眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

優しさの資格

2009-12-03 | 
オレンジを皮ごとかじりながら少女がつぶやいた。
  「ね、優しさの資格って何だと思う?」

僕は珈琲の入ったマグカップをこぼさないように机に置いた。
少女が何処か遠くの方を見つめながら何かを尋ねるとき、それはとても大切な話なんだ。
僕は一息呼吸を入れて慎重に言葉を選んだ。

  優しさに資格なんているの?

少女はおおきな瞳で、僕を検査する様に覗き込んだ。

   あたりまえじゃない、そんなことも知らないの?

  僕は珈琲に少女にばれないようにブランデーを混ぜた。

   たとえば?
    少女はオレンジの皮を地面に吐き捨てながら答える。

    たとえば。
  「優しさにもいろいろあるわ。押し売りみたいな優しさ。自尊心をくすぐる優しさ、哀れみのこもった迷惑なものからありとあらゆる種類の優しさが陳列されてるの。」

  それで、可愛そうな捨て猫を見るように僕の顔ををぼんやり眺めた。

     あなたも十分気をつけることね。

  問題は、優しくしたい、というエゴが相手を傷つけることにあるの。
   ほんとうに必要な優しさなんて、そんなに多くないんだから。
    優しさは、

   彼女はオレンジをかたずけてしまってから煙草の箱に手をのばした。
    あいにく中身はからで、それを面倒くさそうにひねりつぶした。
     僕は吸いかけのはっか煙草を少女に渡した。

    ありがと

    そう云って、深くまるで深呼吸するみたいに煙を吸い込む。

   優しさは
    優しくされる人が許してくれる行為なの。
     優しくすることを許してくれる人がいてはじめて成り立つものなの。

    優しくされて、みんなありがとう、なんて云うけど。ほんとにありがとうを云わなくちゃいけないのは優しくすることを許されたほうなのよ。
     だって、優しくする対象がいなかったら誰に向かって優しくするの?

    だから優しくするには、それなりの資格があるのよ。
      
  それから、優しさについて考え込む僕のテーブルの下からとっておきのブランデーの瓶を引っ張り出して、口をつけてごくり、と飲み干した。
 それ、すんごくとっておきなんだけど。
僕の云うことには耳を貸さない。
 とっておきのお酒は皆で飲むものよ。あなた、さっきからかくれてのんでたでしょう?見てたんだから。

   心配そうな僕を覗き込んで、
  大丈夫。あなたとわたししかいないから、分け前は十分よ。

  そういってとても可笑しそうに笑った。

    あなたも気をつけることね。

     優しさの押し売りに。

  少女はブランデーの瓶をかざしながらつぶやく。

 今日は久しぶりの良い天気だ。

庭には草木が嬉しそうに咲いている。








コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする