ラヂオアクティヴィティ[Ra.] 第二部・国境なき恐怖 209迷信を喜ぶソーシア あのヒロシマの折り鶴だけが、人の心を伝えるものではない。 その灰をもらったソーシアはうれしそうだった。 でも、女医イネッサは、少し悲しい気持ちがした。 こんな迷信でよくなるわけがないからである。 イベントの終了が近づいてきた。展望室を借り切っている。 勇気は「エリックさんは、被爆してどうでした?」と質問した。 エリックは笑った。 「被爆したが、どうも頑丈にできていてね。運がいいのか、元気にやっていますよ。私は戦争というのは、例えばアメリカ人を守ると言いながら、アメリカ人の生命を危険にさらす……。私も、それだけなら、いや今までの戦争だけなら、こんなイベントを考えはしなかっただろう。けれど……」 「あいつね……」 「そう……。君たちは知っているかい。ウランという物質は初めから、地球にはなかった」 「じゃ、どうしたの」 「真下さんにでも、訊くことにするか」 広間にもテレビが用意されていて、宇宙との交信ができるようになっていた。 「真下さんに、質問があります。ウランというのは、初めから地球になかったそうですが、どこから来たのですか」 「あのー。それは私の専門外のことなので、わからないのですけど……」 「わからないんですか」 「すいません」 「これだから、台本のない放送はおもしろい」 エリックは含み笑いをした。 「あのー。エリック、ウランは地球に初めからなかったのなら、宇宙を旅してきたってわけですか」 真下が訊いた。 「そうらしいね。そんなことが書いてる雑誌をみたよ」 みんなは寒けがした。どこかに悪魔がいて、ウランを地球に投げつけたような気がした。 欲望に火をつけた人たちは、それで仲間を次々に殺していったのだ。 開発中にも何人もの人が死亡したり、病気になったりしたのだ。 「真下さん、最後に何か、話したいことがありますか」 「核の問題ですよね。……、アポロ13号は、映画になったでしょう。あのアポロ13号の原子炉が海の中に今もあると聞いたことがあるわよ。この問題も、いつか考えないといけませんね」 「えっ!真下さん、宇宙にも核はあるのですか」 「ありますよ。ソ連の衛星は、カナダに落ちたこともありましたよ。そのときもソ連は秘密主義で、国際的な非難をあびましたよ」 「そうなのですか……」 頭の上までに、あいつらがいるなんて、ぞっとした。 「みなさん、問題はたしかに多いかもしれませんが、人類の数も多いのですよ。あきらめないで、元気だしましょう。それじゃあね!」 真下の放送はこれで終わった。 ナンシーはじっとエリックの顔を見ていた。 「原爆はこわいものだったろう」 「ええ、そうです。それもこわかったけど……」 「嘘をつく大人たちも、怖いわ……」 「そして、暴力的に相手を責めるのよね」 「日本では、テレビ番組の一番のスポンサーが電力会社だなんて、知りませんでした」 「そうかい。テレビ会社や新聞社のお偉いさんが、原子力委員会とか原子力安全委員会の委員だったり、会長だったりすることも、もっと、きちんとレポートしておいてくれたら、余計におもしろかったね」 「えっ!」 勇気は目をむいた。 「大手のマスコミの幹部といわれる人たちは、原子力産業と関わりがあるということだよ。だから、自分たちの都合の悪い放送はなるべくしないという姿勢でいる。それを一日も早く反省してもらい、民主的な放送をしてもらいたいものだが……」 エリックは椅子に座り直し話を続ける。 「勉は何か意見がありますか?」 「ええ、私が新聞社にいたころ、上司は原発推進派でした。彼は政府の役員をしてもいました。そして、原発のまわりで起きている記事を書くことを禁止しました。そして、もう一人の上司は原発が安全だと嘘の記事を本にして出版しました。僕は、それを非難しようとしましたが……」 「クビになったというわけだ……」 「いや、僕から辞めました。偽善者というより、そんな記事を書くということは、それを許していることは、僕には犯罪に思えたからです」 「そうだったね」 勉は、心のなかで。 「あんな記事をかいたら、ドイツのナチス党と少しもかわらないさ。いや、もっとひどい……」 そんなひどい人たちが、大手マスコミだということに、腹が立ってならなかった。
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