V.あい色の部屋(虹の世界) D064.宣伝省 「この国の人は豊かで幸せと思っておる。それはなぜか。その理由は決まっとるじゃろう。宣伝とか広告だよ。宣伝は宣伝省がやっておるから、みごとなもんだよ。宣伝のことしか考えていないからなあー」 「宣伝省には菊池大臣がいて、人を幸せにする宣伝をしてくれている」 「そのために、人の悲しみも苦しみもわからん唐変木に人をかえてしまった」 王様はなげいた。 「まあ、なんて自分勝手な人ばかり集まっている社会なのかしら?」 ユリカはあきれていた。 「何をいっている宣伝は宣伝省がするんだ。この世界は素晴らしい。それを宣伝することは国家が決めたのだ」 「豊かで便利な社会、高度な文明をもった社会じゃよ。残業ばかりで子供のことなんて世話する時間がなくても、『子育てをしないパパはママではありません』と宣伝すれば、それで父親が子育てをしているように思いこませるんじゃよ」 「残業しなかったらいいじゃないか」 カールは呑気にいった。 「そうしたら、わしのようになるんだよ。馘(くび)というわけだ。そうしたら、子供のミルクにも困るというわけじゃなあー」 「そうなんですか。でも……」 「若い者は、その宣伝にのせられておるんじゃのう。まあ、若い時代には楽しいことばかりを考えたくなるもんじゃがのう……」 「経済もわからん人が経済をやっている。こんな不思議な世界があると思うか」 「そう珍しくもないよ。人間なんてそんなものさ」 と、カールは笑った。 「王様もそうだったんでしょう」 「まさに、その通りじゃ。そして、こんな目にあっているというわけじゃ、自業自得といえば、それまでのことよ」 眼鏡をかけた白髪の老人が受付で怒っていた。司馬遼太郎にそっくりだった。 「これは、銀行の経営が悪くなる前から私がいっていたことだが、土地についての政策もずいぶん、ひどすぎますぞ。土地の値段というのは、例えば田畑なら、その土地で収穫できる農産物の値段で決め、お店などなら、その土地なら、いくら儲けられるかで決めるものですぞ。それが、何だ! 今の土地政策はまるで、タヌキの木の葉と変らないじゃないか。土地政策も経済学的に資本主義的に考えてくれたまえ」 熱心に都市長に要求した。タヌキの木の葉とはよく言ったものだとカールは一人、喜んでいる。まったく、人をだますことにしか、努力をはらっていない人たちなのである。違うというのなら、どこに努力を払ったといえるのだろうか? 「何を言っているのですか。これ以上、土地の価格が下がれば多くの人が困るのですよ。やっていけません。土地の値段は上げるべきなんです」 「そんなことしたら、また経済がおかしくなりますよ」 「お金のことはお金省です」 都市長はまた同じことを言う。 「ふん。どうせ、こんな経済運営はうまくいかない。その時では遅いんじゃ。ドンゾコになるだろう。しかし、こりない人間たちは、また新たな狸の木の葉を発見することだろう。そして、いつもひどい目にあうのは、こつこつ真面目に働く人たちだよ」 白髪の老人は怒っていた。 「彼らはエリートで、専門家であり……」
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