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『サキ短編集』㉑「盲点」:伯父のラルワアス卿は、「美食家」だ!「美食の価値」が彼にとって第一だ!「道徳的・倫理的・法的な価値」は彼にとって第一のものでない!

2022-08-11 10:15:28 | 日記
※サキ(Saki)、本名ヘクター・ヒュー・マンロー(Hector Hugh Munro)(1870-1916)、『サキ短編集』新潮文庫、1958年。

(21)「盲点」
(a)大伯母アデレイドの葬式に出たエグバアトが、伯父のラルワアス卿の屋敷に戻って来た。ちょうど昼食前でエグバアト(ラルワアス卿の甥)が「葬式のことは昼食の時に話しましょう」と言った。
(b)するとラルワアス卿は「そんなことはしちゃいけない。大伯母さんの思い出に対しても、昼食に対しても敬意を欠く」と言った。「昼食は高価なものでないが、立派なものだ。」
《感想》伯父のラルワアス卿は屋敷の料理人(セバスチアン)の腕前を気に入り、褒め、讃嘆している。
(c)エグバアトが「大伯母さんは、よくあなたのことを不真面目だと言ってましたよ」と言った。ラルワアス卿が「人生においては、澄んだ良心よりも、澄んだスウプの方が大切な要素だと言って、一度、ひどくアデレイドを怒らせたことがあるんだ」と応じた。
《感想》伯父のラルワアス卿は、美食家だ。道徳的・倫理的・法的な観点は彼にとって第一のものでない。
(d)大伯母アデレイドは、エグバアドを相続人かつ指定遺言執行者にした。エグバアドは多くの書類を調べることになった。「それらの中で、大伯母さんの兄さん(大伯父)ピイタアの手紙が問題なんです」とエグバアドが言った。ピイタアは60歳過ぎの国教の本山僧だった。ピイタアは石の階段から落ちて死んだ。ただし医学的検証の結果、背後から頭に打撃を受け、それが致命傷となり、大伯父ピイタアは石の階段から落ち死んだのだった。
(e)つまり大伯父ピイタアは殺されたのだ。かくてコックのセバスチアンに嫌疑がかかった。当時、邸内にいたのがコックだけだったからだ。だが殺人の動機がない。主人のピイタアは、セバスチアンの料理の腕前が素晴らしかったので、高い給料を払っていた。セバスチアンが主人を殺す理由がない。
(f)セバスチアンは裁判にかけられた。確かにセバスチアンは非常に短気な男で、庭師の子供を殺しかけたことがあった。だがピイタア殺人事件の公判廷では、主人ピイタアと料理人 セバスチアンの間に喧嘩口論はなかったと証言された。かくてセバスチアンが主人ピイタアを殺す動機がない。こうしてセバスチアンは無罪となった。
(g)「だが今回発見された、大伯父ピイタアの手紙が公判廷に提出されていたら、セバスチアンの殺人の動機が明らかになり、彼は有罪で、死刑になったでしょう」とエグバアドが言った。
(g)-2 その手紙の中で大伯父ピイタアが書いていた。「セバスチアンの料理の腕は神の如きものです。しかし彼は、悪魔か類人猿のような凶暴さを持っていて、私は具体的な恐怖を感じています。というのも先日、料理について議論した時、私は彼の頑迷さに腹が立ったので、彼の顔にコオヒイをぶっかっけ、『身のほども知らぬ猿だ』と言ってしまったからです。私は笑い飛ばし、その場だけのことで終わると思っていました。しかし彼はそれ以来、ひどく面白からぬ顔をし、庭園で私の跡をつけているらしいのです。私は身の危険を感じています。」
(h)エグバアトが読み終わると伯父ラルワアス卿が尋ねた。「その手紙を、誰かほかの者に見せたかい?」「いいえ」とエグバアドは言って、手紙をラルワアス卿に渡した。「誰よりもまず伯父さんにお話しようと思ったものですから。」
(h)-2 その途端、ラルワアス卿は、手紙を燃えている暖炉の真ん中に投げ込んだ。エグバアドは叫び声をあげた。そしてあえいで言った。「あの手紙は、料理人セバスチアンとあの殺人を結びつける唯一の証拠だったんですよ!」
(h)-3 ラルワアス卿が言った。「だからこそ焼いたんだよ。」「セバスチアンは、ありふれた人殺しかもしれないが、なかなかありふれた料理人じゃないからな。」(Cf. ラルワアス卿は、大伯父ピイタアの死後、料理人セバスチアンを自分の屋敷で雇った。)
《感想》伯父のラルワアス卿は、「美食家」だ。「美食の価値」が彼にとって第一だ。「道徳的・倫理的・法的な価値」は彼にとって第一のものでない。
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