夏になるとぼくは崖の上の畑を思い出す
せまくて急な傾斜の道に足をしならせ
何列もの畝に沿ってはぐら瓜を収穫した
瓜は支柱の竹からずり落ちて
みどり児のように敷きわらの上で遊ぶ
緑の光が創る回廊の塑像たちとともに
はぐら瓜 はぐら瓜
背負い籠のなかで束の間の眠りをむさぼれ
母がささやく絶妙の手順を思い描きながら
はぐら瓜の両端を切り落として種を抜く
真新しい土管からは天日が見える
紫蘇や唐辛子の横たわる時空のトンネルだ
母が毎年つくり続けた鉄砲漬けは
甘辛い記憶とともに口中によみがえる
「そは感傷の味ぞ」 涙があふれる
ああ あの瓜が食べたいな
はぐら瓜の鉄砲漬けが食いたいんだ
青みの残った肉厚の鉄砲漬けが脳裏にちらつく
重石の下で鍛えられた青春の日々は
ゆらゆらと揺らめく郷愁の蜃気楼か
防人の居なくなった漬物樽がぽつねんと佇む
変哲もない家系のラセンは繋がったが
鉄砲漬けの継承はとだえた
歯グラでも噛めるというのに甘美な味は脳の中
ああ はぐら瓜の天日干しが食いたいな
ほどよく漬かったはぐら瓜の茶漬けが食いたい
青みの残る肉厚の鉄砲漬けがぼくを手招きする
(2017/03/11より再掲)
鉄砲漬け
(ウェブ画像)より
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