眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

日記

2012-10-26 | 
誰かに何をしてあげれるかじゃなくて
 私に何ができるかなのよ

 少女がぶつぶつ云いながら
  グラスの中で氷で溶けたバーボンを舐めている
   僕はぼんやりと気紛れな天候に想いをはせていた

   ねえ、聞いてるの?

    少女がすこし酔っ払った表情で顔をしかめた

     ちゃんと聞いてるよ。

     シガレットケースから紙煙草を一本引き出して
      果たして何時から煙草を吸い始めたのか考えてみた

      駄目だ
       思い出せない
        記憶は常に忘却の彼方なのだ

      なにをぶつぶつ云っているのよ

     少女が不審気に僕の顔を眺めた

    だからあなたも日記をつけるべきなのよ

   日記?

  そう。

 日記さえつけておけば自分が何をしたのかすぐに分るはずだわ。

日記。

 そう。日記。
  あなた昨日の夜中に何をしていたか思い出せる?

   う~ん。煙草に火をつけてウイスキーを飲んでた。

    じゃあ一昨日は?一年前はどう?

     だいたい似たようなもんだね

      そういうあなたにこそ日記は有効なのよ
       効果てきめんだわ
        まるで
         どんなにしつこい夏風邪も一瞬で治す飲み薬のように。

         で
          君は日記をつけているのかい?

          これから描くところよ。
           出だしはこう。

        「私は今日から日記をつけることにした。
          今晩は青い月夜で
           世界のすべてが青色で綺麗だから
            お酒を飲むことにした。」

         結局いつもと同じじゃない

        黙りなさい。続きがあるのよ。

       「私は考えた。私に何ができるのか?」

      で
     君に何ができるんだい?

    これから考えるのよ。

   彼女は不機嫌そうに呟いた
  それから少しだけ哀しそうな表情をした

 ねえ
私に何ができると想う?

 そこの紙袋の中にチーズバーガーが入ってるんだ
  君も承知のように僕は乳製品アレルギーでチーズが食べられない。
   だから。

   チーズを食べちゃえばいいのね?

    そう。跡形も無く綺麗さっぱりと。

     それなら私にもできるわ。
 
      少女は少しだけ嬉しそうに微笑んだ
       
       他には?

        君が探し出してきた中古のレコードを一緒に聴こう

         少女は古い再生機に向かい
          そうっとレコードに針を落とした
           柔らかなピアノの音色が密やかに流れ始める
            まるでマリア像の瞳から流れる涙の様に
             優しく世界を包み込む

             一粒の音が現れ消え去っていった
              まるで誰かの記憶のように
               それらは時を刻むごとに
                熟成されたお酒の様に美しくなるのだ
                 痛みや哀しみさえも

                 そうして
                  そんな想いで達が現れては消え去ってゆく

                   だからどうか
        
                    だからどうか許して

                     僕は焼却炉に投げ入れた想いを想った

                      他には?

                     少女が尋ねる

                    何も無い

                   これだけで十分なんだ

                  この静かな夜だけで

                 救われるんだ




               清潔な青の夜に














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昔話

2012-10-03 | 
呼吸の間に懺悔した
 断続的な不安や絶望的な孤独やらが
  まるで波の様に押し寄せた
   怒りと欺瞞の世界は
    たぶんあのマンホールの下くらい
     ひどいありさまだったはずだ
      もう戻れない

       接吻を交わした約束は
        あの赤木の木の下の出来事
         ふいに記憶が空を舞い
          木漏れ日がスペイン語で歌った
           守るべき物があった平和な世界
            計画的な設計図
             日常と誰かが口ずさんだ

      おれんじ色の蛍光灯の灯りの食堂
     フロアに皆が集まり
    静かなお茶会の始まりだ
   僕はギターでグリーンスリーブスを弾き
  柔らかな拍手をもらった
 オルガンで中年の女性が不思議な曲を奏でる
曲名は?と聞くと彼女ははにかみながら
 作ったの。「絵の無い絵本」と呟いた
  世界は限りなく切ないものだった
   想い想いの気持ちで微笑み
    ウバという紅茶を飲み干した
     戻らないといけないの
      誰かが戻れない世界にむけて高らかに宣言した
       考えるくらいなら
        運動をするべきさ
         フジサワさんが卓球のラバーを丹念に手入れしている
          おれんじ色
           夜の太陽の下
            僕は過去と現在と未来に懺悔した
             群集の中の孤独
              絶望の虚飾
               忘れかけた記憶で飾り付けて見せた

               お願いだ
              この世界から救い出して

             赤木の木の下の誓いは
            消えてしまい
           後悔の時間だけが化石になった
          時間の化石
         夏の蝉の抜け殻の孤独
        そうっと灯を点けた線香花火の火種が
       哀しみの涙の雫
      零れ落ちる哀しみの世界
     
     お願いだ
    どうして側にいないの?
   あなたの記憶の分だけ空洞が生じた
  心はガラス細工にまるでそっくりだ
 ひび割れた線は赤い線
糸電話で遊ぶ子供達
 それが僕らの最初で最後の世界
  終わりの無い封印
   零れ落ちる悔恨の懺悔
    僕は決して優しくはなかったね
     君の側に寄り添うことが出来なかった

      独白のアルコール成分
       ワインの赤で消え去ると想っていた昼下がり
        痛みは
         痛みはそんなものじゃあ消え去りはしない
          フジサワさんの声を思い出す
   
           ボトルに残っていたワインを
            台所に流した

             お願いだ

             どうしてだろう?

             涙が零れ落ちるんだ



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