V.あい色の部屋(虹の世界) D063.官僚主義 ビルから出てきた青年は、 「あのなー、ここの頭取、食い方、きたないから、口髭にトマト・ソースをよくつけているんだ。気をつけて見てたらわかるよ。乞食のおっさんの方が、きれいに食べるから世の中へんだよな」 それも、そのはず、この乞食はむらさき色の部屋では王様だった。テーブル・マナーはしつけられている。 「あのー、僕たち困っているんだよ。あのー、どうしたらいいんだろうねえー」 カールはピザ屋の青年にきいた。 「それなら、政府にきいたらいいんだよ。国民に困ったことがあったら、何でも相談にのってくれるのが政府ってもんだよ」 「そうなの、それなら、助かったわあー」 「でも、当てには成らないかもなー」 「当たってくだけろよ」 ユリカはいつもなら、こんな言葉遣いはしないと思った。 お礼を言おうと思ったけれど、青年はすばやくバイクをころがして行った。 後ろ姿に 「ありがとう!」 と話すと、前をむいたまま、青年は左手をふっていた。 「王様、政府というのはどこにあるんですか。私たちの困りごとを助けてくれる人たちのことですけど」 「そんな人がいるのかい!」 王様はそんな人がいるなら、ここに乞食はいないと思ったのである。 「あら、王様、知らないの?」 「知っているが、その期待に応えてくれるとは思わないよ」 「そうなの、でも行くだけは行ってみようよ」 カールとユリカは王様に連れられて、立派な超高層ビルに来た。 「あの、立派な建物ね。これなら、私たちの願いもかなえてくれるわね」 その建物に入ると、イライラしている女の人がいた。和服を着ていた。 「どうしたんですか?」 カールはきいてみた。 「あのね、ここは官僚主義で困るのよ」 「官僚主義って何ですか」 「それは、お金のことはお金省で、健康のことは健康省なのよ。心のことは、真心省という省庁があるんだけど、どこも私たちのことを真剣になんか考えてくれないのよねえー」 「そらそうじゃろう……」 王様は豊かな髭をこすっていた。 「健康のことは健康省だけど、お金は出さないよ。お金のことはお金省でしょう。健康のためにお金は出せません。真心省は真心という大切なことをみんなに教えてくれるけれど、例えば飢えている人にパンをあげようと思っても、お金のことはお金省だというのよ。それだから飢えている人はなくならないわ」 「そうじゃろ、そうじゃろ……」 王様は不満足きわまりないけど、思っていた通りだったので、満足している。
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