<混合診療についての民医連の立場>
2004年11月5日 全日本民主医療機関連合会長 肥田 泰
1.小泉改造内閣の新たな動き
小泉政権は、内閣改造以降、郵政民営化・三位一体改革など、自民党内の反対さえ押し切って構造改革路線を進めようとしている。医療保険制度に関しても、9月10日の経済財政諮問会議で、小泉首相は「混合診療については、年内に解禁の方向で結論を出していただきたい」とのべ、それを受けて、経済財政諮問会議も、混合診療全面解禁を拒否してきた厚労省に圧力をかけている。
2.現物給付を原則とした公的医療保険制度
わが国の公的医療保険制度は、健康保険法第63条で、「被保険者の疾病または負傷に対して療養の給付を行う」と規定している。それは「保険者が被保険者に『療養』を現物で給付し、その費用が保険者と当該医療を提供した保険医療機関との間で、公定価格に基づいて清算されるシステムである」(日本医師会医療政策会議「混合診療についての見解」平成15年3月)。従って、「現物給付というシステム自体が、被保険者からの一部負担金以外の費用徴収を不可能としている」(同上)。
3.「現金給付」制度への転換は、国民皆保険の崩壊につながる
一方、「現金給付制度」は、「被保険者と医療機関との間で費用の全額が清算され、保険者は被保険者にその一部を現金で償還するシステム」(同上)である。保険診療と自由診療の併存を認める混合診療「全面解禁」の前提には、保険制度を、このような「現金給付」にした上でしか、成り立ち得ない。しかし、一たび、公的保険制度が「現金給付」になり、自由診療と並行する制度になった場合、新しい技術や薬の保険適応への圧力がなくなり、国民は否応なしに自由診療を迫られ、金のある無しで命が左右される医療になり、世界一の長寿国の保証となった日本の国民皆保険制度は崩壊する。
4.ベッド差額をとらず混合診療を否定してきた民医連
一方、1984年に制度化された「特定療養費制度」は、現物給付の枠を変えずに、高度先進医療や特別の療養環境(差額ベッド)など選定療養に限り、保険診療と保険外の費用負担の混在をみとめた。これは限定された混合診療といえる。
我々は、有効性・安全性に関する科学的根拠が確立した医療行為は、全て保険適用にすべきと考えている。従って、「特定療養費制度」自体、我々は自由診療に道を開くものであると反対し、ベッド差額を徴収しないことで、混合診療反対の立場を一貫して実践してきた。
5.特定療養費制度の限定を破った180日超入院への適用と民医連の立場
しかし、2002年の診療報酬改定で、「180日を越えた日以後の入院にかかわる療養」の入院基本料に「特定療養費制度」が導入されたことは、入院を必要としている患者に、自動的に保険外診療を導入することを意味した。我々は、この「180日超」問題は、選択の余地のない患者に自由診療を押し付け、現行「特定療養費制度」の枠組みさえ破るものとして、強く反対してきた。同時に、そのような差額費用は徴収しない運動を全国で進め、具体的事例から、適用除外の枠を拡大する運動もしてきた。
6.「混合診療」と「特定療養費の制約なき拡大」に反対する
このような立場を貫く実践活動をしてきた民医連は、自由診療を全面的に解禁する混合診療には絶対反対であることはいうまでもない。また、これまで保険適用されていた領域にまで「特定療養費制度」を拡大することは、これまでの窓口自己負担に10割負担部分ができることになり、患者負担を飛躍的に強めることは明らかである。このように、経済力の格差で医療が差別化される「特定療養費制度の制約なき拡大」は、結局自由診療枠の拡大を意味し、公平性・平等性を原則とする国民皆保険制度を崩壊させる。
7.国民皆保険制度を守る一点での医療界の大同団結を
日本医師会は、小泉構造改革の混合診療導入の動きに対し、医療営利化を阻止し、国民皆保険制度を守るため、各医療団体と「国民医療推進協議会」を結成し、闘争本部を構えて、地域ごとの大集会や署名運動を提起している。
我々民医連も、以上述べてきたように、混合診療に反対し、国民皆保険を守る点で、日本医師会などの医療団体と基本は一致している。我々は、国民皆保険制度を守るための一点で、医療界が大同団結することを訴え、「国民医療推進協議会」の署名運動に共に取り組む決意である。
8.国民皆保険の裏づけである憲法第25条を守り、その精神を活かす社会保障の確立を
今日、憲法改正の動きがある中で、憲法第25条の精神は、日本の社会保障制度の根幹として生き続けてきた。しかし、混合診療全面解禁を狙う小泉政権と財界は、この憲法第25条の精神を形骸化しようとしている。また、特定療養の制約なき拡大で公的医療費の総枠抑制を図ろうとする厚生労働省も、憲法25条の精神を活かす任務→責務を果たしてない。
我々民医連は、国民皆保険の基本的裏づけである憲法第25条と、命と平和の後ろ盾としての憲法第9条を守るために、国民と共に戦う決意である。
<北海道新聞社説>混合診療拡大 健康格差を広げる恐れ
公的保険が使える診療と保険外診療を併用する混合診療は、あくまで例外とすべきだ。むやみに拡大すれば、誰もが一定の負担で治療を受けられる国民皆保険制度の理念が骨抜きになりかねない。
安倍晋三首相は成長戦略の一環として、混合診療を拡大する新たな制度を創設すると表明した。混合診療は現在原則禁止で、厚生労働省が承認していない薬や治療法を利用すると、保険適用分も含め全額自己負担となる。その一方でがんの先進医療などとの併用については一部保険適用とするなど例外も認めている。
新制度はこうした例外を拡大するのが狙いだ。自己負担が軽減される人は増えるかもしれないが、未承認の薬や治療法は高額な場合が多く、受益者は一部に限られることを忘れてはならない。
経済界には全面解禁を求める声があるが、医療を経済成長の手段とするのは筋違いも甚だしい。
富裕層しか恩恵が受けられない仕組みが肥大化すれば医療や健康の格差が広がるのは明らかだ。見直しに当たっては、公平性を最優先に考えなければならない。新制度は患者からの申し出が前提だ。国内で前例のない治療や新薬の使用については、北大をはじめとする全国15の中核病院などに限定する。国に申請し、専門家会議が6週間で可否を判断する。
既に実績のあるものは、一般の病院でも実施できるようにし、中核病院が2週間で審査する。現在、例外で認められている先進医療は承認までに6~7カ月かかり、国の指定施設でしか実施できない。新制度は患者によっては身近になるかもしれない。ただ、こうした短期間の審査で患者の安全が確保されるのか、懸念が拭えない。
まず、審査方法や基準など具体的な内容を明らかにした上で、慎重な議論が不可欠だ。
そもそも患者によって医療知識には大きな差がある。すべての患者が効果や副作用を十分に理解し、治療の申し出ができるかは疑わしい。患者の相談に応じる第三者機関の設置も欠かせない。
効果や安全性が確認されれば、希望する患者が増えるかもしれない。しかし、こうした例外を放置すれば、病院や製薬企業にとって利幅が大きい保険適用外の治療法や薬ばかり出回りかねない。
むしろ効果や安全性の高い薬や治療法は速やかに保険適用すべきだ。誰もが利用しやすくしてこそ国民の利益につながるはずだ。