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星降るベランダ

めざせ、アルプスの空気、体内ツェルマット
クロネコチャンは月に~夜空には人の運命の数だけ星がまたたいている

虹色の雨

2008-04-23 | 持ち帰り展覧会
高校の修学旅行で、初めて富士山が目の前に現れた時、その美しさに感動した。今度生まれ変わったら、富士の麓でこの山を見ながら過ごしたいなぁ、と思った。
この人もきっと私と同じなんだろう。山崎隆夫さんの富士の絵を観てそう思う。

芦屋市立美術博物館で、始まった「秘密のコレクション展」で、一番好きな絵は、山崎隆夫さんの「きつねのよめいり(富嶽シリーズ)」
青い空、富士は白く輝いている。なのに、雨が…。
雨を表すのは、画面に垂直に張られた細い虹色のピアノ線。
私の今までの人生で何度かふいに出会った、不思議な「天気雨」
…そう、あの正体は、虹色の雨だったんだ。
 次の、いつかの出会いが、楽しみになってくる。

今回の「秘密のコレクション展」は、館が所蔵している作品で、今まで未公開だったものを中心とした、30点余りの慎ましい展覧会である。
       …とても慎ましい節約チラシ。

そんな中で、まぁこんな作品があったのねー。と驚いたのがブールデル。

あの「弓を射るヘラクレス」「嵐の中のベートーヴェン」の彫刻家ブールデル(1861~1929)である。
ただし、38㎝×22㎝のテラコッタ作品13枚。題名は「デモステネス」
第一次世界大戦時のフランス首相ジョルジュ・クレマンソー(1841~1929)が、晩年「デモステネス」という本を著した。その挿絵を描いたブールデルが、自作をレリーフに立体化したもの。

デモステネス(前384~322)といえば、かのアリストテレス(前384~322)と全く同時代のアテネの雄弁家である。デモステネス・コンプレックスという言葉があるように、吃音矯正努力により、ギリシア一の雄弁家になった人。最近、彼の「沈黙は金、雄弁は銀」という言葉の意味が、従来の理解とは反対であると、話題になった。前4世紀のギリシアでは金より銀の方が、価値が高かったのである。でも、この言葉、プルタルコスの「英雄伝」には出てこない。

クレマンソーはこの本で何を著したのか?ブールデルとの関係は?と、わからないことだらけなのだが、テラコッタを観ながら、想像してみる。

クレマンソーという人は、日本の香合を3000点も蒐集している。4年前、西宮市大谷記念美術館で、その掌にのる小さな美しい陶器の数々を、私は長い時間かけて観た。日本国中の窯元を網羅している素晴らしいコレクションだった。だが、彼は政治家である。
第一次大戦後、彼はドイツに対し強行策を主張、連合国はドイツへ重い賠償金を課した。それがナチスドイツの台頭へと、繋がっていく。そのことから、1920年代の著作であるその本の内容は、おそらく、圧倒的な強者マケドニアに対する闘いを、衰退しつつあるポリスの民衆に呼びかけたデモステネスを、フランス国民に向かって愛国心を鼓舞するために辿った伝記ではないか、かつてドレフュス事件の際の自らの勇姿を投影したのではないかと、勝手に推測する。

しかし、ブールデルのこのテラコッタ作品から受ける印象は違う。
馬に乗り、民衆を踏み敷くフィリポス2世やアレクサンドロス大王は、大きく逞しく彫られているが、デモステネスは、どちらかというと弱々しい。民衆はうなだれるか、デモステネスの方を仰ぎみている。しかしその視線にデモステネスが応えているような感じがしない。雄弁がもたらす高揚した空気がそこには感じられないのだ。
「ギリシア最後の輝き」というより「ギリシア最後のあがき」として、ブールデルはこの作品をつくったような気がする。

チラシを節約しつつ、私にとっての大切な癒やし空間、芦屋市立美術博物館は、今年度も存続している。
でも、いよいよ、2009年度からは、指定管理者制度を導入するらしい。
良心的な引受先が登場しますように、
今年が、最後の輝き(あがき)となりませぬように、と祈ろう。
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