DIARY yuutu

yuuutunna toki no nikki

田村隆一(1923-1998)「遠い国」『四千の日と夜』(1956年、33歳)  

2016-10-17 00:33:27 | 日記
 遠い国
ぼくの苦しみは
単純なものだ
  遠い国からきた動物を飼うように
  べつに工夫がいるわけじゃない

ぼくの詩は
単純なものだ
  遠い国からきた手紙を読むように
  べつに涙がいるわけじゃない

ぼくの歓びや悲しみは
もっと単純なものだ
  遠い国からきた人を殺すように
  べつに言葉がいるわけじゃない

《感想0》
①「戦時下における死に甲斐のない死者を友人にもたねばならなかった体験」が、この詩の背景にある。(河野仁昭(コウノヒトアキ)『詩のある日々――京都』1988年)

《感想1》
(1)「遠い国」とは、《紋切り型》的に「単純」な属性のこと
②「ぼくの苦しみは/単純」とは、《複雑》でないこと。
②-2 「遠い国からきた動物を飼う」のが「単純」で「工夫がいるわけじゃない」のは、その動物についてよく知らないので、例えば常温で餌をやるぐらいしか「工夫」しないこと。
②-3「単純」でない《複雑》な「苦しみ」は、例えば、原因不明の肉体的苦痛や精神的苦痛。
②-4「単純」な「ぼくの苦しみ」は、原因が明瞭。交通事故による負傷、収入が少なく生活苦、無能なため人から侮蔑される等々。
②-5 「遠い国」とは、細かいことが分からず、《紋切り型》的に「単純」な属性を、意味する。
③戦時下で人は、爆弾で死ぬか、命令で死ぬか、死の原因明瞭。また各人は、個性と無縁の人型兵器・人型輸送機械で、交換可能。人は、《紋切り型》的に「単純」に扱われる。

《感想2》
(2)《紋切り型》的な「遠い国」的属性を持つ「ぼくの詩は/単純」で、日常的字義通りに解釈すればよく、かつ情緒・感情・情念・熱情など個性的事情とは無縁で、感激の「涙」を要求しない
④「ぼくの詩は/単純」とは、《紋切り型》的に「単純」に扱われるという「遠い国」的属性を、持つこと。
④-2 「ぼくの詩」は、単に言葉(音声、または文字)が並んでいるだけで、《紋切り型》的に「単純」に解釈されればよい。
④-3 つまり、日常的な字義通りにとればよく、暗喩など遠回しの解釈を要求しない。
⑤また感激の「涙」も要求しない。情緒・感情・情念・熱情など、個性的事情とは無縁なため。

《感想3》
(3)「敵」は憎み、殺されるべきもの、逆に「味方」は愛し、勝利すれば喜び、死ねば悲しむものとのみ感じる
⑥ 「遠い国からきた人」は、例えば「敵」と名付けられ、《紋切り型》的に「単純」に扱われ、個性は全く問われず、「言葉」が交わされることなく、殺される。
⑥-2 この時、「ぼくの歓びや悲しみは/単純」で、「遠い国」的属性をもつ。「敵」は憎み、殺されるべきものとのみ感じ、逆に「味方」は愛し、勝利すれば喜び、死ねば悲しむ。

 A DISTANT COUNTRY
My pains are simple.
They don't need special skills in such a case as you keep an animal that comes from a distant country.
My poems are simple.
They don't need special tears in such a case as you read a letter that comes from a distant country.
My pleasures and sorrows are much simpler.
They don't need special words in such a case as you kill a person who comes from a distant country.
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