星降るベランダ

めざせ、アルプスの空気、体内ツェルマット
クロネコチャンは月に~夜空には人の運命の数だけ星がまたたいている

精神の呼吸

2008-09-01 | 持ち帰り展覧会
国立国際美術館のモディリアーニ展…初めは彫刻家を目指しパリに来たイタリア人のモディリアーニが、アフリカのプリミティヴアートに魅せられ、カリアティッド(ギリシア神殿の柱像)を経て、ついには、あの長い首筋なで肩の女性像に至ったという過程が、よく理解できるわかりやすい展覧会だった。

しかし今回の感動はモディリアーニではない。
エスカレーターで地下3Fのモディリアーニ会場に降りる途中の地下2Fで、凄いものに出会ってしまったのだ。
作者は、塩田千春さん。

             ~「DNAからの対話

この写真はポーランドの展覧会。今回は2000足というこの時の数倍の数の靴が、集められていた。実物はポスターのこの写真よりはるかに広がり・迫力がある。教室2個分はある赤い不揃いの同心円。子犬がいたら狂喜乱舞しそうな空間。
一つずつに、その靴の提供者が書いたメッセージメモが付いている。
「初めてデートに行った時に履いた靴です」「退職後ヨーロッパ旅行で履いた靴…だんだん軽い靴を履くようになりました」「帰り道、子供の靴は片方いつのまにか脱げていました」などというメッセージを読んでいるうちに、震災後の街を歩いた私のあの靴も、この中のどこかに混じっているような気がしてきた。
塩田さんは、ドイツを中心に活動していて、この作品の初発表はポーランドだった。ならば、どうしたってアウシュヴィッツ収容所の、靴の山を彼女は意識しているはずだ。
それぞれの靴にはそれを履いた人の記憶が残っている。今も動脈血管のような赤い糸で、真っ直ぐ記憶と繋がっている。
やがて、自分の靴を履いて立っている老若男女の群衆の姿が、赤い空間に浮かんできた。
…再び靴は歩き出す。

モディリアーニどころではなくなった。
精神の呼吸」という塩田千春ワールドに突入。少し勇気がいる。

眠りの間に」は、天井も通路も黒い毛糸を張り巡らせた、巨大な空間。
もしも蜘蛛が透明な細い糸ではなく黒く太い糸をはくならば、廃墟はみんなこのような姿になるのだろうか。
中には一つ一つが黒い糸で覆われている本物の20台のベッドが、並んでいる。
30代の終わりに一ヶ月ほど入院したことがある。病院の夜は静かで自分の心臓の音ばかり聞こえてくる。4人部屋で、他の3人が眠っているのか、起きているのか、気になってしょうがない。無心で眠りたかった。スーと眠れたらどんなにいいかと思った。でも、一番怖れていたのは、眠ったらもう2度と目覚めないかもしれないと思うことだった。
黒い糸は、ベッドで眠る人間の体内から抜け出した妄想の姿なのかもしれない。
塩田さんのこの作品を見てしまった私は、今度入院したら、これを思い出して、また眠れなくなるのだろうか。目覚めたらこんなになっていたら、どうしよう。
激しく絡み合う黒い糸は、先程の直線的な赤い糸より軟らかい感じがする。
患者を守り覆う繭(マユ)にも見えてくる。守るものがいつしか拘束するものに変わる怖さも伝わってくる。


そして「皮膚からの記憶」…奈良の大仏様を初めて見た時私はこんなに驚かなかった。たぶん大きいって予想していたから。塩田さんが2001年第一回横浜トリエンナーレで発表したこの鮮烈なドレスのことを私は事前に全く知らなかった。
知らなくて良かった。ひさしぶりだもの、こんなに「ボーッ」と口開けて「凄いー」て、何分間も見とれたのは。自分がまるでガリバーを見上げる小人の国の子供になった気分。この3着のドレスを着ていたのは、誰だろうって、単純に畏怖の気持ちを抱く。どこかの古代遺跡から、出てきたもののような気もする。

いやー、モディリアーニさん、ありがとう。おかげで塩田千春ワールドを体験できました。

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