ラヂオアクティヴィティ[Ra.] 第二部・国境なき恐怖 212BBSその2 博士が行者の次に座った。 『宇宙船「地球」号には、いろんな人たちがいるね。でも、今、裕福でも明日はわからない。もしかしたら、ソ連は軍拡をしたために、消滅したのかもしれない。そして、チェルノブイリがその止めをさしたのかもしれない……。今、裕福な人たちが、明日は貧しく飢えているかもしれない。同じ宇宙船「地球」号に乗っているのに、そんなことさえ、考えないで生きている人たちが案外多いものだ。かのアインシュタインは、数々の名言を残した偉大な人物でもある。宇宙船「地球」号は彼のように、理性を持った科学者しか必要としないのだ。政治的科学者といわれる。科学にではなく政治にその信念を売った者は科学者と名乗らないで欲しい。われわれ少年も、政治的科学者などという詐欺師にはならないでおこう。法律でいくら、裁かれなかったとしても、科学者が政治に身を売ったら、それは詐欺というものだ。未来の第二のアインシュタインより』 ナンシーが座った。メモをキーボードの横においた。 『私の友達があいつらに殺されたわ。むごい死だったわ。亡くなってからも、彼女は否定されたわ。霊園に葬られるのさえ、近隣の人たちは反対したわ。それは仕方のないことことかもしれないけど。それより何千倍も何万倍も恐ろしい核兵器や原子力発電に反対しないわけがありません。いったい推進派という人たちは、あなたの子どもは放射能によって死なないとでも思っているの? それとも、何かあったら、すぐに子どもや孫だけは、チェルノブイリ事故のように、逃がしてしまうから平気というの? でも放射能の雨が各地を襲ったら、あなたの子どもだって孫だって、逃げてばかりもいられないわ……。お金があったら、何でもできると、日本の人たちは思っているけど。日本の偉い人たちへ、原子力発電一つやめることができないのよ。それで豊かなの? あなたたちは生きていくお金は十分あるはずよ。レイデのような子どもは作らないでください。ソーシアの健康を返してください。しかし、あなたたちに頼んで無駄かもしれませんね。核燃料を移送するのだって、大変だし、そこで事故がソ連のように起こるかもしれないわね。移送中の事故でも、ソ連では死亡者がでているのよ。でも、多くは、あなたの子どもでも孫でもなく、あなたは何の責任も取らず……。そうソ連のように、運転員などに責任を転嫁することでしょうね。それから国際機関というものに失望を覚えました。レイデは隔離されて悲しい思いだけじゃなく、ひどい目にもまだ合わされたのかと想うと悲しみよりも怒りを覚えます。レイデは実験動物ではありません! あなたの子どもや孫、あなた自身と同じように人間なのですから……。日本の悪口を言ったように、思った人は、それは間違いです。私は日本が大好きになりました。でも、原発、特に“もんじゅ”や六ケ所村の核施設は好きにはなれません。憎いほどです。それでも日本では楽しい思い出ができました。ありがとう日本の人たち! ナンシー。追伸:ブラジルに遊びにきてね』 『私も“もんじゅ”が憎いです。事故がもしおきたら、アジアが滅びるというではありませんか? 韓国は北海道よりも“もんじゅ”に近いのです。それを内政干渉だなんて、許せません。宇宙船「地球」号という考え方をしない日本人、朝鮮人差別をし、今も“もんじゅ”で苦しめようとする日本政府に対しては人間として許せません。私は韓国に帰ったら、友達にも反対するように伝えます。もちろん日本の友達にも、反対するように進めます。でも私もナンシーと同じで、この旅行で日本が好きになりました。李 追伸:家族でまた東京ディズニー・ランドに行けるといいな! それに韓国料理のお店の多さは聞いてびっくりしちゃった!』 輝代はナンシーたちに座るように、手で誘導された。輝代の目からは涙があふれていた。 『平和……こんなことを考えられるだけでも、幸せだと思います。動物たちを見てください。呑気な草食動物ではなく、猛獣と分類される動物たちです。どうですか? 彼らは平和なんて考えるかしら。彼らは強そうであって、実は欲望の虜になっている可哀相な生き物かもしれない。世の中で威張っている人たちも、実は本当は平和なんて考えることもできないほど、弱い人たちなんじゃないかしら……。私はこの旅行に参加できたことを神様、聖母マリア様に感謝します。輝代』輝代の頬から涙がポタポタと床に落ちた。 みんなは勉に座るように促した。パソコンの前の椅子にすわった。そして腕組みをして、考えだした。目までつぶっている。そして、パッと手を叩いた。さすがにパソコンお宅だけあって打ちはじめると早い。 『恐怖……これは子どもだけが持つものではない。ある意味では、これは生きていくうえでの必要な本能かもしれない。我々は核兵器が怖い、いやピストルだって……。犯罪は山ほど毎日あって、僕らは息をするのが、苦しくなるほどだ。しかし、その中でも核兵器、核エネルギーに関するものは、史上最大の恐怖であろう。でも僕たちが恐怖心を持っているのは悪いことじゃない。そして僕たちだけが持っているものではない。恐怖……アメリカの大統領は臆病にも核に取り憑かれた。誰もが、彼は権威があるから強いと勘違いをしている。冷戦時代の軍拡競争……それは恐怖から逃れるためのものだった。彼らの恐怖心には理性がなかった。恐怖は増していくばかりだった。原爆をつくり水爆をつくりICBMを作り、宇宙にまで核兵器“スター・ウォーズ計画”まで……。しかし何十回も人類を殺せる力を持ったけれど。恐怖から逃れることはできたかい? むしろ恐怖は増していくだけじゃないか。僕らはそして恐怖社会をつくった。テレビでは毎日毎日殺伐としたニュースが流れる。テレビのニュースを見ていたら、平和だと感じることなんてない。僕らは恐怖に、もろすぎるのだ。強くならなければならない。もっとも弱い男、勉』 ナンシーは同意した。 「だって、放射能で死なない人なんて、いないもの……」 女医の桜田がみんなに進められて椅子に座った。 『みなさん、これでこの会は終わるでしょうけど。でも原発は動いているし、核兵器も造られているわ。そしてICBMはどこかの国に向けられています。そうです。私たちは、この会で得たものは知識と友情だけだったのです。敵はそのままにいるのです。今も虎視眈々と人間のミスを狙っているのです。原発の近くや六ケ所村に近くに住んでいる人たち、あなたたちは他の人より、気をつけなければなりません。なぜなら気がついた時には、もう遅いということさえあるのです。ハンフォードはどうだったでしょう。チェルノブイリはどうだったでしょう。全てが秘密主義でした。日本ではどうだったでしょう。健康はどんな宝石よりも貴重な宝物です。原発事故で被害者になって、お金をもらっても、ベッドの中じゃ、決して幸せとは言えないでしょう。お金で苦痛が消せるという幻覚も捨ててください。女医の桜田』 なるほど、僕たちは何も解決したわけじゃない……。 『大人たちは、未来に借金をしているようなものだ。それを返済するのは、僕ら子どもだ。僕たち青少年も、叫ぶべきだ。大人たちより、影響をより受けるのは僕たち若者だから……』 「そのとおりだよ。僕らは、何かしないと、これ、やばいよ!」
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