ビーナスラインをセローで走っていた昨日のことだった。青空の下、爽快な風を感じながら、自然と一体になったかのようにバイクを駆けていたその時、突然、エンジンが停止した。アクセルをひねっても反応がない。セルモーターも、ウインカーも、ホーンも、すべてが沈黙。まるで時間が止まったかのようだった。
最初に頭をよぎったのは、メインヒューズの故障か?という疑念だった。しかし、ヒューズを確認するも異常は見当たらない。次にバッテリーの電圧を測定してみると、驚くべきことにゼロボルトを指していた。セロー225Wはキックがないので、セルモーターが回らない限りエンジンを始動できない。焦りとともに、どうするべきか頭の中で次々とプランが浮かんでは消えていく。
困り果て、最終手段としてJAFを呼ぼうと携帯電話を取り出す。しかし、なんということだ、圏外だ。携帯の画面には「圏外」の文字が無情にも浮かび上がっている。これではJAFも呼べない。目の前に広がるのは、山の風景と、静寂。そして、孤立無援の状況に置かれた自分。
だが、幸運にも私は峠の頂上付近で止まっていた。ここで私は冷静さを取り戻し、重力の助けを借りることに決めた。セローを惰性で走らせ、電波の届く場所まで下っていく。15キロほど進んだところで、ついに携帯に電波が届き、JAFに連絡ができた。30分ほど待つと、救助の車が到着。20キロほど先の友人宅まで牽引してもらった。
友人に事情を話すと、驚いたことに、彼はセロー用のバッテリーの予備を持っていたのだ。これもまた、幸運だった。バッテリーを交換すると、セローは何事もなかったかのようにエンジンがかかる。友人は笑って、「10年以上使ったバッテリーなんか、そりゃ壊れるさ」と軽く言った。
こうして、絶体絶命の危機はまたしても回避された。峠の頂上で止まったこと、友人がバッテリーを持っていたこと。偶然が重なり、幸運が私を救った。振り返ると、私は不思議といつもこうして何とかなる道を歩んできた気がする。これも一種の強運というものだろうか。