日本酒の専門店です

私は大学で発酵の勉強をしました。ここでは私達の身の回りを取り囲む、日本酒をはじめとする発酵食品を楽しくご紹介したいと思います。

予約なしで楽しめるよになった炊き込みごはん誕生秘話

2015年09月17日 19時39分42秒 | しもみや新聞

このお話はお店のニュースレターとして発行されたものです。一般に公開したほうが良いからと勧められましたので、女将が特別にここに書くことにしました。

8月20日は予約なし炊き込みごはんが楽しめるようになった記念すべき日で、私はこの新聞を書いています。
初日はてんてこ舞いでした。
このお釜ごはん、本来は4合炊きの大きなお釜を使って、それも予約しないと食べることが出来ませんでした。石巻で酒米を作る専業農家・太田さんと出会ったのがきっかけになり、私達は色んな話をし、その中で幻の酒米亀の尾が実は元々飯米だった事を教わり驚きました。そのことを知る人は業界の中でも少なく、酒米として定着した亀の尾をまして食べる事が出来る店はないに等しいという話になり決まりました。

 

 生産者太田さんが知っている美味しい食べ方を伝授。それには昔から使われているお釜でした。それと浸水時間の大切さ。前日から水に浸し、しっかり給水する事でした。そういえば昔の母親達は寝る前に水に浸していた事を思いましました。そのうち炊きあがったごはんのお焦げも評判になり、電気釜にない美味しさに感動する声はよく耳にしていました。
しかし、ここ数年ごはんの予約は少なくなって私達の情熱も冷めていました。
それよりもお店の経営が危機的なところまで来て、正直それどころではありませんでした。何がどう悪いのか、考えてもさっぱりわからずふたりで苦しんでいたそんなある日、下宮が普段見ない番組をビデオにとっていました。本人は睡魔に襲われ観ることなく寝室へ。いつもの私ならここでビデオを止めるのですが、この日はひとりで観てしまったのです。
そこにゲストとして見知らぬ男性が出て来て心が奪われました。その人は私達が知っているある企業を一流企業へ短期間で成長させた人でした。
私は番組内容よりもその人に興味を持ち見入っていました。私はためらうことなくその人へ連絡を取りました。するとすぐに返事がきました。そこには的確な指示と自分に正式に依頼するとますますお店の資金繰りは厳しくなるでしょうから東中野方面へ行く際の立ち寄りますといった内容でした。 そしてすぐにご来店。色々話した最後にメニュー表を見てこういったのです。
「後ろ(メニュー)に載っているお釜ごはんは予約じゃないと食べられないんですか?これはもったいないですね。これを予約なしで当日食べられるように何とかなりませんか。これは目玉商品になること間違いなしですよ!」
私達はお客様の事を思って浸水時間にこだわりましたが、その指摘に驚きました。確かに私が客だったとしても、客としてのこだわりと提供する側のこだわりのずれはよくあることです。盲点でした。こだわる部分が違ったのです。


お客様が来ない時間や休日を使って行動開始。

 

まずは昔4合炊きのお釜を買ったかっぱ橋のお店へ行き、これの一合炊きお釜を一個購入しました。そして試し炊き。良い感じです。早速お客様数人に試食してもらいましたが、手応えはありました。
しかし、すぐにお釜に黒い大きなシミが・・・。金属たわしで力一杯擦っても取れません。それを持って購入したお店へ行き、どうしたら取れるのか尋ねてみましたが、結果は鍋のアルミと水に含まれる物質が化学反応を起こし黒いシミは取れないと云われました。さてこれではお客様に失礼にあたり使えません。振り出しに戻ってお釜を捜すところから始まりました。


落胆している訳にはいかないのでネット検索。便利な時代です。見つけたのがフッ素樹脂加工された可愛いお釜でした。これならシミも出来ないし、汚れも落ちやすいとまずは一個購入。届いた箱を開けるとまるで安い香水のような強烈なにおい、それは蓋のにおいでした。臭いのなんの強烈でした。大きな鍋に入れてグツグツ1時間煮てみましたが完全に取れません。でも蓋の内側には溝が掘ってあり沸騰してずれないような工夫がしてあります。残念な事はにおいでした。だいぶにおいも収まって来た頃、再びお客様に試し炊きしてみましたが、蓋を開けた瞬間、暖まる事でかすかににおいがわかりました。新メニュー開始の日にちも迫ってきているし、お釜はこれしかありません。このお釜に決めて数個購入。
しかし、届いた蓋はやはり強烈なにおいがしました。製造元にメールで蓋の交換を依頼。とても快く了解してくれ、すぐに届きました。
しかし、届いた蓋もまたまた強烈なにおいがしました。蓋に使っている木の素材が同じだという返事が返ってきました。先方としては今できる誠意がこれで精一杯だったようで、全て返却して頂いても良いですというメールが来ました。
蓋さえ何とかなれば他は気に入っているので、再度この蓋を持ってカッパ橋のお店へ行きました。
「何の木を使っているかわかりませんが、くさいですね!」
さすが専門店、お釜の蓋だけ単品で売っていました。救われた思いでいた。
お釜はこれで完璧。問題はまだクリア出来ていません。

 

そうです浸水時間
当日対応のためには浸水時間をどうするか、まだ問題は解決していませんでした。
それは大きな問題でした。幾ら良いお米でも給水させずに炊くと全く美味しくありません。コース料理なら前日から水に浸しておくことが可能ですが、当日対応のためにはここが問題でした。太田さんにも、そして他の方にもご意見を伺ってみました。するとにわか炊きという方法があることを教わりました。
※にわか炊きとは当日浸水して作る方法。
この方法だと当日炊きたてのごはんが食べたいという注文に対応が可能となったのです。早速この方法でまたまた数人の方に食べて頂きましたが何の問題もありませんでした。

浸水はぬるま湯に浸して15分、お釜に移し準備してカウンターで待つお客様の所へ運び、それを眺めながらお酒を楽しむというスタイルで決まりました。


しかし、問題はまだ残っていました。それはお焦げが出来ないことでした。
固形燃料を使ってご飯を炊くのですが、お焦げが出来ず綺麗に炊きあがってしまう事でした。私達のお店に来る方はお釜で炊く時に出来るお焦げを楽しみにしています。燃料も種類があり一番長い時間の燃料を使ってみましたがお焦げは出来ません。そこで最初に燃料が消えたところでカットした固形燃料を追加してみました。お焦げは見事に出来ました。追い炊きという方法です。本来お店ではガスを使ってご飯を炊きます。弱火にしたり、最後に一気に強火にしたりして、火の調節をすることでお焦げを作ります。
固形燃料はいくら時間が長くなっても、最後はろうそくの火のように弱くになってしまうことに気づき、その為お焦げは出来ないという事がわかったのです。
最初の燃料が消えたところでカットした燃料を追加して再び火を付けてお焦げを作る。
期待通りのお焦げが見事に出来ました。

この方法は白いご飯の時に採用する方法です。炊き込みご飯はお出汁や醤油が入る事でこの調味料が良い具合に焦げてお焦げが出来ます。こちらは追い炊きの必要なく炊きあがります。

浸水から蒸らしまで炊きあがるのに約1時間みてください。
炊きたてのごはんが貴方を待っています。
「白いごはんを卵かけごはんで楽しみたい」
「季節の炊き込みご飯があるといいよね。今日はどんなごはんかなって楽しみ」
「白いごはんにお味噌汁が付いてくるといいね」
「漬け物以外に旬の物がちょっと付くといいよね」
リクエストを色々頂きました。可能な限りお応えして参りたいと思います。


最後にメニュー完成に御協力頂きました皆様、本当にありがとうございました。
ここにお礼を申し上げます。

最後まで読んで頂きました事感謝申し上げます。