眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

ヴァイオリン

2023-09-23 | 
青くたなびいた風
 風鈴の音 
  君の添い寝の微熱
   あの郷愁の夏を憂う陽炎の街は
    何時かのあの日の午後の白い雲
     もくもくと
      ただ誰しもが願った薄明の彼方に
 
       余韻
        ヴァイオリンの鼓動が空気を振動させ
         脈拍の拍動ですら
          暑い日々の懺悔を斯う
           欺いた欺瞞の影で
            赤い舌を出した君の口元
             憶えたての赤い口紅
              
             憶えていて

             真夏の夜の夢に
            君はそう云った
           そうして世界はいつだって青だった
          世界の封印に辟易とした我々は
         廃墟の美術館の中庭で発泡酒を飲んだ
        レモネードのお酒は
       奇妙に甘ったるくてやるせない
      消えてしまった君を想う程に

     ちがうよ
    消えたのは君さ
   君自身なのさ。

  黒猫のハルシオンが
 髭をぴんと立てて云う

  月光は永遠を指し示した
   窓から飛び出して世界に赴くんだ
    永遠が其処に連なっている

     永遠?

      僕は煙草に灯を点け
       アルコールでぼんやりとした意識の最中
        夢を見たのだ

         五弦のヴァイオリンがあるという話を聴いたことがあるかい?

          ハルシオンが退屈そうに欠伸をしながら云った

           五弦?
            誰がそんな奇妙なことを

             あの伯爵さ。
              名うての製作家に作らせたらしい。
               知覚の扉を開くらしいよ。

                多弦楽器の音域の広がりが
                 知覚の扉の秘密なのかい?

                  どうだろう?
                   検討の余地くらいあるだろう。
                    街の科学者たちの格好の題材さ。

                     黒猫はそう云って
                      レコード盤を古臭い再生機に乗せた
                       そっと音楽が流れた
      
                        そっと

                         ひそやかに

                          真夏の夜の夢

                           僕等が辿り着けなかった

                            永遠の物語に関して

                             意識が薄れる

                              薬を飲まなくては

                               いっそ

                               哀しみの足音がする

                                夏の記憶


                                 夏の

















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卵と種

2023-09-21 | 
卵は卵のままで
 種は永遠に発芽することはない
  卵は記憶を内包し
   僕等は卵の記憶を抱いたまま夢を見る
    種は厳かな沈黙で
     僕等の暮らしを経過観察するのだ

      表情は優しく柔らかく
       君がくれた卵と種は
        僕に永遠の街角を想い起させた
         あの街で
          僕は賛美に憧れハモニカでブルースを吹いた     
           2月の何時かの風景は
            重く垂れ込めた空の公園のベンチの様相で
             噴水には水が無かったのだ
              だから僕等は卵の記憶を抱き空から降り始める雨に微笑むのだ
               だって傘なんて誰も持ち合わせてはいなかったから
                雨に濡れ煙草に灯を点けた軒下で
                 一服を吹かす瞬間は
                  果たして過去だったのだろうか
                   それとも不確定な未来の風景だったのだろうか
                    種を煙草の入った銀のシガレットケースに隠し
                     卵が割れないように大切にスカーフで包んだのだ

                     卵が割れると
                      記憶はすべて抹消されるんだ
                       十分気を付けることだんね。

                       黒猫のハルシオンが真剣に告げる
                        髭をぴんと伸ばして  
                         フリップモーリスの紙煙草にマッチで灯を点け
                          退屈そうな塩梅で縁側で背筋を伸ばしている

                          ね、ハルシオン。
                           卵は永遠の記憶を持っているの?

                           そう。
                            あんたが失くした記憶さ。

                             卵が割れると全体どうなるんだい?

                             黒猫は優美に煙草の灯を白い灰皿でもみ消した

                            世界が消滅するんだよ。
                           きれいさっぱり全てが消えてなくなるのさ。
                          そうして新たな世界が現世に表出するんだ。

                         どうして?
                        どうして僕等の世界は消えて無くなるのかい?

                      契約なのさ、あんたと世界との。
                     卵が割れ
                    記憶が失われると契約は破棄される
                   そうして新しい契約が履行されるんだ。
                  そうして其処には、

                 もう僕達はいないんだね。
                僕はそっとはっか煙草に灯を点けた

               「地をうごく肉なるもの 鳥  獣
                 地をはうすべての 皆死ねり
                  その生命の気息の通う者 瀬練
                   かく地の面にある万有を
                    天空の鳥
                     ことごとく拭い去り ただ
                      ともに方舟にありし 在れり」

                      方舟に乗れなかった僕等は
                       ただ君がくれた卵と種を掌に握りしめるのだ

                        ねえ、ハルシオン。

                         種は

                          種は何の為に存在するの?

                           黒猫は皮肉に微笑んだ

                            希望だよ。 

                             キボウ?

                              そう。
                               生きとし生ける者たちのキボウなのさ。

                                煙草の白い煙が灰色の空に流れてゆく

                                 キボウ

                                  希望

















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犠牲

2023-09-17 | 
哀しいくらいに
  
 壊れやすく繊細だから

  あなたは美しい

   綺麗な者

    青の硝子玉

     月夜の散歩

      バーボンとエレジー

       今夜ぐっすり眠れるのなら

        何も要らないよね

         安らかな眠りを

          哀しいくらいの廃墟の遊園地

           豆のスープに胡椒を入れすぎたんだ

            でも

             君の優しさに包まれて

              もう大丈夫

               もう大丈夫

                壊れやすい事象

                 己が身を犠牲にする

                  崇高なる宝の在りか

                   深夜の狂想曲

                    辛らつなる朝日から逃れた

                     君や僕


                     夜の子供たち











  
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神話

2023-09-09 | 
石畳の回廊の
 徘徊した末路
  困惑した掌に虚空を握りしめた
   刹那の微笑を刻印し
    風景の雑音に右往左往する夕暮れ時の図書室
     君の影が永遠に消えた
      君を探している
       ゆらりと消えたあの魚の影
        壁には
         青い鳥の化石が震えている

          オルゴールだよ
          
           寒さに震えた街で
            君は毛布に包まりそう云った
             電線から流れる旋律
              たとえば其れがモールス信号ならば
               僕は青い林檎を齧るだろう
                柔らかな酸味が
                 怠惰な生活を賛美するのだ
                  清らかな記憶
                   永遠の少年少女
                    夜の子供たちの王国
    
                     奏でられる旋律を流浪する
                      いまだ旅の途中なのだ
                       途中下車した街角の街灯が
                        行方に関してたおやかに示唆する
                         フクロウが呟く
                          低い低音の甘美さで
   
                          教えて
                           あの影は
                            何時かの風景に
                             緑の草原にて
                              僕は永遠を待っている

                              どうせ在りもしない仮説さ
                               研究者たちが苦笑し
                                やがて記憶は厳かに解体されるだろう
                                 僕らの物語は
                                  虚空に空中分解するのだ
                                   皮肉な微笑と共に

                                   林檎の酸味

                                  想い出せない白黒映画の結末
                                 終末はきっと美化される
                                そんな名残だ
                               心地良い残り香と
                              オルゴールの音色
                             ただ其れだけが安らぎだった

                            緊急事態のサイレンに
                           群衆が惑う街並みで
                          君は真実について問う
                         解体された意識の羅列
                        数式は難解だ
                       黒板に記された日常という難問に
                      頭が痛くなってワインを煽るのだ
                     いつもより少し多めに

                    青い月
                   窓際から空を見ている
                  深夜の清潔な空気
                 
                 青い鳥
                籠の鳥の優美さで野性を笑った

               貴金属の描写は敏感な皮膚には過敏で
              過呼吸気味の呼吸が
             哀しげに上昇し下降する
            太陽が沈み月が昇った
           白色蛍光灯の哀しみ
          優しさと哀しみの成分について
         そのどれもが正しいのだろうか
        鉛筆で詩を描いた
     
       薄れゆく記憶の中
      音楽を賛美した

     石畳の回廊

    ぐるぐる回る世界で
   その中心点を探した
  何時かの校舎の風景
 描写した誰かの掌のデッサン
鉛筆を赤い舌で舐めた

 正しい街で
  正しさについて君は問う
   できるなら
    君の正しさで僕の罪を罰して
     永遠を想う時
      額に刻印された記憶を問うのだ
       ただオルゴールの旋律が草原に流れる風の行方
        難解なパッセージを容易に弾き飛ばす安易さで
         暮らしは流れるのだ

          忘れないで

           少女の影がささやいた
  
            世界は神話の産物なの

             あなたの物語は

              まだ始まってはいないのよ

               夕暮れ時にアルコールを摂取した
                上昇した体温
                 その熱で気球を飛ばすのだ
                  青い月
                   世界の中心点に向かい
 
                    行こう

                     あの世界の不思議を探して

                      風がたなびく

                       緑の草原で

                        永遠の物語を歌う

                         か細いファルセットヴォイスで

                          君が歌った

                           行こう





















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輪曲

2023-09-05 | 
たぶん君への打電で通じるはずだ
 深夜の物悲しい物語
  何時かの少年の時間は
   決してついえること無かった記憶の暗号
    飛べない鳥が呼吸をする午前零時
     記憶の井戸の底に君たちは眠っている
      
     大学のキャンパスの広場のベンチで
      君は煙草を咥え
       大事そうにギターを抱えている
        適当なアルペジオで和音を奏で
         つまらなさそうに空を眺めた
          僕は君の側に座り
           紙コップの珈琲を飲んだ
            幾人かの学生達が僕らの前を通り過ぎてゆく
             その影は
              まるで黒白フィルムの在り様だった

              物言わぬ惰性で
               スピーカーから狂乱が訪れる
                アジテートする彼等の騒音に
                 不規則に空気が振動した七時頃
                  遊覧飛行する僕らの意識は
                   常に飛べない籠の鳥だった

                   終焉を待つテレパシー
                    空虚な想いは
                     常に優劣をつけない
                      打電した暗号
                       其れだけが真実だ

                       珈琲を飲み終えると
                      僕は眠そうな君の身体を抱えて
                     いつものバーに運んだ
                    紫の煙に巻かれた店で
                   オイルサーディンとクラッカーをつまみに
                  バーボンを胃袋に流し込んだ
                 静かなカウンターで
                君は楽器を抱えて幸せそうに眠った
               レコードから
              優しくボブ・ディランが歌った

             全体君の事を僕はどれだけ憶えているのだろう
            記憶の螺旋を辿るには
           バームクーヘンの層は
          奇妙に分断され細く繋がっている
         君の前髪を想い
        ただ煙草に灯を点けた

       様相は乖離された意識の分別
      頼りない小鳥を抱く
     不手際な優しさで
    君は歌を歌い
   僕は僕自身を消失した
  
  君は歌うとき意外言葉を発しなかった
 言葉は君には辛すぎて
僕には言葉は余りにも饒舌すぎた
 それで君が言葉のトレーニングをしている病院の外来で
  僕はヘッドフォンで音楽を聴き
   紙コップの珈琲を飲んだ
    昼の三時を回る頃
     君はにこにこしながら診察室の扉を開けた
      僕は受付で会計を行い
       自動販売機の珈琲を買い
        君と大学病院の中庭で静かに飲んだ
         湿度が高く
          空はどんよりと重く垂れ込めていた

           打電される暗号だけが真実だ
            飛べない鳥は
             地上を這う幻影なのだから
              
              或る日の出来事だった
               教授先生が家族会に向けてメセージを届けた

               「変化する為の努力
                 変化しないものを受け入れる勇気」

                僕はその言葉をノートにしたためて
                 大切に保管した
                  それから三日後
                   君は君の国に帰った
                    取り残された僕は
                     大学病院の中庭で
                      紙コップの珈琲を飲みながら
                       煙草を咥え
                        ノートのメセージを読み返した

                        僕の前を
                       何人かの学生が通り過ぎてゆく
                      僕は
                     出す宛ての無い手紙を書いた
                    たとえば
                   たとえば君の最後の言葉は何だったのだろう
                  言葉を飲み込んだ沈黙で
                 誰にも聴こえない歌を
                君は確かに歌った
               遠い夜明けにふと想い出す
              聴こえるはず無い君の歌声
             深夜零時に僕は僕を失った
            薄明かりの白い三日月
           微量な電磁波の陽光で
          安易に希望を持たなかった僕ら
         誰それの界隈の雑音を遮断し
        ただ優しい歌を口ずさんだ
       
       15年ぶりに訪れた大学の中庭は
      白々しい空虚さで僕を向かえ
     君の記憶は薄明の中
    幾人かの学生の影が通り過ぎる
   夕刻
  僕は泣けない者の為に泣いた
 白夜の輪曲
蝉の声が止まない

 









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