「老いて新鮮」松ひさし

生き物たちのこと
僕は知っている
野山の生き物たちが生まれるときのこと
牛さんや馬さんは　お母さんの牛や馬のおなかから
小さな小さなからだで生れ　育って大きくなる
狸さんや狐さんも同じようだろう
鳥さんは卵で生れ　卵がかえって幼鳥になり育つ
虫さんは卵で生れ　卵がかえって幼虫になり育つ
魚さんは卵で生れ　卵がかえって稚魚になり育つ

「川柳歳事記」

神経
とんがった神経ひまわりがわらう
チリメンジャコの向きをそろえている男
優しさで包むと刺がぬけてくる

「川柳歳事記」

自慢
村自慢地場産品の道の駅
ナポレオンそんな自慢もへし折られ
美男美女自慢の子らに捨てられる

「川柳歳事記」

個性
私にも咲かせる個性あったのに
個性ある男ボタンをかけ違い
不器用な手だが握手はとても好き

「川柳歳事記」

結果
核ボタン押してヒト科が滅ぶ星
指切りの指が謀反を企てる
肩書を外すと男の貌が失せ

「川柳歳事記」

石段
石段を善男善女登る朝
石段を登れば神に近付ける
ジャンケンポン石段下りる帰り道

「川柳歳事記」

イコール
愛情を忍耐と読む共白髪
幸せにします男の共通語
秀才も鈍才もないケアハウス

「老いて新鮮」松ひさし

生き物たちのこと

僕は知っている
野山の生き物たちが生まれるときのこと
牛さんや馬さんは　お母さんの牛や馬のおなかから
小さな小さなからだで生れ　育って大きくなる
狸さんや狐さんも同じようだろう
（つづく）

「川柳歳事記」

歩く
オフレコの話が独り歩きする
二の鳥居から抱いた子を歩かせる
ぬかるみも男の道として歩く

「川柳歳事記」

揚げる
どん底で一旗揚げる策を練る
寒いなあ揚げ足取ってからの風
旗揚げて増えた男の向こう傷