えてしまったよ。
                                 変わっていったんだ。
                                みんな大人になってしまったのさ。

                               僕は世界に取り残されたのだ
                              みんなあたらしい扉を躊躇なく選び
                             少年少女の世界に別れを告げたのだ
                            それはどうしようもない事柄なのだ
                           そうして僕だけが
                          永遠の夜の子供として青い月に導かれたのだ

                        寂しくないの?

                       寂しさに慣れたことなんて一度もないよ。
 
                      ただ歌があったんだ。

                     歌?

                    そう。
                   歌が救いだったんだ。

                  僕は古臭い19世紀ギターを引っ張り出し
                 調弦をして
                埴生の宿を歌った
   
               そのメロディー聴いたことがある。

              そう云って少女は口笛を吹いた

             僕は
            てぃんさぐの花を歌い
           えんどうの花を口ずさんだ

          あなたの故郷の歌なの?

        少女が尋ねた

       そうかもしれない。きっともう忘れてしまったと想っていたのにね。

      僕は青い空と青い海を想った

     そうして世界がしあわせであるように願ってワインを飲んだ

    もっと歌って。

   酔っぱらった僕等は
  ありったけの歌を歌い続けた
 
 青い月夜の歌会




君に届きますように



  そう願った