眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

THETA

2009-12-14 | 音楽
雨が降りしきる。切なさの残像が浮かんでは消える。夜だ。僕はフランシス・コッポラというワインの瓶とグラスを抱えて部屋の灯りを落とした。そうして、ちいさなロウソクに灯を点けて、孤独と対峙した。
儀式なのだ。たまに、僕はそうやって自分自身を取り戻そうとする。寂しさは静かな安らぎだと云う人もいるらしい。sionはできれば勘弁してくれ、と歌った。全く同感だ。孤独を愛せない人間は哲学者にはなれない、なんてまことしやかに云った人もいた。僕はただの酔っ払いでいいので、グラスにワインを零す。
寂しいんだ。寒いのさ。ロウソクの灯だけが暖かく心を包み込む。
そうして、僕は音楽を流し始めた。

[seeds of the dream / THETA]
友人がCDを送ってくれた。その中の一枚がこの音楽だった。
僕はワインのボトルが空くまでこの音楽を再生し続けた。そして蝋山陽子さん- vocals, flute の歌声に心を集中させた。切なく、哀しい、そしてひんやりとした冷たい空気の清潔さのある声に耳を傾けた。魂というものが存在するなら、僕の魂は震えていたのだろう、自身の孤独と彼女の声が反応しあい。
僕は、声を押し殺して泣いていた。
そんな夜だった。

僕の音楽の範囲はある意味において限定されているのかも知れない。気に入りの音楽を何年も聴き続ける。工事ランプを頼りに街の路地を徘徊する。呼吸が白い息を発し、辿り着けないものを想って探し続ける。そんな聴きかたしか出来ない。たまに、孤独に耐えられなくなると誰かの声が聴きたくて、音楽に耳を澄まし歌声の吐息を想う。大切な声。忘れてはいけない声。それが蝋山陽子さんの歌声だった。
彼女が亡くなって二年の月日が流れたそうだ。
彼女は此処ではない何処かへ旅立ったのに、僕はその事実も彼女の存在さえも知らなかった。人生とはそういう風に出来ているのだろうか?でも今夜はワインを舐めながら貴女の声を聴いている・・・。
彼女のホームページに接続する。最後の日記の言葉の静かな波が、僕の感情を哀しみの青に染め上げた。他界した理由はわからない。ただ、重い欝状態が続いていたらしい。僕はただやるせない。孤独なんて嫌いだ。本当に嫌いだ。だから、今はいない彼女の歌声に涙した。

歌が流れる。いつか。僕の存在も綺麗さっぱり消えてしまうだろう。
声がささやく。孤独と対峙した儀式。
声が聴きたい。
再生キーを押し続ける。そんな夜に。

蝋山陽子さん、ぼくは貴女に魅かれるけれど違う道を歩いてゆこうね。
そしていつか。
その声を忘れてしまう時間が過ぎたなら。貴女に逢えるのだろうか?
どうか安らかに。
僕は馬鹿だから泣くことしかできない。


コメント (3)
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