「誹風柳多留」

あれ斗女かと母ちゃちゃを付
「ちゃちゃを入れる」とはからかうとか、冷やかすというほどの意味であるが「ちゃちゃをつける」はもっと強調されて、文句をつけるというほどの意味になる。吉原あたりの女郎に夢中になっている息子へ、母親のくどきである。あるいは、母親から見れば、はすっぱな地女かもしれない。いずれにしても母親の心配は絶えることはない。

｢川柳歳亊記

芸
一発やさらさら落ちる砂時計
腹芸で鳩首纏めた年の功
諧謔を弄する芸のチャップリン

｢川柳歳亊記

隅
刺のある言葉の隅に人間味
片隅に昨日の義理が脱いである
言い勝って心の隅に残る悔い

｢川柳歳亊記

気
芽吹く日の元気溜めてる冬木立
泥くさい男の胸にある気骨
百歳の笑顔の影に見る気力

「誹風柳多留」

雨でも雪でも居つけさ居つゝけさ
どんな道楽息子も、吉原で居続けするには理由が必要らしい。酒飲みが酒を飲む理由と同じである。贔屓チームが勝っては飲み、負けては飲むことになる。何でも居続けの理由にしてしまう。今日は親父の一周忌だからとか、母親と喧嘩した日であるとかだ。後半の繰り返しは、おどけだろうがそれで気持ちのバランスを取ろうとしているのだろう。やはり照れ臭いのだ。

｢川柳歳亊記

カード
一枚のカードがわたしを保証する
レッドカードを幾つも持っている妻だ
似顔絵の名刺私を置いてゆく

｢川柳歳亊記

カード
ジョーカーをロンドン塔に幽閉する
山札ににきび手札は総流し
過呼吸のカード　どこまでお使いに

「誹風柳多留」

五六ふくくらった上でのみなんし
吉原での初会の客へ遊女の態度であろう。そっけなくしながらもそれなりのサービスを怠らないような気遣いでもある。お互いに初対面だから、多少のためらいはあるけれども、片方は商売である。手管と言うよりも、遊女にしてみれば日常である。そのちぐはぐさである。

｢川柳歳亊記

美味しい
おふくろの手料理花咲く一周忌
禁煙の舌が催促するご飯
群がったおいしい話霧となり

｢川柳歳亊記

絵
額縁をはずすと値打ちが下がった絵
自画像のちょっと省いたシワとシミ
しあわせな絵が描いてあるカレンダー