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「大坂慕情~なにわ四条派の系譜」

2006-10-10 | 持ち帰り展覧会
隣国が核実験実施、というニュースが流れる日に、暢気に「近世大阪の絵」を見にいく自分を許せないような気がどこかでする。しかし、これは逆である。私が展覧会を見にいってる間に核実験するなんて、と怒るべきことなんだ。

私の住む芦屋市は人口8万。阪神大震災の復興にお金がかかり、市の予算は苦しい。当面の生活に関係のない文化予算が削られ、素適な建物である市立美術博物館の存続が危うくなっている。今年から市の委託を受けたNPOが運営にあたる事になったらしい。コーヒーの美味しい喫茶室も新しく開店したそうなので行ってみた。自転車を隣の市立図書館の置き場に留めたら、文教地区にふさわしくおっとりした三毛のノラネコさんがいた。

震災で敷きレンガが一部ガタガタになったままの図書館横の通路を通って美術館に向かう。入り口門から広い芝生の庭、お花の手入れをしてる人はボランティアかもしれない。目があったので「こんにちわ」と声をかけたら明るい微笑みと共に「こんにちわ」が返ってきた。いい気分で館内に入る。しかし「なにわ四条派の系譜」でどれだけ入場者があるのだろうか。広い館内は、休日でも閑散として広々としたエントランスが贅沢な空間に思える。そう美術館にはこの贅沢さを味わいに来るべきなのだ。2Fには外を見張らせる座り心地のいいソファ、資料室の無防備な豪華本達。みんなあなたのために置いてるのよっていってる。入場料は500円。

私は絵画などの展覧会に行ったら必ず「自分が持ち帰るならどれだろう」という目で見るようにしている。作品の付加価値ではなく、自分にとっての価値の高い作品を選ぶのである。

しかし今回の近世大阪四条派の絵というのは、あまりにも自分との距離があるので、距離を縮めるために(向こうからはやってこない)シンポジウムでお勉強した。シンポジウムに参加すると、その展覧会を企画した人の情熱や、展示品の収集にあたっての経過などから、展示品の今の状態が伝わってくる。

昔日本史の授業で「大坂」が明治維新以後「大阪」に変わったと習ったが、「坂という字が、土に返るというので縁起が悪い」と、江戸時代すでに阪の字を使用していたらしい。芦屋はこの大阪の奥座敷、今でも六麓荘は、神戸ではなく大阪の金持ちの屋敷街である。

大坂画壇を語るとき、欠かせない木村兼霞堂(けんかどう)という18世紀後半の大阪堀江の知の巨人についてはシンポジウムで初めて知った。文人画家・書籍文物の収集家でもあった彼が残した日記がある。そこには彼がその日に会った人名だけ書かれていて、その数は19年余りで、特定できる人が約7000人、のべ人数4万人にのぼるらしい。(誰かが数えたのね)平均したら1日5~6人である。ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」のパロディ画「木村家の食卓」という最近描かれた絵が紹介されていた。面白い。ところで、私は生涯特定できる(互いに名前を確認して出会う)人が何人いるだろう。

今、浮世絵展を日本で開こうとしたら、ボストンなど海外の美術館から借りて来なければならない。浮世絵は明治になっても錦絵として作られていたが、大阪では明治12年くらいから不特定多数への販売を目的とした浮世絵制作は衰退して、少数の限定した人に配るための注文に応じた金粉など使用した豪華な「摺絵」がつくられた。この摺絵も海外流出が多く、最近海外の研究者が増えているらしい。

確かに掛け軸物は洋風の住居空間に似合わないけど、浮世絵や摺絵は飾ることができる。ゴッホやモネの絵にも出てくる。輸出用陶器の包み紙にしていた浮世絵に驚いてジャポニズム熱がおこったというのは本当かしら。「初めて時間を止めてみせた人、北斎」って吉永小百合さんが最近TVのCMで言ってる。日本でも浮世絵ブームはおこっているのかもしれない。先日の神戸市立博物館の浮世絵展は凄い人だった。

さて、「大坂慕情」展である。
展示品の中の「立版古」=長谷川小信作「浪花心斎橋鉄橋の図」が面白い。立版古というのは豪華なおもちゃ、切り抜いて組み立てる。拡大コピーして組み立てた物を絵の横に展示している。美術博物館の学芸員のセンスに乾杯!…でもこれは大きすぎるので、今回の私のお持ち帰りは、「花の下影」という、幕末の大阪のお店316軒を描いた風俗画本。今も残ってるお店があるらしい。ページをめくって確認したい。
風景のデッサン帖もいい。西山完英の風景画に何度も登場する天保山。海遊館のあるところだ。それが天保2年に安治川河口の堆積した土砂で人工的に作られた山だということを、解説で知った。調べたら現在標高4.5m、日本で一番低い山だという。やはり、展覧会は発見があって面白い。

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