眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

チューインガム

2023-07-17 | 
具象化された夢なんて面白くないわ。
 少女がチューインガムで風船を作った
   ぱちん、と音が鳴り風船は存在を失った
    夢にも抽象と具象があるの?
     僕の質問に彼女は割と真面目に答えた
      何か、になりたいんじやなくて。
       何かの空気を保ち続けるべきなのよ。
        そうしてまるで祈りの様にささやいた

         夕映えのグランド
        図書館の窓から見える風景
       大切な音楽
      あのときの匂い
     風の通り道
    落書きのノート
   夏の冷房のきいた病室
  天体望遠鏡の記憶
 大好きだった誰かの影
井戸の中の化石
 
  ぱちん

   風船が弾けた

    記憶は消えてゆくわ。
     でもね、あの匂いたちを忘れちゃいけないのよ。
      何かになる為に、
       あの空気たちを磨耗してゆくの。
        それでも、あの記憶の切なさと哀しみを
         忘れちゃいけないのよ。

         どうして?

        それこそが本当の夢だからよ。
       わたしたちはこの世界の夢の住人なの。
      眠り起きるのは
     死んで生まれ変わる作業と比較的似ているの。
    魂は輪廻してわたしたちは夢の住人として旅をするの。

   少女はギターを手にとって悪戯した
  綺麗なメロディーが空間を飽和した
 何処かで聴いた事のある曲だ
当たり前よ。
 この曲はあなたが創った曲じゃない。
  もう忘れたの?
 
   ぱちん。

    何かが弾けた。

     そうだ。僕が描いた曲だったのだ。

      
      世界はつまんなくなんかないわ。
       様々な奇跡で満ちているの。

        あなたの忘れ物は。

         夢と希望なの。

          風船ガムが弾けた




    
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扇風機

2023-07-10 | 
容易ではない早起きに
 ふらつく足元の下で希望が割れた
  緑色のカーテン越しに朝日があたった
   今日が始まる
    まるで夏の日差しが舞い降りる
     扇風機を回しながら
      虚脱した昼下がりには
       無気力な退廃が身を囲って
        風邪気味だろうか?
         悪寒を感じる
   
        扇風機

       ぶーん、とモーター音をうならせ
      いつかの夏の記憶
     海水浴と氷の入ったレモネードの甘さ
    泳げない僕は大き目の浮き袋に揺られ
   青すぎる青の空を眺め
  白い雲が流れゆく
 世界は球体で何処かにこの空は繋がっているのだ
そう確信した瞬間
 もはや足が着かない遠い沖まで流されてしまったのだ
  見渡す限り地平が見当たらなかった
   この感覚には憶えがある
    一人暮らしのアパートの僕の部屋の一室
     毛布もベットもいらないと笑った生活感の無さ
      少しの小説とレコードだけを宝物にしたんだ
       誰かが呆れて笑い
        怒り
         そうして心配さえしてくれたというのに
          僕は漂流を楽しみにしていたのだ
           ゆらゆらと揺られ
            時間と空間がねじれた

           扇風機

          あるホテルのロビーの天上で優雅に回る
         異国の人が通りがかりに微笑んだ
        マイタイを飲みながら
       一人で誰かを待った
      そういえば
     そういえば会う約束はしてあったのだろうか?
    扇風機が回る
   約束なんていらなかったはずじゃないのかい?
  不審気に白い猫が大きな瞳を細めた
 いつから約束が理由になったのだろう?

    扇風機

     まだ10代の永遠の面影
      消える事の無い夏休み
       あの数年間は魔法が使える時間だった
        やがて僕らは暮らしを
         見よう見まねで模倣した
          いびつな形をした暮らしは
           キュビィズムの字体だと強がってみせたんだ
            ちりん、と風鈴が鳴った
           街角の二階にある喫茶店だった
          珈琲の黒の中を眺めていた
         ピアノの音が流れている
        何処かで聴いた旋律
       何処かで見た筈の風景
      風がなびいた
     辿り着けない地平を想った
    逆算すると明治の初期だね
   計算の上手な骨董屋の主人が僕の人生を鑑定する
  ネジが緩んでいる為だよ
 正確な時刻を刻めないのは
振り向くと誰かの影が消えていった
 
  笑うんだ 
   笑うんだ日に三回
    そうすれば上手くいく
     僕はその言葉を呪文の様に繰り返した
      道化ならば
       笑うんだ
        それ以外のどんな素振りも見抜かれてはならない
         回り続ける扇風機の羽の様に
          電力が落ちるまで
           回り続けるんだ

           だけど

          だけどこの虚無だけは消えて無くならない

         約束ばかりがただ残るのだ

        果たされない約束

       ぶーん、と扇風機が回る

      湿度の高い南の島に於いて












      
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