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眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

飽和点

2023-04-24 | 
哀しみの飽和点
 暮らしの中でその境界線をいつも探している
  隣接する建物の隙間から
   やっと見つけた青い空
    僕は煙草に灯をつけ
     ただ黙って虚空に煙を吐いた

     何処までが耐えられる痛みで
      何処からが許される原罪なのだろう?

       ね

        君の街から手紙を描いて

         君の街にはたぶん

          此処で消えてしまった青い空があるはずだから


          此処は何処だろう?

         
           理科準備室でフラスコに入った青い液体

            アルコールランプで加熱させ

             何時か哀しみの飽和点に達する


             何処までが耐えられる痛みで
            何処からが許される原罪なのだろう?


              僕は祈るすべを知らない



               眠れない夜の出来事





















      

四葉の余韻

2023-04-21 | 
其れらが奇跡と呼ばれた瞬間
 音もなく世界が割れた
  僕等は戸惑い右往左往しながら
   交通整理された十字路にただ立ち尽くした
    気ぜわな警笛の音で
     警官隊が彼等の運命を誘導した

      ただ健やかに
       子供たちの握りしめた手の平から
        赤い風船が逃避する
         青い空に徘徊した風船は
          やがて地上の存在から乖離し
           誰のせいでもなく破裂するのだ
            君はそれら事象を運命と名付け
             くすくすと微笑んでウイスキーを舐めた
              そんな夜

              少女は赤い舌先で世界を舐めた
               魔法の手法で
                君は瞬間から永遠に打電する
                 不確かな電気信号
                  ぴぴぴ
                   わずかに比例する遊覧した真夏の空の飛行船

                    天秤にかけた
                     しあわせとふしあわせ
                      マドレーヌの甘さが苦手だった
酒が切れた夜に
                        思いの他地団太の孤独を網羅する連絡網
         
                         少女が呟いた

                         あなたの願いは?

                         それが分かれば僕の世界は守られるのかい?

                         けれども

                        けれどもあなたには
                       残念だけれど答えがないの
                      あなたの言葉と世界は
                     永遠に地上から乖離されているの

                    憐れむ様なまなざしで少女は僕の瞳を覗き込む

                   もし

                  もし許されるのなら

                 何時か君に電気信号を打電する

                世界が解れ分解し
               僕が壊れ物になったとしても
              君の記憶の階層に於いて
             僕は徘徊し
            封印された遊園地でパレードを待ちわびる
           永遠に訪れないパレードを

          優しさと哀しみの封印
         額に罪人のしるしが刻印される

        僕は想い哀しみを凝縮させる

       プランターの花が咲いたよ

      きっと

     四葉のクローバーがあるはずだから

    哀しまないで

   君が云う

  永遠に辿り着けない廃墟の瓦礫の中のクローバー

 もう

記憶が薄れているのだ

 薄明の残暑の朝

  僕は祈り願うだろう

   お願い

    どうか



     君がくれた



      四葉の余韻



       希望


































緑の寮

2023-04-17 | 
灰色の街角で
 別れ道は何度もあったのだ
  僕等はアルコールで酩酊しながらためらいも不安も無く
   次から次へとてくてくと石畳の路地を徘徊した
    やがて終着点に辿り着くはずだった路地で
     僕等は完璧に迷子になった
      永遠の漂流者
       道に迷った夜の子供たち
        それが僕等だった


         緑の森の中の全寮制の寮
          二階の窓を開けると風が吹き抜けた
           先輩たちは煙草を吹かしながら皮肉に
            新入生の僕等を観察していた
             ギターケースを大事そうに抱えた小柄な僕を見て
              上級生の一人が声をかけた

               お前さ
                楽器弾けるの?

                少しなら。

                 何か弾きなよ。

                  ポケットウイスキーを舐めながら上級生は僕を値踏みした
                   僕は戸惑いながら楽器を調弦し
                    少し悩んで
                     ヘンツェの「緑の木陰にて」を弾いた
                      弾き終えると
                       先輩は煙草に灯を点けながら軽く拍手してくれた
                        それから僕にも煙草を勧めた
                         生まれて初めて吸う煙にせき込む僕を見て
                          先輩はとても面白そうに微笑んだ

                          すぐに慣れるよ。
                           お前の音さ、
                            濡れて聴こえるよ。雨の音みたく。
                             気が合いそうだな。
                              よろしく。

                              そう云って先輩は僕のギターを取り上げ
                               酔っぱらいながら
                                ジャンゴ・ラインハルトの「マイナースイング」を弾き飛ばした
                                 物凄い速度で音が連なってゆく
                                  酔っぱらいながら
                                   完璧な演奏をする人物を
                                    僕は今まで見たことがなかった
                                     弾き終えると
                                      先輩は楽器を丁寧に眺めてから
                                       僕に手渡した
                                        それからお酒を煽り
                                         満足げに頷いた

                                         春の出来事
                                        あたらしい世界が始まったのだ
                                       僕は深呼吸をして
                                      自由な空気を味わった

                                     此処での約束事は色々あるけど
                                    酒と煙草は見つからない様に。
                                   黙認はされてるけど
                                  おおっぴらにやると寮監先生に目を点けられる
                                 見つかって三回目で保護者に連絡が行き
                                反省の色が無い場合は国に返される。
                               もうひとつは。

                              何ですか?

                             上級生に逆らうな。
                            これは絶対だ。

                           そう云って先輩はくすくす微笑んだ

                          まあ慣れると此処もそう悪くはないよ。
                         たまに脱寮する奴もいるけどね。

                        館内放送から食事の合図が流れた

                       行こう。案内するよ。

                      いいんですか?

                     一応先輩だからさ。
                    新入生の面倒みることになってるんだ。

                   そう云って先輩はさっさと歩いた
                  僕は置いて行かれない様に彼の後を急いで追いかけた
                 それが国を離れた記念すべき一日だった
                僕は故郷を捨てた開放感から
               少しだけ気が楽になっていた
              おれんじ色の蛍光灯のだだっ広い食堂で食事を取り珈琲を飲んだ

             就寝時間になると
            一斉に電気が消灯した
           先輩は僕の部屋に現れて僕を屋根の上に連れ出した
          僕等は排水管をよじ登って屋根の上に上がった

        ここから見える景色が最高なんだ。

       先輩はそう呟いた
      屋根の上から風に揺れながら僕等はワインを飲んだ
     先輩はかなり変わった人だった
    そう告げると、

   俺なんか普通だよ。此処には変わった奴しかいないよ。

  と悪びれもなく笑い飛ばした
 
 お前さ、国は何処?

僕は煙草を吹かせて黙っていた
 云いたくなければいいけどさ。
  先輩は瓶からワインをごくりと飲んだ

   別にいいですよ。
    あまりいい思い出はないけど。
     島ですよ。南の。

      島?
       もしかして海があるのかい?

        もちろん。島ですから周りは海ですよ。

         ふ~ん。
          俺さ、まだ「海」見たことないんだ。

          そうなんですか?先輩は何処から来たんですか?

           神社とか寺しか無いところ。
            息苦しくて俺には合わないね。

             いつか帰るんですか?

              先輩は真面目な顔で答えた

               此処に来る奴にはもう帰る場所なんて無いんだよ。
                お前だって薄々は感ず居ていただろう?

                 僕は黙って頷いて煙草を吸った

                  ここは世界から隔離されている。
                   「最果ての国」なんだ。

                    最果ての国?

                    そう。
                     始まりで終着駅なんだ。
                      みんながそう呼んでいる。昔からね。

                      我々は国も記憶も捨てたんだ。
                       それが入寮する為の唯一の条件なんだ。
                        もう帰る場所なんて何処にも無いんだ。

                        僕等はお酒を飲み続けた
                         飽きることもなく
                          ただ路に迷った夜の子供たちだった
                           路地を抜けると
                            噴水の無い公園がある
                             其処で永遠に楽器を弾くのだ
                              それが僕等だった

                              最果ての国

                             物語の始まりで終わりの場所

                            永遠の物語

                           永遠の迷子


                          夜の子供たち