『剣と絵筆』(1981年)バーバラ・レオニ・ピカード作 平野ふみ子訳 すぐ書房
先々週末は、代々木上原のモスク訪問のあとは、東京子ども図書館の『森の読書会』へ!
(上京するときは、ここぞとばかりの予定をいっぱい入れます)
というわけで、今日の一冊は、そのときの課題図書のうちの一冊より。
おおーっ、久々のTHE☆古典児童文学の王道!って感じでございましたよ。‟この装丁じゃねえ・・・”ってとこまで含めて(笑)。全然知らなかったけれど、名作です。でも、お決まりのごとく絶版
読書会のみなさんが声をそろえて言うことには、これはぜひ進路に悩む子ども、そして社会人になった大人にも読んでもらいたい!装丁&出版社を変えて(笑)。
こういうズンと来る物語を読むと、今書店に並んでいる児童書の中身の薄っぺらさに、ため息が出てしまいます。使い捨てのような本ばかりが並び、こういった残しておきたい名作が消えていく。図書館ですら、地下書架にあることが多いという事実。手渡す人がいなければ、読まれない本の類ですが、読書会でシェアすると、お一人お一人の個人的な思いに本当に感動しました。
東京子ども図書館の読書会は、分析とか文学論とかそういうのじゃないんです。本当にみなさん、ただ個人的な感想を述べてるだけ。それが、感動するのですよ。全体の雰囲気も批判や否定がないからか、ただただあったかくて、包み込まれるかのよう。
【『剣と絵筆』あらすじ】
舞台は14世紀のイングランド。名門ド・ボーヴィル家に生まれたものの、幼い頃のトラウマが原因で犬恐怖症であったスティーブン。そのことで、臆病者とされ、兄弟親戚から執拗なイジメにあう。また、スティーヴンは騎士には向かないと父に判断され、本人の意志は無視され、修道院に入れられてしまう。
修道院では悪いことばかりではなく、絵の才能も開花しかかったが、騎士になる夢を諦めきれず、親兄弟を見返したいスティーブンは家出を決意。そこで、出会ったペイガン卿により、彼の人生は大きく方向転換する。犬恐怖症克服のきっかけとなった、愛犬アミール、大いなるメンターであり心の友となったペイガン卿、自分を慕ってくれた問題児トマス、そして、偏屈頑固職人肌のアーヌルフ修道士・・・さまざまな出会いと別れを繰り返し、スティーブンは本当の自分を見出していく。
正直ね、騎士時代とか苦手・・・な私でもグイグイ読めました!
■ キーワードは自己肯定感
最初はあまりにもあまりにも陰険ないじめに、正直読み進むのがつらかったです。あれ?昔のいじめってもっとカラっとしてたんじゃなかったの???ガキ大将的なイジメじゃなかったの????
なんだか、現代のいじめが特別に陰険に感じますが、実は14世紀の時代も変わらないというこに驚き。
そして、いまの子たちのキーワードにもなっている‟自己肯定感”、これもまさにテーマだなあ、と。スティーブンはイジメの原因となっていた犬恐怖症を克服しても、イジメが終わらないんですね。なぜなら、臆病者でないことを願っていながら、自らが臆病だと思い込んでいたから。自己肯定感が低かったから。だから、実際は違うのに、そうと分かるまでに、信じられないくらい時間がかかってしまう。そういう子、たくさんいるんじゃないかな。自己肯定感を取り戻していくストーリーは、もがいてる現代の子どもたちにも十分通じる!って思います。
ちなみに原作はコチラ↓
One is One、あなたはあなた。まさに、自己肯定!
■ 人との出会いが人を成長させる
人だけじゃなくて、動物しかり、なんですけどね。人が成長するのって、やっぱり‟出会い”によってなんだなあ、って。親には限界があるというか、近すぎて、その子の良さが客観的に見れなかったりする。
‟かわいい子には旅をさせよ”
って本当だなあ、ってしみじみ思う。スティーブンはかわいがられてたわけではなく、どちらかというと厄介払いなところがあったけれど。家族に認められない、疎まれる苦しみ、みじめさってどれほどだろうって思うと、胸が苦しくなる。
さらに、スティーブンは、大切な人と次々に悲痛な別れも訪れるのですが、でも、失うものばかりじゃないんですね。目に見えない大切なものを得てもいっている。その過程には、静かな感動があります。
■ 会話が重厚
児童文学の古典って、会話の一つ一つが重みがあるというか、心に染み入るんです。ネタバレになるので、あえて書きませんが、ズシンと来る。抜き出して書いてみると、それ自体が名言というわけではないのですが、物語ですから、それまでの過程を知ったうえでの言葉となると、重みがある。会話に引きこまれること間違いナシです。
今の私たちって、言葉はあふれてるけれど、無駄なものが多いんだなあ、と感じてしまうのです。
進路ってね、そう簡単に決められものじゃないんです。寄り道、周り道して、やっと見つけられる人もいる。でも、辿って来た道に無駄は一つもなくて。ありふれた言葉になってしまうけれど、人生ってよくできてるなあ、ってしみじみ思う。
読む楽しみを奪いたいくないので、どうしても抽象的な紹介になってしまうけれど
名作です!ぜひ。
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