チゴユリ
(季節の花300)より
日当たりのいい雑木林に
足を踏みいれると
柔らかそうな緑の葉に
星のような白い花が
ちょこんと乗っかっていた
たぶん稚児百合だよね
恥ずかしそうにしているので
すぐに分かったんだ
武家社会に根付いた特異な存在
お小姓という制度があったことも
史上で一番有名な稚児さんは
美少年で知られた森 . . . 本文を読む
尺取り虫
(ウェブ画像)より
う~ん 騒がしいな
人間の世界で いま何が起きているんだ?
虫の寄り合いでも 話題はそのことだよ
青虫や毛虫が 用もないのに集まってくる
最初のうちは セミが大騒ぎしていたな
カマキリやハチなど武器自慢のやつも来ていたが
近頃は 鳥たちに狙われる虫たちが
心配顔で 集ま . . . 本文を読む
しきりに降りそそぐ広葉樹の枯れ葉
追われるようにカマキリが逃げてくる
暑い夏が過ぎたらおまえも物思う仲間に入るのか
かたい地面をコツコツ叩きながらどこへ向かうのだ
見たところおまえはまだ就活の年頃だな
景気はいいのか悪いのかはっきりしないし
めっきり獲物の減るこの冬をどう過ごすのか
まだ当てさえ見つけていないようだ
周りを見回し . . . 本文を読む
馬酔木の花
(ウェブ画像)より
おぼろ月夜の晩だから
碁でもやろうと誘われて
馬の背なかでゆうらゆら
ほろ酔い気分でゆうらゆら
この文明の世の中で
何を好んで馬の背に・・・・
モータリゼーション拒絶して
ゆらゆら行くのがわしの主義
昼は畑を耕して
夜は主人のお供する
わしの主義だと駆り出され
月に向かってゆうらゆら
&n . . . 本文を読む
ホトケノザ
(ウェブ画像)より
春の野に仏の座が用意されているなんて
お釈迦様でも気がつくめえ
4月8日はブッダの誕生日ということで
灌仏会には甘茶でお祝いしたものだが
ひと足早くふかふかの葉っぱを並べて待っていたらしい
それにしても仏の座とはぴったりの名前だねえ
人間様の想像力にはホトホト感心させられる
日射しを受けて居眠りしたって許されそ . . . 本文を読む
うろこ雲(1)
うろこ雲(2)
(いずれもウェブ画像より)
男ごころと秋の空
尾崎紅葉の『金色夜叉』までは
そう言っていたそうだ
ところが女性の心変わりを描いた
貫一お宮の話題作から後は
女心と秋の空と言うようになったんだとか
うろ覚えだからはっきりしないが
諺や言い伝えには両サイドからの見方が
けっこ . . . 本文を読む
おお 怖・・・・
頭の上を 何かが翔ぶ
アブか 天狗か ミサイルか
わからんもんが 夢を斬る
おお 怖・・・・
夜中に目覚めて 闇を視る
頭上を超えたのは ムササビか
真夏のはずが 肌寒い
おお 怖・・・・
避暑地の朝を 鳥がよぎる
飛べないトリが 時をつくる
チキンレースが 延々と続く
おお 怖・・・・
言葉のヤリが 空を . . . 本文を読む
ひゃー、こうべ病むなあ
田舎のばあちゃんがしわくちゃの顔を綻ばす
たんぼの畦で早めの昼飯が始まったのだ
手には持ってきた曲げわっぱの弁当箱
今しも汲んできた清水がヤカンから注がれる
弁当箱の中はたっぷりの水とコメの飯
飯の上には手で割いた水茄子の浅漬けが泳ぐ
ばあちゃんは水茶漬けが大好きなのだ
ヒャー、おめえもこうべ病 . . . 本文を読む
たくさん寄り集まっているのに
なんて寂しい花なんだ
チパチパと神経質そうなのに
なんて人懐っこい花なんだ
高木に伍して見晴らし好きなのに
なんて寒村に似合っているのだ
庭の山茱萸の木ィィィィに
なんで鳴る鈴を掛けるんだ
泣くな鈴虫声ふるわして
ここは道ばた人が知るよォォなんてさ
民謡を聴いてそのワケ . . . 本文を読む
母が飛んだ
夕暮れの空へ飛んだ
団地の花壇には苺のような千日紅
ついばむ鳥が嘴から突っ込んだ
娘は電気もつけずに泣いた
頼りの父は半年前にツガイの相手を変えた
今どこのねぐらに籠っているのやら
見捨てた団地の窓をテレビは写すだろうか
娘は泣き疲れたまま眠り込んだ
目ざめると闇のなかで囁く声がした
おまえは一人ぼっちになった
もう世の中とつながる . . . 本文を読む
夜空を眺めることが少なくなって
ぼくの夢はまとまりがなくなった
もともと夢なんてまとまりがないもの
そういって揶揄するならすればいい
ある夜ぼくは吉行淳之介の本を読んだ
『月と星は天の穴』を探し当てたのだ
世界を動かすほどの力はないが
文章が醸し出す滋味の滴りを受け取った
ふたりの女と交際して
それぞれの魅力を文章にする
女たちにはそれぞれに男が . . . 本文を読む
古い家から出てきた老女が
向かいの家のブロック塀に向かって
いきなり落ち葉を撒き散らした
「だらしのないジジイだ」
塀越しに枝を伸べるハナミズキの葉が
道路に散らばるのを掃いているのだ
「一度だって掃いたことがないんだから」
老女はよほど腹に据えかねているらしい
しかも塀ぎわに捨てた落ち葉が風に舞い戻る
北からの風が老女の側に吹き寄 . . . 本文を読む
オレたちの鉄砲は 百発百中
水槽の中で ただいま虫取り実験中
火薬なんぞ使わずに 口に入れた水を発射するだけ
オレたちの口元に 研究者の目が光る
ふむふむ 獲物の位置で角度を変えてるぞ
そうそう 明らかに口の形が違っている
口の中で圧力を高め ノズルのように噴射するようだ
初速よりも あとから追いかける水流の方が速いんだよ
あぶない危ない 飛んでるア . . . 本文を読む
マサミはシングルマザー
負傷してイリノイ州に帰ったジョージとは
三年にもわたって音信不通
基地の街でホステスを続けるマサミは
夜遅く託児所からジミーを帰還させる
ハーイ ジミー
How are you?
母親の腕の中で半分眠りかけている子を
息のかかる近さで覗き込む
寂しい思いをさせたけれどもう心配ないわ
あなたのパパはとてもいい人なのよ
ヘ . . . 本文を読む
この季節になると
さびしく死んでいった友人のことを
痛みと共に思い出す
小説家として期待され
あと一息でデビューを飾るはずだったのに
こころざし半ばで行き暮れたのだ
友を蝕んだのは胃がんであったが
辛抱しきれなかった苛立ちのがんとも言える
持って生まれた運命の黒い塊とは思いたくない
どんな作家に憧れたのやら
どこかで無頼派を気取っ . . . 本文を読む