眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

ぽろりぽろり

2011-04-17 | 
予告されていた明日が来なかった夜
 バーの扉を開けるとマスターが楽器を悪戯していた
  ビールを勝手に取り出し
   蓋を開けて飲み干した
    マスターは「上を向いて歩こう」を弾き飛ばし
     「天国への階段」を弾きかけて止めた
      空間に突如として存在が無くなり
       天国への階段も存在を失った
        緑色のビールの瓶を軽く振って
         僕はマスターに語りかけた
     
         ねえ、
          この店まだやっていたんだね?

         なんとかね
          見ての通り客なんてほとんどいないけどね。

          そう云って彼は煙草に灯ををつけ
           上手そうに深く吸い込んだ
            僕はウイスキーを舐め
             呆れるくらい変わらない店の中を眺めた
              壁には敗れかけた
               シーナ&ロケッツのポスターが貼られたままだ
                鮎川誠がはにかんだ表情で微笑みかけている
                 グラスを振って僕も微笑み返した

                バーは街角の裏手の細い路地にあった
               周りの風景は変わり果て
              工事ランプの赤が点滅していた
             道路工事なのだろう
            闇夜にライトが当てられ
           作業服の男が数名たむろして煙草を吹かしていた
          その脇を潜り抜け
         古びたバーにたどり着いた
        何故だか奇妙に現実感の薄い風景だった
       懐かしいけれど何かが変わっていた
      まるで変貌した町並みの様に
     僕はマスターが放り投げた林檎を齧った
    まだ青くて酸味が強すぎた
   
   ねえ、
    この店まだやっていたんだね

     同じ言葉を何度も口にした
      マスターは哀しげに微笑んでいた
       
       みんな何処に行ったんだい?

        彼は何も答えず
         かわりに煙草を灰皿で揉み消した
          まるで僕等の存在の様に揉み消した

           ふと壁を見ると
            一枚の古ぼけた写真が視界に入った
             僕等だ
              あの時のままで皆が笑っている
               長い髪を束ねた僕が煙草を吹かしている

               ねえ、
                みんな何処に行ったんだい?
                 誰もこないの?

             
                 目覚めると
                僕は家の縁側にいた
               煙草とグラスとワインが散乱している
              眠っていたのだ
             頭痛のする頭をおさえ
            僕は庭の草木をぼんやり眺めた
           僕は約束されない明日を想った
          急に目頭が熱くなり
         涙がぽろりぽろりと流れ落ちた
        みんな何処に行ってしまったのだろう
       
       涙がぽろりぽろりと流れ落ちた

      涙がぽろりぽろりと流れ落ちた


     ぽろりぽろり

    ぽろりぽろり


   日差しが眩しいくらいお天気の日


  僕は泣いていた





















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着信音

2011-04-08 | 
得てして悪びれない意識の模索は
 遠い誰かの想い出に鎮座する
  凝縮されたインスタントな固形状のスープに似て
   怠惰な日常に浸された夢は
    大抵が悪夢だったりする
     誰かが優しく起こしてくれる時間の長さだけ
      放り出した井戸の底に時間が羅列されるのだ
       たとえば
        たとえば悪酔いに満たされた
         嗚咽を吐く意識の虚像
          嫌
           其れこそが真実だと戯れる夢魔の様相
            教えておくれ
             この夢から抜け出す術を
            未だに僕は受戒の迷路をのた打ち回る
           色んな人物が錯綜する午後
          今が何時なのかも分からないのさ
         一体時計は何処へいったのか?
        夜なのかい?
       どうしてあの時
      僕はあんな態度をとったのだろう?
     侮蔑する自身のみっともなさ
    蝉の声がそう遠くない夏の訪れ
   悪夢とはそういうものだった
  限りなく真実に近い偶像崇拝
 過去を改ざんし記憶をオブラートに包み込む
まるでM&Mのミルクチョコレートのようさ
 薬の味も最近では大差ないさ
  11錠の粒を一息に飲み干しながら
   何時かの影が密やかに笑う
    果たして帽子は笑うのだろうか?
     見たくない顔が鏡に映った瞬間
      それが僕自身だと気ずき
       怯え動けなくなる
        ぜんまいが磨耗した
         ブレスの無い
          早すぎるパッセージ
           呼吸困難に陥るチアノーゼの唇の一歩手前
            君の声で目ヲ覚ます
 
             嗚呼

              未だ生を徘徊す
   
               救われたのだ
                
                君の声に

                
             ずうっと聴きたかった


             
                君の声に
















     
    


コメント (7)
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