星降るベランダ

めざせ、アルプスの空気、体内ツェルマット
クロネコチャンは月に~夜空には人の運命の数だけ星がまたたいている

彫刻室

2020-08-13 | 持ち帰り展覧会
神戸の横尾忠則現代美術館の隣には、阪神淡路大震災まで、1階に広い彫刻室のある兵庫県立近代美術館があった。兵庫県立美術館の前身である。
忘れられない彼らがいた。
半身裸像で少し高い岩の上に座る「風の中のベートーヴェン」(ブールデル作1904)。
何かに耐えているような彼の視線の先には、ロダンの「永遠の青春」1884。
アクロバット的に身体をそらした恋人達の情熱的な抱擁シーンを、ベートーヴェンが眉間に皺寄せて強い視線で見下していた。
一瞬、ベートーヴェンが気の毒になる。でもこれこそベートーヴェンだと胸がキュンとなった。。
像の台座には「風が立つとき、わが魂も渦巻く」と彼の言葉が刻まれていた。
彼の中では、今、どんな風が吹いているのだろう?どんな音楽が生まれているのだろう?
違う作家が、別の場所で、別の時間に想像した作品が、美術館の空間で出会う。
彼らが、そこに、そのように在ることで、新しい物語が生まれてくる。

残念ながら、兵庫県立美術館では、もう2度とこんなシーンは現れない。
「風の中のベートーヴェン」は、西宮の兵庫県立芸術文化センターに行ってしまったからだ。
二つもあるのだから、一つは美術館に帰ってきて欲しい。

彫刻室の空間は学芸員さんが創る。面白いだろうなあ。これとこれの視線をそろえたり、交差させたり。新たな出会いの空間を創るお仕事。

昨年、安藤忠雄記念室ができた為、2倍に広くなった兵庫県立美術館の彫刻室。
そこには、近代彫刻の傑作がたくさんある。現代彫刻も、面白い作品が並ぶ。

2020コレクション展Ⅰでは……
ジャコメッティの「石碑Ⅰ」。首の長い男が、やや上向きにじっと前をみている。
いつも、禁欲的な彼が登場すると、周りの空気を浄化する。
でも、今回は、いつもと違う空気を漂わせている。
彼はさっきから、彼女のことが気になって仕方がないのだ。いつもに増して姿勢を正しているけれど、頬の辺りが緊張している。

           ジャコメッティ「石碑Ⅰ」1958

「こっちへ来る。こっちに向かって歩いてくる。泣いてる。彼女は泣いている。」

                   

 クロチェッティ「マグダラのマリア」1955

右から見たマグダラのマリアは、「ダ・ヴィンチ・コード」(ダン・ブラウン)の世界に、時空を超えて繋がっていた。
              

「石碑Ⅰ」の男が、そのことを知ったら、針金のようになってしまうかもしれない。
いや彼は知っている。だから、さっきから喉仏が動いたりしないように意識を集中している。
コメント
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