「老いて新鮮」 （松ひさし）

不運な作品たち

つぎつぎに新しい自動車がつくられる
いい自動車だなと乗っていると　つぎの自動車がすぐに登場してくる
いろいろな料理が広いテーブルに並んでいる
いい味だなと食べていると　別の料理が運ばれてくる
つぎつぎに　いろいろと　出てくる　消えていく

つぎつぎに新しい歌がつくられる　新しいCDがショップに並ぶ
いい歌だなと聴いていると　つぎの歌が流れてくる
つぎつぎに新しい小説がつくられる　新しい本が書店に並ぶ
面白い小説だなと読んでいると　つぎの小説が登場してくる
つぎつぎに展覧会や公演が開かれ　大小催物の案内が賑やかだ
見に行こうかと思案しているうちに終わり　次の催物が始まる

いろいろ　いっぱい生まれる作品　いずれか後世に残るだろうか
つぎつぎに生まれる作品に押されて　吟味されないまま消えていく作品たち
主題も表現力も多様で力作がある　おいしい味　変わった味もあるけれど
いろいろ　いっぱい食べると　おいしさを感じなくなる
あれこれとある豊かな時代に生まれ　いい歌いい作品なのに
後の世まで伝わる名歌名作になれそうにない　不運な作品たち

はかなく消えていくものは美しいという言葉がある
不運な作品たちに　この言葉を贈ろう