眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

休日

2011-01-16 | 
廃墟と化した城壁の向こう側
 眠り姫は鏡の中で永遠の夢を見る
  少年は見張り台から鳥の飛ぶ方角を指し示す
   向こう側だ。
    やがて世界に記述される筈の物語の序章
     お話はまだ始まっては居ない。
      舞台裏で緊張した眠り姫がスコッチを飲み干した
       森の魔物たちが
        やれ水だ薬だと かいがいしくも手当てに奔走する
         やがて幕が上がる
          ギター一本持って
           旅人役の吟遊詩人が
            岩の巨人に身を持たせかけ
             ジャンゴ・ラインハルトのマイナースイングを
              弾き始める

              神経質な姫は眠りについた
             ようやく幕が上がったのだ
            小さな妖精が微笑ましい声でこう語る
           皆様、世界の終わりへようこそ。
          奇妙奇天烈に歪んだ夢想の世界
         フィルムに記憶された体感温度
        氷点下よりも寒い
       世界の中心点
      近視と乱視が混濁したその目でご覧下さい
     勿論
    旅路に必要な
   コーラとポップコーンをお忘れなく。
  
  行こう。
 青い目の猫が呟く
魔法を使える時間は限られているんだ
 やがて
  やがて君も大人になる
   それはどうしようもない事なんだ。
    さ、それまでに。早く。
     万華鏡の世界で昼夜は逆転し
      星が昇り三日月が浮かび上がる
       照明器具で検索された倦怠感が舞台を染め上げたのだ
        まるで
         まるで誰も存在しない廃墟の羅列と共に
          猫が真剣に囁き
           妖精がくすくすと笑った

           僕は不思議な夢を見た
          世界の終わり?
         ベットから這い蹲り
        頭痛薬をコップの水で飲み干して
       フライパンで半熟の目玉焼きを作った
      ベーコンを二枚のせ
     かりかりのトーストを齧った
    嗚呼。
   僕は思った
  今日は休日なのだと
 時計がいつもの時間に鳴り始めていたのだ
僕は目覚ましのスイッチを切った
 それから
  ベランダから僕を見つめる黒猫に合図した
   行こう。
    旅の始まりなんだろう?
     時間は限られている。  
      猫が満足げにあくびした
       早く行かなければ。
        世界の終わりへ。
         眠り姫が鏡の中で二日酔いで苦しんでいる筈だ。

          妖精がくすくすと笑った


           まるで帽子が笑うように

        
            向こう側だ。






           
          

            
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世界の旋律

2011-01-11 | 
灰色の霧の循環地点
 街角の石畳に影を落としてはならない
  存在を証明してはならない
   螺旋階段を昇った古びた建物の屋上にて
    天体望遠鏡で星の運行を観測しようと試みたが
     街のスモッグに阻まれて叶わなかった

     重く垂れ込めた雲の下
      世界は灰色に合成着色され
       白黒の世界は他の色合いに極度に冷淡だ
        建物の屋上から地上を俯瞰した
         天体の位置が不確かで
          この丸い球体が本当に地球と呼ばれる物なのかは
           あまりあてに出来そうも無かった

           ふと
          耳元にフルートの音色が届いた
         僕は立ち上がり
        その細い音色に向かって屋上をぐるりと一回りした
       誰かが旋律を奏でている
      それはまるで
     瓶詰の中の手紙のように
    こちら側へ流れ着きあちら側へ漂流した
   耳をそばだてた
  向こうだ。間違えない

 屋上の端っこで誰かがフルートを吹いていた
  白いワンピースを着た女性だった
   僕は地べたに座り込み黙って音楽に身を委ねた
    そうして唯時間だけが流れた
     いや、時間が止まったのだ

     音が止んだ
     女性が振り向いて不思議そうに僕を見つめた

     キミ、ずうっとそうしているの?

     うん。

     何だか気恥ずかしくなって僕はポケットの煙草を引っ張り出した

     音楽が好きなのかな?

     わりとね。

     長い髪の女性はとても痩せていて何故か裸足だった
      
 
     ねえ、此処は地球なんでしょう?

     女性は不思議そうに肩をすくめた

     私達は世界と呼んでいるけれどね。
      キミがそう呼びたければそれはかまわないわ。
 
       あなたはいつもこの屋上でフルートを吹いているの?

        そう。
       朝と昼と夜にね。

     どうしてフルートを吹くの?

    だって。
    
   女性は柔らかな微笑みを浮かべた
  
  だって私が音楽を創らなければ世界が朝と昼と夜を間違えちゃうからよ。
  もう長いことお日様が昇らなくなったのよ。
  此処はね、世界なの。
  物語の中心点なの。
  灰色の街角は誰かの心象風景から想像されたのよ。
  それは。

  女性は僕を見つめて黙り込んだ
   
  もしかしてこの螺旋階段の屋上は僕の心象風景なの?

  彼女は頷いた

  もうお日様が長い間昇らない時間の止まった世界。
  色の無い物語。
  あなたの世界よ。


  まるで終末の予感がする世界
   感情が極度に鈍磨した世界
    色の無い世界
     僕は煙草に火をつけた

      昔はこうじゃなかった。

       昔はね。今は灰色の壁と沈黙の世界よ。

        キミ、色は好き?

         嫌いじゃないよ、たぶん。

         それじゃあ、
          色をつければいいわ。
           もちろん、焦らなくてもいいのよ。
            あなたが色を見つけるまで、
           私が音楽を奏でて世界に朝と昼と夜を伝えてあげるわ。

          それが私の役割なのよ。

         女性の背中から光の羽が広がった

        彼女はまるで天使の様だった

       大丈夫。それが私の役割なのよ。

      女性は僕の頬に軽くキスをした

     
    「美わしき悦びに満てる
      真の魂は
       穢れること無し」

    

    フルートの音色が優しく世界に響き渡った


       
       灰色の世界に
















  


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安楽な姿勢

2011-01-01 | 
安楽な姿勢でソファーに横たわり
 暖かな陽光の中
  ワインを舐めながら電波の具合を模索する
   テレヴィジョンから
    今日も不条理な世界が現れては消え
     電源を落として空を眺め始めるのだ
      きっと

      電波の具合は不揃いで
       いつの間にか消えてゆく人々を想わせる
        決して失ってはいけなかった筈のあなた
         いつしかどんな姿勢をとろうとも
          電波は永遠に届かない
           全体何処へ消えてしまったのだろう
            あの界隈のあの静けさや匂いたち
             芳香する残り香が
              奇妙なくらいに切なかった

              アクリル板に絵の具で落書きをした

             「HELP ME」

            かような現実が僕を追いかける
           そうして電波は成層圏を抜け出せない
          培養したプレパラートのカビの様に
         顕微鏡を覗いたけれど
        昼下がりの世界は更に微小で
       全く倍率が足りなかったのだ
      優秀な顕微鏡と天体望遠鏡は良く似ている
     どちらも世界の情報を手に入れるのに手っ取り早い
    ワインが零れた
   僕は安楽な姿勢をかろうじて保つ
  角度が微妙にずれると落ちてしまうのだ
 緑色のソファーと呼ばれるこの世界から

落ちてしまえば何処かに辿り着くのだろうか?
 失楽した魂の寝床はどこだろう?
  たぶん其処でも君への電波は届かない
   失われたのだ
    永遠に
     あの空の下の呼吸音と同じように
      やがて季節が変わるだろう
       見果てぬ夢を追い続ける君の横顔が美しくって
        息を呑んだのだ
         ねえ
          苦しいよ

           アクリル板の赤い絵の具の文字

  
            「HELP ME。CAN YOU HEAR ME?」


             降り出した雨が微笑する










      
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