(1)
怪獣を倒し王女アンドロメダを花嫁に迎えたペルセウスのために、アイティオピア王国の王の祝宴が開かれ、ペルセウスがこの国の貴紳たちに、メドゥーサ退治のことを物語っていると、王宮の広場で反乱が起きた。反乱の首謀者はアンドロメダの許婚者(イイナズケ)だったピネウスだ。「やい、やい!妻を横取りされた仕返しに、こうしてやって来たおれさまだ」とピネウスが言った。かくてアイティオピア王国は国王・ペルセウス側と、ピネウス側に分裂し、戦(イクサ)となる。
(2)
国王ケペウス(アイティオピア王)がピネウスに向かって叫ぶ。「かりにも私の弟ではないか。こんな馬鹿な真似をするとは、何という気違い沙汰だ?」ピネウスは答えない。怒りにまかせ、勢いよく槍をペルセウスに向けて投げつけた。だがはずれた。ペルセウスが槍を投げ返す。ピネウスは祭壇の後ろに逃げたが、代わりに①ロイトスという男の額を槍が貫いて死んだ。
(3)
今やピネウス側の暴徒の群れが、てんでに槍を投げつける。「花婿(ペルセウス)もろともケペウス(アイティオピア王)にも死んでもらおう」と怒鳴る者たちがいる。国王ケペウスが「騒動は自分の制止にもかかわらず起こったのだ」と誓言すると、戦(イクサ)の女神ミネルヴァ(アテナ)が降臨し、神盾(アイギス)でペルセウスを守り勇気づける。
(4)
ペルセウスは、②インド生まれのアティスという若者の顔を丸太ん棒の一撃で打ち砕いた。アティスを愛(同性愛)していた③アッシュリアのリュカバスは弓をぺルセウスに向け放ったが外れ、ペルセウスの鉤なりの剣で刺し殺された。ペルセウスは④シュエネ生まれのポルバスと、⑤リュビア出身のアムピメドンを刺し殺した。さらにペルセウスは、⑥アクトルの子のエリュトス、⑦セミラミス女王の血をひくポリュデグモン、⑧コーカサスのアバリス、⑨スペルケイオスの子リュケトス、⑩蓬髪のヘリケス、⑪プレギュアス、⑫クリュトスを打ち倒した。
(5)
ピネウスは、間近に敵と相対することを避けて、投げ槍を投げる。それは的を外れ、戦闘に加わらず、どちらの側にもついていないイダスを殺した。ピネウス側は、「アイティオピア人のあいだで王につぐ第一人者」のホディテスを殺し、またプルトニノルをヒュプセウスが殺した。だがペルセウスが⑬このヒュプセウスを討ち取った。「正義をとうとび神をおそれる人物」であったエマンティオンという老人が、ピネウス側のクロミスによって首を落とされた。
(6)
ピネウスが、拳闘技で無敵のプロテアスとアムモンという兄弟を殺した。さらにペルセウスの側の「豊穣女神」(ケレス)の神官アムピュコス、竪琴の弾き語りのラムペディデス、リビュアのペラテス、メラネウスが殺された。また大地主のドリュラスがバクトリアのハルキュオネウスに投げ槍で殺された。ペルセウスが仕返しに槍を投げつけ⑭ハルキュオネウスを殺した。
(7)
ペルセウスは⑮クリュティオスと⑯クラニスの兄弟を殺した。さらにペルセウスは⑰メンデスの人ケラドン、⑱母親がシュリア女のアストレウスス、⑲かつては未来を予見するのに巧みだったが、今回は、偽りの兆しにだまされたアイティオン、⑳王の盾持ちトアクテスを倒した。
(8)
ペルセウスの働きは目ざましかった(すでに①~⑳を倒した)が、それでもまだ足りない。ぐるになった敵勢(ピネウス側)が四方から襲いかかる。ペルセウスは、大きな石の柱に肩を持たせかけて背後を安全にすると、カオニアのモルペウスの脚をぐさりと一突きして退却させた。そしてペルセウスは、㉑アラビアのエケムモンをメルクリウスの剣で殺した。
(9)
しかし武勇だけでは大勢に勝てないことを見てとったペルセウスは言った。「おまえたち自身がそうさせるとあれば、かつての敵メドゥーサの助けを求めよう。味方のものは、顔をそむけるように!」ペルセウスが、メドゥーサの首を突き出した。(a)必殺の槍を手で投げつけようとしていたテスケロスは、そのしぐさのままで、大理石の像となった。(b)ペルセウスの胸を剣で狙ったアムピュクスも石となり動かなくなった。(c)「俺さまほどの男の手にかかって死ぬきさまだ、あの世へ行っても成仏はかたいぞ」と怒鳴って攻撃してきたニレウスは言葉がとぎれ固まった。(d)飛びかかろうとしたエリュクスは、足が土から離れず、動かぬ石となり武装した像となった。
(9)-2
ペルセウス側からも犠牲者が出た。アコンテウスという兵士が、戦闘中にふとメドゥーサを見たため石となった。だがアコンテウスがまだ生きていると勘違いした(ピネウス側の)アステュアゲスが長剣で斬りつけると、剣は鋭い音を立てた。(e)アステュアゲスが呆然としているうちに、メドゥーサの首を見て彼は石と化し、驚いた表情が大理石の顔に残った。
(10)
こうしてピネウス側の200人がメドゥーサを見て石となった。こうなるとピネウスも、不法な戦いを後悔した。彼は顔をメドゥーサの首から背けながら、哀願の姿勢を取る。そして言った。「誰よりも強いペルセウス君、命だけは助けてくれたまえ。ほかのものはすべて君にさしあげよう。」
(10)-2
ペルセウスが言った。「臆病きわまりないピネウス君、卑怯者には大した贈り物となるしろものを、さしあげるとしよう。」こう言ってピネウスが不安そうな顔を向けていた方へ、ペルセウスはメドゥーサの首を持っていった。ピネウスは固まって石となった。おずおずした顔と哀願の表情、へりくだった手つきと卑屈な様子がピネウスの大理石に残った。
★ピネウスとペルセウス(※ピネウス)
怪獣を倒し王女アンドロメダを花嫁に迎えたペルセウスのために、アイティオピア王国の王の祝宴が開かれ、ペルセウスがこの国の貴紳たちに、メドゥーサ退治のことを物語っていると、王宮の広場で反乱が起きた。反乱の首謀者はアンドロメダの許婚者(イイナズケ)だったピネウスだ。「やい、やい!妻を横取りされた仕返しに、こうしてやって来たおれさまだ」とピネウスが言った。かくてアイティオピア王国は国王・ペルセウス側と、ピネウス側に分裂し、戦(イクサ)となる。
(2)
国王ケペウス(アイティオピア王)がピネウスに向かって叫ぶ。「かりにも私の弟ではないか。こんな馬鹿な真似をするとは、何という気違い沙汰だ?」ピネウスは答えない。怒りにまかせ、勢いよく槍をペルセウスに向けて投げつけた。だがはずれた。ペルセウスが槍を投げ返す。ピネウスは祭壇の後ろに逃げたが、代わりに①ロイトスという男の額を槍が貫いて死んだ。
(3)
今やピネウス側の暴徒の群れが、てんでに槍を投げつける。「花婿(ペルセウス)もろともケペウス(アイティオピア王)にも死んでもらおう」と怒鳴る者たちがいる。国王ケペウスが「騒動は自分の制止にもかかわらず起こったのだ」と誓言すると、戦(イクサ)の女神ミネルヴァ(アテナ)が降臨し、神盾(アイギス)でペルセウスを守り勇気づける。
(4)
ペルセウスは、②インド生まれのアティスという若者の顔を丸太ん棒の一撃で打ち砕いた。アティスを愛(同性愛)していた③アッシュリアのリュカバスは弓をぺルセウスに向け放ったが外れ、ペルセウスの鉤なりの剣で刺し殺された。ペルセウスは④シュエネ生まれのポルバスと、⑤リュビア出身のアムピメドンを刺し殺した。さらにペルセウスは、⑥アクトルの子のエリュトス、⑦セミラミス女王の血をひくポリュデグモン、⑧コーカサスのアバリス、⑨スペルケイオスの子リュケトス、⑩蓬髪のヘリケス、⑪プレギュアス、⑫クリュトスを打ち倒した。
(5)
ピネウスは、間近に敵と相対することを避けて、投げ槍を投げる。それは的を外れ、戦闘に加わらず、どちらの側にもついていないイダスを殺した。ピネウス側は、「アイティオピア人のあいだで王につぐ第一人者」のホディテスを殺し、またプルトニノルをヒュプセウスが殺した。だがペルセウスが⑬このヒュプセウスを討ち取った。「正義をとうとび神をおそれる人物」であったエマンティオンという老人が、ピネウス側のクロミスによって首を落とされた。
(6)
ピネウスが、拳闘技で無敵のプロテアスとアムモンという兄弟を殺した。さらにペルセウスの側の「豊穣女神」(ケレス)の神官アムピュコス、竪琴の弾き語りのラムペディデス、リビュアのペラテス、メラネウスが殺された。また大地主のドリュラスがバクトリアのハルキュオネウスに投げ槍で殺された。ペルセウスが仕返しに槍を投げつけ⑭ハルキュオネウスを殺した。
(7)
ペルセウスは⑮クリュティオスと⑯クラニスの兄弟を殺した。さらにペルセウスは⑰メンデスの人ケラドン、⑱母親がシュリア女のアストレウスス、⑲かつては未来を予見するのに巧みだったが、今回は、偽りの兆しにだまされたアイティオン、⑳王の盾持ちトアクテスを倒した。
(8)
ペルセウスの働きは目ざましかった(すでに①~⑳を倒した)が、それでもまだ足りない。ぐるになった敵勢(ピネウス側)が四方から襲いかかる。ペルセウスは、大きな石の柱に肩を持たせかけて背後を安全にすると、カオニアのモルペウスの脚をぐさりと一突きして退却させた。そしてペルセウスは、㉑アラビアのエケムモンをメルクリウスの剣で殺した。
(9)
しかし武勇だけでは大勢に勝てないことを見てとったペルセウスは言った。「おまえたち自身がそうさせるとあれば、かつての敵メドゥーサの助けを求めよう。味方のものは、顔をそむけるように!」ペルセウスが、メドゥーサの首を突き出した。(a)必殺の槍を手で投げつけようとしていたテスケロスは、そのしぐさのままで、大理石の像となった。(b)ペルセウスの胸を剣で狙ったアムピュクスも石となり動かなくなった。(c)「俺さまほどの男の手にかかって死ぬきさまだ、あの世へ行っても成仏はかたいぞ」と怒鳴って攻撃してきたニレウスは言葉がとぎれ固まった。(d)飛びかかろうとしたエリュクスは、足が土から離れず、動かぬ石となり武装した像となった。
(9)-2
ペルセウス側からも犠牲者が出た。アコンテウスという兵士が、戦闘中にふとメドゥーサを見たため石となった。だがアコンテウスがまだ生きていると勘違いした(ピネウス側の)アステュアゲスが長剣で斬りつけると、剣は鋭い音を立てた。(e)アステュアゲスが呆然としているうちに、メドゥーサの首を見て彼は石と化し、驚いた表情が大理石の顔に残った。
(10)
こうしてピネウス側の200人がメドゥーサを見て石となった。こうなるとピネウスも、不法な戦いを後悔した。彼は顔をメドゥーサの首から背けながら、哀願の姿勢を取る。そして言った。「誰よりも強いペルセウス君、命だけは助けてくれたまえ。ほかのものはすべて君にさしあげよう。」
(10)-2
ペルセウスが言った。「臆病きわまりないピネウス君、卑怯者には大した贈り物となるしろものを、さしあげるとしよう。」こう言ってピネウスが不安そうな顔を向けていた方へ、ペルセウスはメドゥーサの首を持っていった。ピネウスは固まって石となった。おずおずした顔と哀願の表情、へりくだった手つきと卑屈な様子がピネウスの大理石に残った。
★ピネウスとペルセウス(※ピネウス)