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どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

思い出の連載小説『折れたブレード』(9)

2023-11-19 00:59:00 | 連載小説
     (逃げ水)     艶子と父親が並んで写っている写真を見た夜、正孝は三番町の事務所で仮眠をとり朝を迎えた。  調査会社からもたらされた資料は、もう少し精査する必要があったが、正孝の関心はまだ見ぬ村上紀久子の存在に移っていた。  艶子に送った彼女の礼状から、柏崎市にある老人福祉関係の病院に入っている父親を見舞ったことが判明した。  松江で不祥事を起こし . . . 本文を読む
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思い出の連載小説『折れたブレード』(8)

2023-11-17 00:06:26 | 連載小説
     (発光する神経)    正孝は、滝口から渡された写真の中に、艶子が見慣れない男と写っている一枚を発見した。  男はかなり年老いた感じで、ベッドのクッションに寄りかかるように坐っていた。  その横に立って微笑んでいるのが、艶子だった。  春先なのか、萌黄色のセーターを着ている。  ベッドの傍らには、タオルや下着を収納できる縦長のキャビネットが置かれている。  天板の . . . 本文を読む
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思い出の連載小説『折れたブレード』(7)

2023-11-15 10:03:00 | 連載小説
     (欲と二人連れ)    艶子の変死事件に関する新聞報道は、伊能正孝に大きな衝撃を与えた。  松江に帰省中の出来事ということで、半分はプライベートな要因を想定していたが、その考えが楽観的すぎたことを思い知らされた。  やはり、今回の事件は正孝の足元から起こっている。  正孝の気づかないところで、何かが動いていたのだ。  艶子の尋常でない死に直面して、正孝も初めてそのこ . . . 本文を読む
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思い出の連載小説『折れたブレード』(6)

2023-11-14 00:41:51 | 連載小説
     (ミクロの空気砲)    その晩、伊能正孝は松江市内の温泉街に宿を取り、ホテルの一室でこんがらがっている現在の状況を分析した。  まず明らかにしなければならないのは、艶子の死因である。  弥山の山中で発見された艶子の遺体は、当初、服薬自殺と思われていたのだが、現場周辺の状況から警察も違和感を抱いたらしい。  そして、自殺と事件の両面から捜査を進めた。  司法解剖に回 . . . 本文を読む
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思い出の連載小説『折れたブレード』(5)

2023-11-12 01:16:30 | 連載小説
    (逆縁)    正孝は、空港ターミナルのタクシー乗り場に向かい、さてどうしたものかと迷いを感じていた。  艶子の実家をめざして来たものの、先に訪問の了解を得た方がいいか、近くまで行って様子を見た方がいいのか悩んでいたのだ。  ショルダーバッグを肩にかけ、一方の手に観光地図を持ったまま歩いていると、待機するタクシーの扉がいきなり開いた。  ハッとしたが、すでに運転手が身を . . . 本文を読む
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思い出の連載小説『折れたブレード』(4)

2023-11-10 02:28:01 | 連載小説
     (消えた風紋)    市民会館で目にした江戸手妻師の印象は、翌日になっても正孝の脳裏から離れなかった。  昨夜のネオザール社との電話では、堂島という男の風貌をしっかりと確認することはできなかったが、写真などでもう一度突き合わせる必要を感じていた。  そのためには、パンフレットで目にした手妻師一門の弟子の舞台姿を探すことだ。  調べてみると、艶子の母親が似ているといった . . . 本文を読む
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思い出の連載小説『折れたブレード』(3)

2023-11-08 01:15:00 | 連載小説
     (風車の仕掛け)    正孝は閉館間際の市民会館に駆けつけ、広報担当の職員に過去の公演について情報を求めた。 「公演の全てですか」  職員はシャツの袖をたくしあげて、困惑したように正孝を見た。 「いや、何年か前に江戸手妻の出し物があったかどうか、それを知りたいのですが」 「ああ、それなら覚えていますよ。配布したパンフレットがファイルされていると思いますが」 . . . 本文を読む
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思い出の連載小説『折れたブレード』(2)

2023-11-06 00:09:59 | 連載小説
     (手妻師)    翌朝、伊能正孝は、7時10分発のJAL便で、羽田から出雲縁結び空港へ向かった。  約1時間30分のフライトで、宍道湖に突き出た滑走路に着陸すると、到着ロビーの端に空港派出所と表示された一角を見つけそこに立ち寄った。  地元警察の管轄だろうから、ここで聞けばある程度の見当を付けられると思ったのだ。 「出雲署に山根さんという方はおられますかな」 「さあ . . . 本文を読む
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思い出の連載小説『折れたたブレード』(1)

2023-11-04 01:22:33 | 連載小説
(風神雷神)   京都での自然エネルギー関連のシンポジウムを終え、伊能正孝は東京の事務所に戻っていた。 彼の事務所は、千鳥が淵を臨む三番町のビルの二階にあった。 近くにはエドモントホテルがあり、事務所では差し障りがある面会などの時、ホテルの一室を使うことが多かった。 永田町の先生方は、概ね国会周辺に事務所を構えているので、交渉事が生じた場合ここからならスピーディーに移動できる。 . . . 本文を読む
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思い出の連載小説『<おれ>)という獣への鎮魂歌』(52) 最終回

2023-09-13 00:22:00 | 連載小説
 ミナコさんは、手料理でおれをもてなしてくれた。鶏肉と玉ねぎにシシ唐辛子を使った洋風のスープが、胃を刺激した。 疲れた体に、国産のワインがよく効いた。 辛味を多く使った苦心の献立が、アルコールの回りをいっそう早くした。「あなた、だいじょうぶ?」 ミナコさんが、心配そうにおれを覗き込んだ。「なんだか、腑抜けになったような気がして、頼りないんだ」「疲れたのね。・・田舎って、疲れるものなのよね」「普通の . . . 本文を読む
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思い出の連載小説『<おれ>という獣への鎮魂歌』(51) 最終まであと1回

2023-09-12 00:49:00 | 連載小説
 宿に入って、一眠りした。 おれも、だいぶ能登の空気に慣れたようだ。 能都で生まれ、七尾で育った人間が言うことではないが、懐かしさよりも緊張を強いられる旅だったから、いまになって、ほっとした気持ちになれたのかもしれなかった。 夕食に呼ばれるまで、一時間ほどの昼寝で、体にべったりと張り付いていた疲れが取れた。頭の中の霧状のふわふわしたものも、鼻や口から寝息とともに出ていったようだ。おれは、階下の食堂 . . . 本文を読む
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思い出の連載小説『<おれ>という獣への鎮魂歌』(50) 最終まであと2回

2023-09-11 00:00:20 | 連載小説
 いくつになっても、男は駄目なものだ。 おれの脚はまだ健在なのに、おれの頭は思考の瓦礫でいっぱいになっていた。おれは、賄いの主婦に気兼ねしながら、宿のおそい朝食をとった。 同宿の者たちは、疾うに出発したらしい。ここから、オートバイや自家用車で木ノ浦海岸や伝統の揚げ浜塩田を回っていくのだろう。 平時忠一族の墓を詣でる者もいるかもしれない。せっかく奥能登に来たからには、あれもこれも観て帰らねば、損をし . . . 本文を読む
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思い出の連載小説『<おれ>という獣への鎮魂歌』(49) 最終まであと3回

2023-09-10 00:00:00 | 連載小説
 須須神社への道は、海岸沿いの道路に降り立って、すぐに分かった。西に向かって森を望むと、神域を示す鳥居の先から、一筋の参道が人をいざなうように奥の暗がりへと伸びていた。 ここは、穏やかな内浦が尽きて、ほどなく外浦に回り込もうかという場所に位置している。海は波光を集めて砕け、燃え立っていた。あたかも俗世からの侵入を阻止して、目くらましを仕掛けているかのようだった。 それにしても、視線を転じた先の、こ . . . 本文を読む
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思い出の連載小説『<おれ>という獣への鎮魂歌』(48) 最終まであと4回

2023-09-09 00:00:00 | 連載小説
 例年より少し遅れて、梅雨が明けた。 おれは、たたら出版社長に事情を話して、七月末までの一週間、夏の休暇を取らせてもらった。 上野駅を八時過ぎに出発する特急『白山』に乗り込んだ。この愛称を持つ列車を発見したからには、乗らないわけにはいかなかった。 おれが、七尾を出て東京を目差したときには、上越線経由の特急『はくたか』のみで、越後湯沢で別の電車に乗り換えて上野に向かった記憶がある。 三年ほど前に『は . . . 本文を読む
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思い出の連載小説『<おれ>という獣への鎮魂歌』(47) 最終まであと5回

2023-09-08 00:00:00 | 連載小説
 プロ野球巨人軍の長島茂雄引退に続いて、田中角栄、ハイセイコーと、それぞれの分野で最も話題性を帯びた大物の退陣が相次いだ。 昭和四十年代最後の、しかも秋から年末にかけての数ヶ月の間に、波瀾に満ちた昭和の一サイクルが、あわただしく幕を閉じたのであった。 明けて昭和五十年を迎えても、景気は一向に回復せず、人びとは散見する明るいニュースに群がって、不満の代償を得ようとしていた。 統一地方選挙で、東京、大 . . . 本文を読む
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