DIARY yuutu

yuuutunna toki no nikki

オウィディウス(前43-後18)『変身物語』(上)「巻4」(38)「アタマスとイノー」:ユノーの恋敵セメレの姉妹であり、バッコス神を讃えるテーバイのイノーとその夫アタマスに、ユノーが復讐した!

2022-08-20 15:29:03 | 日記
(1)バッコスの名声がテーバイで広まると、バッコスの母かた(セメレ)の叔母にあたるイノーはところかまわずに、この新しい神の偉大な力を口にした。
《参考1》テーバイの創建者カドモスは、ハルモニアと結婚し、イノー、セメレ、アガウエ、アウトノエなどをもうけた。
《参考2》大神ユピテルの子を宿したセメレ(カドモスの娘)は、ユピテルの天の雷火で焼け死んだ。その胎内からバッコスは救い出され、父親ユピテルの太腿に縫い込まれて、通常の胎内期間を過ごし生まれ出た。セメレの姉妹イノーが、バッコスをこっそりとゆりかごで育てた。
《参考3》ユピテル(ゼウス)の后(キサキ)ユノー(ヘラ)は、カドモスの娘セメレが、大神ユピテル(ゼウス)の子を宿したことに怒り、セメレがユピテルの天の雷火で焼け死ぬように罠を仕組んだ。
(2)ユピテル(ゼウス)の后(キサキ)ユノー(ヘラ)は、今やバッコス神についてのイノーの自慢・慢心を目にして、我慢がならない。「イノーを狂気に陥れよう」と女神ユノーは思った。そもそもイノーはユノー(ヘラ)の恋敵セメレの姉妹なのだ。
(3)ユノー(ヘラ)は、不気味ないちいの木の生える下りの坂道を進み、冥界へ向かう。冥界に着くと、「復讐の女神」たちを呼んだ。彼女らの髪の毛は黒い蛇たちだ。
(4)ユノー(ヘラ)はアタマス一家を憎んだ。「富裕(ユタカ)な館(テーバイのカドモスの王城)に住み、妻のイノーとともに、バッコス神を讃え、いつも私をないがしろにしている」と「復讐の女神」たちに訴えた。「復讐の女神」たち(姉妹)の中でも残虐なティシポネが「まわりくどい長話は要りません」とすぐに復讐を承諾した。
(5)残虐な「復讐の女神」ティシポネが血に浸した松明を持ち、血潮で赤く染まった長衣をつけ、よじれた蛇を腰に巻き、冥界の家を出た。道中のお供は「悲しみ」「わななき」「怖れ」「狂い」だ。
(5)-2 ティシポネがアタマスの家に着くと門柱が揺れ、日輪もこの場をよけた。驚愕したイノーと夫アタマスが逃げようとしたが、忌まわしい「復讐女神」が立ちはだかった。女神は頭髪の真ん中から二匹の蛇をもぎ取り、それらをイノーとアタマスに投げつけた。蛇は二人の胸を這い廻り、毒気を吹き込んだ。
(5)-3 そして「復讐の女神」ティシポネは「人を狂わせる毒」をイノーと夫アタマスの胸に注ぎ、心の奥まで撹乱した。こうして敵を打ちのめし、ユノー(ヘラ)の命令を果たし終えた彼女は、偉大な冥王の「虚無の国」へ帰り、からだに巻いた蛇を解く。
(6)アタマスは狂い、妻と二人の子を「二匹の仔をつれた雌獅子」と呼び「つかまえろ!」と追いかけた。息子レアルコスをつかまえ、空中に振り回し、幼い顔を無残にも岩にうちつけ殺した。この時、母親(妻イノー)も気がふれた。イノーは、いとけないメリケルテスを抱え、吠えるような声をあげ、錯乱状態で崖から海に飛び込んで死んだ。
(6)-2 孫娘イノーの苦難を憐れんだ女神ウェヌス(ヴィーナス)が、叔父の海神ネプトゥーヌスに「どうか、あれたちを、あなたの配下の神々にお加えください」と頼んだ。ネプトゥーヌスはこの願いを承諾した。イノー母子から、死すべき部分を抜き去り、威厳を帯びさせ、神なった息子をパライモン、母親をレウコテアと呼んだ。
(7)イノーの仲間であったバッコス神を讃えるテーバイの女たちが、カドモスの家(アタマスとイノー)を嘆き悲しんだ。そして「女神ユノー(ヘラ)は正しくなく、恋仇(セメレそしてその姉妹イノー)にたいして残酷すぎる」と悪口を叩いた。
(7)-2 ユノー(ヘラ)はこの非難に我慢がならず、「そうら、ほかならぬおまえたちを、私の残酷さの最大の記念碑にしてあげよう」と言うと、たちまちことが実現した。イノーに尽くしていた女たちは崖にくっついて石となり、あるいは胸を打って悲しむ格好のまま、また海の方へ手をさしのばしたまま石となった。ほかに鳥に変じたテーバイの女たちもいて、今もこれらの鳥が、テーバイの海の面を飛んでいる。

★ミケーレ・A・ミリャリーニ『アタマス』(1801年)
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オウィディウス(前43-後18)『変身物語』(上)「巻4」(37)「ミニュアスの娘たち(こうもり)」:バッコス神(ディオニソス神)を冒瀆したミニュアスの娘たち3人は「蝙蝠」(コウモリ)にされた!

2022-08-19 18:01:42 | 日記
(1)ミニュアスの娘たち3人は、バッコス神(ディオニソス神)の祭りに参加せず家の中にこもり、機織(ハタオリ)をしていた。機織りしながら3人が順番に話をした。3人とも話が終わった。だが相変わらず彼女らは仕事に励んでいた。つまりバッコス神をないがしろにし、この神の祭りを冒瀆していた。
(2)その時だった。姿なき太鼓が響き、角笛・シンバルが鳴り、没薬とサフランの香りが立ち込めた。そして信じがたいことに機(ハタ)が緑色になり、織衣(オリギヌ)が常春藤(キヅタ)そっくりに葉を出し始め、中には葡萄の木に変じたものもあった。真紅の糸毬(マリ)は色あざやかな葡萄となって輝いた。
《感想》バッコス神の力の顕現だ。バッコス神の聖なる植物がブドウの木と木蔦(キヅタ)である。
(3)日はすでに暮れかかって、黄昏(タソガレ)時だ。ふいに家が揺れ、灯(トモシビ)がぱっと燃え上がるように見えた。家が赤々とした火で照り輝き、荒々しい獣の似姿が吠え声を上げる。ミニュアスの娘たち3人は、家中を逃げ回り、火炎と光を避け、「暗がり」ばかりを求めていた。
(4)すると姉妹たちの手足が小さくなり、そこに皮膜が広がり、腕は薄い翼で包まれていった。どういうふうにして元の姿が失われたかは、暗闇の中の出来事で彼女たちにもわからなかった。透けるような翼が、身体を浮き上がらせた。ものを言おうとすると、キーキー声で嘆きを伝えるだけ。人家を恋しがり森を避ける。彼女らは「蝙蝠」(コウモリ)になった。ラテン語の「蝙蝠」(vespertilio)という名は、「夕暮れ」(vesper)から取られた。
《感想》ミニュアスの娘たち3人は、バッコス神(ディオニソス神)の祭りに参加せず、ないがしろにし、この神の祭りを冒瀆した。彼女らはバッコス神により「蝙蝠」(コウモリ)にされた。

★ニコラ・プッサン〈バッカス祭〉1624-1625
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オウィディウス(前43-後18)『変身物語』(上)「巻4」(36)「サルマキス」:水の妖精サルマキス(女)の願いによって男女合体し、少年(男)は「男女」(オトコオンナ)(両性具有者)に変わった!

2022-08-18 16:10:37 | 日記
ミニュアスの3人の娘のうち最後に、アルキトエが催促を受け、話を始めた。彼女らは、バッコスの祭りに参加せず家の中にこもり、機織(ハタオリ)をしていた。
(1)アルキトエは水の妖精(ニンフ)サルマキスの話を始めた。サルマキスは、底まで水の澄んだ透明な美しい池に住んでいた。その池に、メルクリウス(ヘルメス、Hermes)とウェヌス(ヴィーナス、アフロディテ、Aphrodite)の間に生まれた子ヘルム=アプロディトス(ヘルマプロディトス、Hermaphroditus)がやって来た。彼は15歳だった。妖精サルマキスは狩猟が嫌いで、ディアナ女神のお供もせず、自分の泉にからだを浸したり、花を摘んだりしていた。
(2)そこにヘルマプロディトスの姿をみとめ、とたんに妖精サルマキスは彼を自分のものにしたいと思った。サルマキスは、少年に話しかけた。「あなたにはお許婚者(イイナヅケ)がいるのですか。その方は、最もおしあわせな方ですわ!そんな方がおありなら私は浮気のお相手でいいです。誰もおありでなければ、私たち、結婚することにいたしましょう。」
《感想》若い少年に対し、おそらくずっと年長の妖精(ニンフ)サルマキスの積極的・挑発的な誘惑だ。
(3)水の精サルマキスはここで言葉を切った。少年は顔が赤くなった。彼は愛とはどういうものか、まだ知っていなかった。サルマキスは接吻しようとした。その彼女に「やめてったら!」と少年は言った。「でなければ、あちらへ行く。君にもこの場所にも、さようならだ。」サルマキスはおののいて、「どうぞお好きなように」と言い、その場を立ち去るふりをして、茂みに隠れしゃがんだ。
(4)少年は、もう誰もゐないと思い、衣服を脱ぎすて美しい泉に飛び込み、泳ぎ始めた。水の精サルマキスは「私の勝ちよ。とうとう手に入れたわ」と叫び、衣服をかなぐり捨て水中に飛び込んだ。サルマキスは、あらがう少年ヘルマプロディトスをつかまえ、無理強いに接吻をうばい、蛇のように巻きつく。サルマキスは、少年に身体を押しつけ、まるで糊づけされたかのように全身を合わせた。
(5)そして水の妖精サルマキスは「神さま、どうかお願いです、私とこの人を引き離さないでくださいますように!」と祈った。するとこの願いを神々はお聞き入れになった。ふたりのからだは混ざりあって合一し、見たところ、ひとつの形になってしまった。ふたりは、しっかりと抱き合って合体した。「この泉は、男であった自分を『男女』(オトコオンナ)(両性具有者、androgynos、アンドロギュノス)に変えてしまった」と少年は嘆いた。
(6)少年ヘルム=アプロディトス(ヘルマプロディトス、Hermaphroditus)はもう男らしさを失った声で言った。「お父さん(ヘルメス、Hermes)、お母さん(アフロディテ、Aphrodite)!息子の願いを、どうか聞き届けてください。この泉に浴した者は、そこを出るとき『男女』となっていますように!」両親(ヘルメスとアフロディテ)は息子ヘルム=アプロディトスの言葉を聞き入れ、不浄の魔力をこの泉に与えた。

《参考1》プラトン『饗宴』の中でアリストファネスが両性具有について語る。かつて人間は「男男」と「女女」と「男女」(両性具有)三種がいた。それぞれが背中合わせに二体一身の状態だった。つまり、いずれも手足が4本ずつ、顔と性器も2つずつあった。ところが、ゼウスがそれらを両断したため、手足が2本ずつ、顔と性器が1つずつの「半身」となった。その後、人間(半身)はそれぞれが残された半身に憧れて結合しようと求め合った。それが男男の同性愛、女女の同性愛、男女の異性愛である。

《参考2》アリストファネスの演説(抄)(プラトン『饗宴』より)(生田春月訳、越山堂、大正8/9/27発行)
「私はまづ諸君に人間の原始性を語り、またいかなる変化が生じたかを述べて見よう。即ち原始の人間は現在とは全然相違してゐたのである。人間の性(セツクス)は現在に於ては男女両性にわかれてゐるけれども、原始時代にあつては、三つの性に、即ち男性、女性、及び両性合一の三性にわかれてゐたのである。その両性合一のものは、今では絶滅してしまつて、ただそのアンドロギュノスといふ名称(なまへ)ばかりが、嘲弄の意味を帯びて残つてゐるに過ぎない。」
「つぎに原人の全体(からだ)は球形をなしてゐて、背中と胸とは輪のやうに連つてゐて、四本の手と四本の足とを有してゐた。円形の頸の上には反対の方向に向いた二つの顔がついてゐて、おなじ一つの頭を戴いてゐた。その顔は二つとも細かなところまで同一であつた。耳は四つあるし、陰部は二つあつた。」
「ゼウスがいろいろ考へた末に言つた、『余は今一つ名案を得た、この方法によれば彼等人間どもを滅ぼさないで、しかもよくその傲慢心をくぢき、その行動を改めさせることが出来よう。それは彼等を二つに断ち切つてしまふのだ。かうすれば、彼等はその力が弱くなると同時にその数を増すから、我々に取つては益々好都合である。そして彼等は二足をもつて直立して歩くやうになるだらう。』」
「人間はかうして両断せられると、互ひにその半分を求めて、両手で抱き合つて、一体に還らうと欲(ねが)つた。」
「我々はいづれも、その別々になつてゐる時は丁度割符か、又は一面しかない平目魚(ひらめ)のやうなものである。それ故常に他の半分を探し求めてゐる。両性人、即ちアンドロギュノスと呼ばれてゐた者の両分せられて出来た男子は、女子を愛するもので、かの多情な男子は通例この種族から出たものである。また男子を愛する多情な女子もさうである。」
「けれども女性から両分せられた女子は、男子を棄てて顧みず、ただ女子のみを愛する。」
「それから男性の両分せられて出来た男子は男子を求め、その少年時代には、その男性の半分として成年男子を愛してその傍らに横はつてこれを抱擁することを好む。・・・・成年に達すると、彼等は青年を愛するやうになつて来る。そして結婚したり子供を儲けたりすることは天性その好まないところである。」
「我々の原始性はもと一にして完全なものであつたので、我々はこの完全なる一体たらんとする慾望を不断に有してゐる・・・・。そしてこれが即ち愛(エロス)である。」

★バルトロメウス・スプランヘル(Bartholomeus Spranger)『サルマキスとヘルマプロディートス』 (1580年頃)

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オウィディウス(前43-後18)『変身物語』(上)「巻4」(35)「レウコトエとクリュティエ」:アポロンはペルシアの王女レウコトエに夢中になった!棄てられたクリュティエは嫉妬に燃えた!

2022-08-17 14:33:26 | 日記
ウェヌス女神(ヴィーナス)は、太陽神アポロンによる夫ウルカヌス(ヘパイストス)への(軍神マルスとの浮気の)密告の件を忘れず、仕返しをする。
(1)ウェヌス女神(ヴィーナス)は、太陽神アポロンが、ペルシアの王女レウコトエに夢中になるように仕向ける。かくてアポロンの万物をみそなわすべきはずの眼が、此のただ一人の乙女だけに注がれた。ついに太陽神は、彼女の母親エウリュノメの姿に身をやつし、12人の侍女にかしずかれたレウコトエの部屋をたずねた。
(2)アポロンは母親の姿で「娘と内密の話があるので、みなさん、この場を外してください」と侍女たちを遠ざけた。王女エウコトエと2人になると、アポロンは本来の太陽神の姿に戻った。乙女は神の輝きにうたれて、訴えの言葉も出さず、荒々しい振る舞いを受け入れた。
(3)だがそれまで太陽神アポロンは、水のニンフのクリュティエを寵愛していた。ウェヌス女神(ヴィーナス)の仕返しの計画の一環で、アポロンはクリュティエを棄て、レウコトエに夢中になった。
(3)-2クリュティエは嫉妬に燃えた。彼女は、王女レウコトエのアポロンとの密通を、ペルシャの父王にことさら悪しざまに密告した。気性の荒い父王は、娘の言い訳をきかず、レウコトエを生き埋めにした。
(3)-3太陽神アポロンは、レウコトエを、光線の力で命のぬくもりへ戻そうとしたが無駄だった。アポロン(ヘリオス)は、レウコトエの死体にネクタル(神酒)を降り注ぎ、彼女を天界へ連れていった。地上の彼女の消えた場所には乳香の木が生えた。
(4)太陽神アポロンのクリュティエへの愛は、かくて決定的に終わった。アポロンは二度とクリュティエに近づこうとしなかった。以来クリュティエは恋のおもいに憔悴し、やせ細って行った。彼女は9日の間、何も食べず、地面から動こうとせず、空行く太陽を見つめているだけだった。やがて体が土にくっつき、彼女はヘリオトロープの木に変じた。

《参考1》クリュティエの変じたヘリオトロープ(Heliotropium)は、ギリシア語で「太陽(helios)に向かう(trope)」という意味だ。「菫によく似た花」が咲くが。それはクリュティエの「顔」の部分だという。
《参考2》後の絵画や文学では、クリュティエの変じた花はしばしばヒマワリとされる。しかしヒマワリはアメリカ大陸原産であり、ヨーロッパにはスペイン人によって1500年代にもたらされた。古代ギリシア・ローマの時代には、ヒマワリはヨーロッパで知られていない。

★Charles de La Fosse, “Clytie Changed into a Sunflower” 1688
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オウィディウス(前43-後18)『変身物語』(上)「巻4」(34)「マルスとウェヌス」:ウルカヌス(火と鍛冶の神)は妻ウェヌス女神(ヴィーナス)の軍神マルスとの不義をアポロン神から知らされた!

2022-08-16 16:05:29 | 日記
バッコスの祭りに参加せず家の中にこもり、機織(ハタオリ)をしていたミニュアスの娘たち(アルキトエ、レウコノエ、アルシッペ)の2人目、レウコノエが「ウェヌス女神と軍神マルスの不義」の物語を話し始めた。
(1)ウェヌス女神(ヴィーナス)の軍神マルスとの不義を最初に見つけたのは、太陽神アポロンだった。このことを、その密通の場所も含めてアポロンは、ウェヌス女神の夫であるウルカヌス(火と鍛冶の神)に知らせた。ウルカヌスは肝をつぶしたが、思い直すと、たちまちのうちに「真鍮の細い鎖で編んだ網」の罠を作った。この網は肉眼ではとらえがたい、蜘蛛の巣にも負けない出来栄えだった。
(2)ウルカヌスは、この「網」の罠を密通の寝床のまわりへ張りめぐらせた。で、妻ウェヌス女神とその情人(軍神マルス)とがひとつ床に入ると、夫ウルカヌスの腕前と、新案の「鎖で編んだ網」の罠の働きで、2人は見事にとらえられ、抱き合ったまま身動きできない。
(3)ただちにウルカヌスは象牙の扉を開いて神々たちを呼び入れた。ふたり(ヴィーナスとマルス)は、ぶざまにも、くっついたまま横たわっている。陽気な神々のなかのひとりが、「こんなぶざまな恰好になってみたいな」といって、みんなを笑わせた。この話は、長い間、天界のいたるところで、誰知らぬもののない語り草となった。

《感想》ウェヌス女神(ヴィーナス)とウルカヌス神が別れることはない。ウルカヌスは妻の密通に怒るが、妻(美の女神ヴィーナス)に心底、惚れている。他方、ウルカヌスは、生まれつき片足が悪く、そのことに引け目を感じている。

《参考》ミニュアスには3人の娘、アルキトエ、レウキッパ(レウコノエ)、アルシッペがあった。彼女らは後に、バッコスの怒りにふれる。

★ティントレット『ウルカヌスに驚かされるヴィーナスとマルス』(1555頃):ティントレットはオウィディウスが語る神話を独自の解釈で描く。寝室に突如現れた夫ウルカヌス(ヘパイストス)に、ヴィーナス(ヴェヌス)とマルス(アレス)が驚き慌てる。ウルカヌスは妻の浮気を疑っている。逢瀬を楽しんでいたヴィーナスは平然とした態度でベッドに横臥する。ウルカヌスは妻の衣服を持ち上げ浮気の証拠を探そうとする。だが実は、背景の丸い鏡は磨かれたマルスの盾であり、浮気相手のマルスがテーブルの下にいる。マルスは顔を出し、威嚇する犬をなだめている。エロス(キューピッド)が窓辺のゆりかごで眠ったふりをしている。


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