ウィトゲンシュタイン的日々

日常生活での出来事、登山・本などについての雑感。

『肺が危ない!』生島壮一郎 ~生き方を変える1冊~

2011-04-20 23:45:26 | 

倉田百三の『出家とその弟子』は10歳代の衝撃
なだいなだの『権威と権力』は20歳代の衝撃
本田勝一『貧困なる精神―悪口雑言罵詈讒謗集』は30歳代の衝撃だった。
これらの本は、私の考え方を変え、生き方までも変えた。
本を読んで、「そうそう!そうなんだよ!」と思う本はたくさんある。
だが、「そうそう!そうなんだよ!」というように共感する本は
自分の考えを深めたり、繫がらなかった思考を一つにすることはできても
考え方や生き方を変える本ではないことがほとんどなのだ。


著者・生島壮一郎氏は、呼吸器疾患全般の診察と治療にあたる呼吸器内科医である。
私がこの本を手にしたのは、今年(2011年)の2月。
昨年(2010年)2月に特発性間質性肺炎の急性増悪で父を亡くして、1年が経った頃だった。
正直なところ、書店で最初にタイトルを見た時、「もうこの本を読んでも何も変わらない。」と思った。
それでも私は書架からこの本を抜き取り、帯を見た。
「呼吸できない苦しさを、あなたはまだ知らない」
「慢性閉塞性肺疾患COPDの恐怖と真実」
と書かれた帯は、装丁の色と相まって少々おどろおどろしい感じを受けた。
「ははん…、これは恐怖を煽ってどうにかしようとしている本かな…。」
そう思いながら裏返して、裏表紙の帯を読んだ。
「COPDなどの病気で細胞が破壊され、スカスカになった肺の組織は、薬などの治療で元の健康な状態に戻すことはできません。(中略)COPDや肺がんで、苦しみながら亡くなっていった多くの患者さんを診てきた私としては、その方々のつらくて、無念な思いをなんとか伝えたいのです。今ある生命の闘いを意識して、タバコをやめてほしい。肺や気管支を大切に使ってほしい。そう強く願ってやみません。(本文より抜粋)」


この帯を読んで、私はこの本を買って読むことにし
家に帰って一気に読んだ。
著者には申し訳ないが、抜粋してどうしても紹介したい箇所があるので
ここに書かせてもらうことにする。
「私たち医師には、苦しみながら死んでいく患者さんの姿がはっきり見えています。しかし、一般の人たちには、タバコを吸い続けていくと最後にはどうなるか、どんな苦しみが待っているのか、想像がつかないでしょう。ひとりでもCOPDや肺がんで苦しむ人を減らしていくためには、どうしたらいいか――現実的には、急性増悪時に救急車で運ばれてくる患者さんたちの、あの壮絶な苦しみようを、喫煙者の人たちに見てもらうしかないのだろうか……とさえ思うことがあります。」
私は、今までいろいろなタバコの害を説く本を読んできたが
これほど真剣で心を動かされた、著者の叫びといってもいい言葉を読んだことがない。
著者は毎日の診察と治療で患者と向き合い、心から願っていることをありのままに書いたのだろう。
この文を読んだ私の脳裏には、緊張性気胸で呼吸困難になった父の最期がよみがえった。
このブログでもタバコをやめてほしいと度々訴えてきたが、なにせしがないブログである。
どれほどの人に訴えられたか、ましてやその人の考えを覆すほどの影響力はあるのか
などと考えれば考えるほど、これではいけないと思い始めていた矢先だった。
身近な人にタバコをやめてほしいと訴えても
「わかっちゃいるけど、やめられないのがタバコなんだよね。」とか
「ほらまた始まった。いいじゃん、自分が好きで吸っているんだから。」などと言われ
その人のことを大切に思えば思うだけ、激しい無力感にさいなまれることが多くなっていた。
そんな時に出会ったこの『肺が危ない!』は、私の生き方を変える本だといっても過言ではない。


喫煙者の皆さんにこの本を是非読んでほしい。
私が最初に感じたような「恐怖を煽る本」では決してないし
読めば必ず、著者の生命を慈しむ思いを感じ取れる。
あの我慢強い父が、「もういいよ。」と言うほど苦しかったであろう最期と同じような
本人にとっても家族や周囲の人にとってもつらく悲しい状況を、タバコをやめることで回避できるのだ。
「あのような悲しみをもう誰にも味わわせたくない」と、切に思う。



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