皮膚呼吸しか知らない蛙

アスペルガー症候群当事者が、2次障害に溺れることもありながら社会に適応していく道のりを綴っていきます。

自閉症の小脳異常

2008-11-10 23:05:57 | アスペルガー症候群

アスペルガー障害(症候群)を含む自閉症は、

(1)対人関係・相互的社会関係の障害(周囲と交わらない)
(2)言語発達を含むコミュニケーションの障害(言葉の遅れ)
(3)興味・関心の狭さや反復する常道的行動(こだわり)

これら三つの行動発達障害の出現により特定され、WHOの「国際疾病分類ICD-10」や米国精神医学界のDSM-Ⅳに共通して広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorders)という大項目のもとに分類されています。

自閉症児者の注意や認知については、“joint attention”(共同注意)や“theory of mind”(心の理論)に関する理論があるそうです。

共同注意に関して、分かりやすいシンポジウム記事がありましたのでリンクしておきます。

第3回学術集会 シンポジウム2 「共同注意の発達-社会的認知における意味と役割」


もう一方の心の理論に関しては、有名な「サリーとアン課題」「スマーティ課題」などで知られている理論で、自閉症などの発達障害は、心の理論の発達の遅れが、社会的コミュニケーション不全の原因の一つになっているといわれています。

<ウィキペディア こころの理論>


ワタシはこの「サリーとアン課題」、数分考えて“間違い”ました。
『出題者の意図した答えをチョイスしなかった』と言うほうがより的を射ているかも知れません。
多数ある回答から“正解”を選択できなかった訳ですね。

一般的に4~5歳程度でこの課題はクリアできるそうです。
難しいと思うのですが、それが通常と呼ばれる発達だと言うことでしょう。


 

サイモン・バロン・コーエンは、他者の心を読むための機構として、意図検出器(Intentionality Detector:ID)、視線検出器(Eye-Direction Detector: EDD)、注意共有の機構(Shared-Attention Mechanism: SAM)、心の理論の機構(Theory-of-Mind Mechanism: ToMM)という4つの構成要素を提案している。

また、心の理論は進化の過程でヒトにおいて突然発生したものではなく、他の生物でもその原型となる能力があるのではないかと考えられている。それらの能力としてC.D.フリスらは、

  1. 生物と非生物を区別する能力
  2. 他者の視線を追うことによって注意を共有する能力
  3. ゴール志向性の行動を再現する能力
  4. 自己と他者の行動を区別する能力

の4つを挙げている。

<ウィキペディア 心の理論より引用>


また彼らは、心の理論は脳の特定の局所部位の働きのみで成り立っているのではなく広範なネットワークで成り立っているのだろうとしながらも、特に心の理論を支える基盤となっている可能性のある部位として、上側頭溝(STS)、下外側前頭前野および前部帯状回/内側前頭前野を挙げています。


その一部として小脳にスポットを当てている論文がありました。

自閉症の小脳異常 ‘包括的神経心理学’への道 斉藤治氏

死後脳の神経病理解剖は、脳の形態学的異常を検討する最も基礎的な方法である。その代表的な所見としては、
(1)小脳における Purkinje cell の減少、
(2)海馬や扁桃体を中心とする縁辺系における神経細胞密度の上昇と神経細胞サイズの減少、
さらに(3)脳重量の増大を示す巨大脳症
、が挙げられる。



①小脳プルキンエ細胞(Puekinje cell)は小脳皮質の主要な出力ニューロンであり、小脳を構成する第四脳室上方に位置する脳室体で形成される。


プルキンエ細胞層

皮質の中間層に存在する神経細胞は、大型のプルキンエ細胞のみである。プルキンエ細胞は小脳皮質を代表する統合的ニューロンであり、小脳からの出力信号を発する唯一の神経細胞である。その細胞体からは樹状突起と呼ばれる突起が分子層に伸び、数百におよぶ分岐を持つ。樹状突起の伸び方は平面的であり、隣同士の樹状突起が平行に重なり合うような構造をとっている。顆粒細胞から伸びる平行線維とは直角に交わる。プルキンエ細胞はGABA作動性であり、深部小脳核および脳幹の前庭神経核と抑制性シナプスを形成する。1つのプルキンエ細胞が、およそ10万~20万本の平行線維からの興奮性刺激を受け取る。

<ウィキペディア 小脳 より引用>


このプルキンエ細胞が自閉症児者には少ない傾向が認められているということは、
前庭小脳
身体平衡と眼球運動を調節する。半器官前庭神経核からの入力信号を受け取り、前庭神経外側核・内側核に出力する。また、上丘視覚野からの視覚信号の入力(後者は橋核を経由する)を受け取る。前庭小脳の傷害は、平衡と歩様の異常を引き起こす。

脊髄小脳
体幹と四肢の運動を制御する。三叉神経、視覚系、聴覚系および脊髄後索(脊髄小脳路を含む)からの固有受容信号を受信する。深部小脳核へと出力された信号は大脳皮質と脳幹に達し、下位の運動系を調節する。脊髄小脳には感覚地図が存在し、身体部位の空間的位置データを受け取っている(小脳虫部は体幹と四肢の近位、paravermisは四肢の遠位)。運動の最中に、身体のある部位がどこへ動くかを予測するため、固有受容入力信号の詳細な調節を行うことができる。

大脳小脳
運動の計画と感覚情報の評価を行う[2]。大脳皮質(特に頭頂葉からの全入力を、橋核を経由して受け取り、主に視床腹外側に出力する。信号は前運動野、一次運動野および赤核に達し、下オリーブ核を通って再び小脳半球へとリンクする。


これらに何らかの不具合や障害を与えている可能性が考えられる。
眼球運動の機能不全、半規管等前庭小脳の損傷による平衡と歩様の異常、三叉神経痛、身体部位の空間的位置把握の困難、感覚情報の誤作動・・・

自分自身の身体の機能、感覚は生来のものであり、他者との比較が出来ないため異常かどうかは分からないが、生活を送る上での不具合の理由としてはなるほど納得できる要素は存在すると思います。


②神経細胞(ニューロン)密度の上昇と神経細胞サイズの減少
小脳だけで1000億以上存在すると言われている神経細胞ですが、その総数が減少しているのではなくサイズの減少に伴う密度の上昇と考えると、圧迫やその他要因としての因子となりえるもののような気もします。

自閉症患者では、頭頂葉を結ぶ脳梁線維が分布する後部領域で有意にその面積が小さいことが明らかになり、定性的に示唆された頭頂葉の体積減少と相通ずる定量的所見が出ています。
また、この脳梁断面積の比較では、両側前頭葉を結ぶ交連線維の分布する領域でも面積が小さい傾向を示したのは注目に値する。(中略)
海馬体のいずれの領域にも群間差はなかった。他方、同じ対象者の小脳虫部のⅥ-Ⅶ小葉ならびに脳梁後部は、正常者に比べて有意に小さかった。


③脳重量の増大を示す巨大脳症
巨大脳症に関してはアレクサンダー病(先天性代謝異常症の一種)の症例として、てんかん、精神発達遅滞とともに認知されている。

アレクサンダー病の臨床検査では下記カナバン病等との識別がなされている。

カナバン病は,大頭症,頭部制御不能,生後3~5ヶ月より見られる発達遅延,重度の筋弛緩を特徴とし,自力での座位姿勢保持,歩行,発語は不可能である.筋弛緩は最終的に痙性となる.食事介助が必要となる.寿命は通常20歳未満である.
乳児期発症性で,正常もしくは大きい頭囲と関連のある他の神経変性疾患には,アレクサンダー病,テイ・サックス病,異染性白質ジストロフィー,グルタル酸血症がある.カナバン病とこれらの疾患との鑑別には,臨床検査もしくは分子遺伝学的検査が用いられる.


アスペルガー障害を含む発達障害の現在の診断方法にも疑問は残るが、他の疾患を見極められないまま過ごしている可能性もあるという事実が分かるとともに、

発達障害児者の認知スタイルの概念(Frith,Uta)としての“central coherence”(中心統一、中枢性統合)の考え方には納得してしまいます。


“idiot savant”が、一部自閉症関係者の間でもてはやされてしまっていますが、認知機能の低下と亢進の併存という特徴的認知スタイルだけを大きく取り上げてしまっているのは非常に残念なことです。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿