かくれんぼ

身をひそめた隠れ家は
　大好きな詩集と
　　気に入りの音楽
　　
　　電灯を落とし
　　　例えばね
　　少しだけウイスキーを口に含む

　　　バランスが崩れる序曲は
　　　　いつだって
　　　不安な面影
　　　生きることの快楽と
　　　ひと時　垣間見る不安

　隠れ家に隠れよう
　　世界の秘密をたずさえて
　　　情報を遮断し
　　呼吸の感覚に
　忘れていた
大切な扉を
見つけるんだ

　こわばった身体を弛緩させ
　　たまには夢でもみるさ

　　日々の暮らしで失う
　　　瑣末な事柄
　　かくれんぼには
　　　そんな事象が必須の道具
　　子供のかくれんぼには
　　奇跡と夢と遊び
　何かを見つけたよね

バッハの「シャコンヌ」は緊張するからね
　ビートルズの「ラバーソウル」を流すんだ

　　　手を洗って
　　うがいをしよう

　たまにはかくれんぼ
　　悪くないよ

　　　　　貴方の隠れ家は何処だろう？


　　　　　　　

謎解き

心は何処にあると思う？
　初老の画家が尋ね
　　頭を指差した僕を苦笑する

　　心はね
　　　男は手と手を少し広げ
　　　　その空間を吟味した
　　心はね
　　　この手のひらの間に在るんだよ
　　　　
　　　僕には想像力が欠如していたので
　　　　彼の抽象画くらい
　　　よく解らない話だったのだが
　　　　珈琲にブランデーをたらし
　　　　　　クッキー一枚かじる間
　　　　　　　心について考えてみた

　　　一抹の不安を抱える深夜
　　　　僕は孤独について考え
　　　　　眠ることを忘れた
　　　　　　そんな時
　　　　　心　と思った

　　いつか僕がいなくなったら
　　　柔らかな時間の流れが
　　　　僕の存在の記憶を消し去ってくれるのだろう
　　　　　僕は存在せず
　　　　　　ただ世界が回り続ける
　　　　　　　数人の友人が憶えていてくれるのかも知れない
　　　　　　　　けれども
　　　　　　　　　それすらも曖昧な記憶だ
　　　　　　　　　生きるといううことは忙しいからね
　　　　　　　　僕の存在は早めに消えてしまったほうが都合良い
　　　　　　　何もかもが消え行く
　　　　　　大好きだった音楽
　　　　　風景
　　　　愛用の万年筆
　　　ジョン・レノンを真似た丸眼鏡
　　何本かのギターと
　君との記憶

　　　　心と想った
　　　　　まだ存在しているんだね
　　　　　　不思議で難解な公式の如く

　　　　　　　謎解きは難しい

　　　　　　　どう思う、ワトソン君。
　
　　　　　　　シャーロック・ホームズが
　　　　　　　　皮肉な微笑みを浮かべ尋ねる

　　　　　　　　どうもこうも
　　　　　　　　　コナン・ドイルですら解決できなかった
　　　　　　　　　　妖精の写真

　　　　　　　　　安酒の酔いのまどろみ位が
　　　　　　　　　　僕には丁度良い





　　　　　

怪盗

ペンのインクが切れていた
　僕は朦朧とした意識を
　　白紙のノートに記憶させようと
　　　
　　やがて
　　　書いた筈のお伽や夢や
　　　　記憶や感触が
　　　実はもう
　　　　何も残っていなかったことに
　　　　　気が付くのは
　　　　　　四ページ目の出来事
　　　　　憶測された不安と欺瞞

　　　何もかもが意識の範疇から
　　零れ落ちた
　零れ落ちた

　　大胆不敵な怪盗の
　　　のっぴきならない手際のよさで
　　　　僕は
　　　　　あるがままを見落とす
　　　　　　
　優しい気持ちはね
　　余裕がある証拠さ
　　　君がシニカルに唇を歪ませる
　　　　
　　　「だって　あんた
　　　　　昨日　あの子に何て云ったんだい？」

　　　蛍光灯で暴かれる偽善の報いには
　　　　精神を鈍磨させる
　　　　　シーバス・リーガル一本じゃあ
　　　　　　全く足りないね

　　　やはり
　　　　場数を踏んだ怪盗の
　　　　　盗みの手口は巧妙さ
　　　　　　わけなく盗み出す
　　　　　普段
　　　　埋もれていた悪意を
　　　優しさが長続きしないなんて
　　
　　誰かが盗み出し
　　　にやりと冷徹に微笑む

　　　　偽者さ
　　　　　本当の優しさは
　　　　　　あんたにはちょっぴり早すぎたのさ

　　　　まんまとやられ
　　　　　呆然とした警官隊の如く
　　　　　　僕は
　　　　　　　世界の中央に取り残された

　　　　　　　ボクはトリノコサレタ