眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

IN SESSION

2015-07-25 | 
世界の中心点に於いて
 僕等は彷徨いあぐねた
  光景は平等で
   誰しもが歌を歌った
    お休み罪深きものよ 
     君が消失した点に於いて
      遙か寓話は語られる
       あの物語の話だ
  
       少女はざらついた舌で時間を舐め
        落ちてゆく砂時計の砂は
         永遠に掌から零れ落ちた
          重力のせいだね
           君がくすくす微笑み
            僕等ははっか煙草を咥え
             もくもくと煙を上げた
              ギターを抱え込んだ君が
               不協和音で空間を埋め尽くした夜
                誰かのマンドリンの旋律が幻聴の様に木霊した
                 あの旋律は全体だれの歌だったのだろう
                  木漏れ日の様相だったのに
                   次の瞬間にはまた雨だ  
                    街角の街灯の青が
                     永遠に青の舞台を醸造させ  
                      僕等は廃墟に於ける
                       腐乱した表層の乖離した断片の一部だ
                        日常
                         誤認した認知は
                          すべからく世界を網羅した
                           表情に浮かべる気だるさの午後
                            きっとお昼寝が足りないのだ
                   
                             分化される記憶の階層は
                              細分化された医学事典の様で
                               誰かが残した呼吸が
                                サナトリウムで信号を送り続ける
                                 誰にも届かない手紙
                                  おれんじ色の蛍光灯が
                                   夜の食堂を優しさで照らし出した 
                                    クッキーを半分にして齧った
                                     暑い夏が訪れる

                                     僕等は貸し出された破格の値段のペンションで
                                      ずっと楽器を悪戯していた
                                       誰かが弾いたフレーズに
                                        少女が気だるく歌をつけた
                                         バスドラムがシンプルにリズムを刻み
                                           スネアをブラシで撫でる
                                            コントラバスがやや確実にラインを追う
                                             君が指弾きで引いた楽器は
                                              懐かしいチャキギターだった
                                               優しい風が窓から吹き抜けた


                                               黒猫が
                                              ジャックダニエルで酔っぱらい
                                             調子はずれの鼻歌を歌う
                                            少女が冷笑し
                                           麦わら帽子を深めに被った
                                          くすくす微笑んで
                                         君はめずらしく速弾きを封印して
                                        単調な和音を弾き続けた

                                      ねえ
                                     憶えているかい
                                    あの夏を
                                   朝の四時に僕等は庭で煙草を吹かした
                                  まだ涼しい風が吹き抜けるのだ
                                 行こう
                                黒猫が云った
                               
                               何処へ?

                              あの物語の始まりにさ

                             僕の問いに猫はしたり顔で答えた
                            少女の影は永遠の緑の草原に伸び
                           君は外国行きのチケットで
                          最果ての国に旅立った
                         気付くと
                        広いペンションには僕だけが残されたのだ
                  
                       ハルシオン、皆何処へ行ったんだい?

                      黒猫は髭をぴんと伸ばして厳かに告げた

                     やがて嵐が来るよ
                    あんたは歌い続けなくっちゃあならない

                   どうして?

                  其れがあんたの唯一のレゾンデートルだからさ

                 皆にまた会える日は来るのかい?

                黒猫は煙草を吹かした

               この夏が終わる頃には
              あたらしい夏が訪れる
             永遠の夏休みがやってくるんだ
            あんたは
           あんたはこのペンションで音を紡ぎ続けるしかない
          セッションを続けるんだ
         彼等彼女等が音を頼りにこの世界にやって来るまで

        永遠の夏休み

       日常に垣間見える世界の中心点に於いて
      僕は楽器を触り
     ただ歌い続ける
    溶けた氷で薄くなったウイスキーの様に
   記憶が薄れていったとしても
  君たちを忘れない
 そんな夜

そんな夜

 お昼寝が足りないのだ

   くすくす

    くすくす


      記憶の君の声が木霊する




























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