徒然なるまゝによしなしごとを書きつくる

旧タイトル めざせ、ブータン

Time of our Lives ;生命の持ち時間は決まっているのか

2016年12月03日 | 生命

トム・カークウッド(イギリス、大学教授、老化学)の書いた題名の本を読んだ。

自分自身も還暦を迎え、老いと死の問題がそんなに他人事でもない年代に近づいている。知り合い知人の中には既に物故している人も数名いるし、老化が進んでいる者もいる。この、老いを遅らせることは可能なのだろうか?そもそも、老化というのは如何なる現象なのだろうか?という全ての人が持っている疑問に現在の最先端の科学で答えたのがこの本だ。

一日が29時間だということをご存じだろうか。この40年間で平均寿命は30年延びた。一日当たり5時間に相当する。つまり、我々は平均すると1日生きるごとに5時間の余命が増加していることになる。長寿化は良いことばかりではない。生産に寄与しない老人が増えることで生産従事年齢の世代の負担は増える。ましてや4人に一人が認知症ともなればそのケアに関する社会的負担は膨大なものになる。事は極めて深刻、特に世界一の長寿国である日本はその最たるものでちょっと想像しただけで暗澹たる気分になる。社会全体のことはとても手に負えないので、せめて自分自身のことだけは処せるようにはして置きたい。

カークウッドの主張の核心は”使い捨ての体;Disposable soma"理論だ。これはドーキンスの”利己的な遺伝子”に通じる主張で、我々の体は生殖細胞を除いてエネルギー収支がトントンで収まるよう手抜きの構成になっている、というものです。言い換えれば、エネルギー収支が潤沢であれば体の老化は必然ではなく防ぐことができる、という希望のある主張でもあある。なぜこのようなことを言い出したかというと、1980年代まで科学者は老化はあらかじめ遺伝子にプログラムされた物だと考えていた。しかし、カークウッドは老化はDNAの最大拡散を前提とするバイオエコノミクス(生物経済学)の問題ととらえたのだ。DNAを効率よくコピーして増やす(生命の存在理由)為には生殖細胞は完璧であるべきだがそのビークル;担体である体にはそんなにコストは掛けられないので徐々にDNA情報にエラーが蓄積して破綻する、これが老化だ、というものだ。

それで、どうすれば老化を防げるかというと1食事、2運動、3持って生まれた遺伝子 ということになる。食事に関してはまずは老化を進めるものは極力取らない、具体的には動物性脂肪と糖類を抑えること、必須栄養素はバランスよくとること特にオメガ3脂肪酸(魚油)は効果的、そしてカロリー制限。カロリーを抑えた動物が長寿化する事は実験で繰り返し確認されている。ヒトも例外ではない。あとは適度な運動と親からもらった遺伝子で長生きできる。

しかし、冒頭で書いた通り皆が長生きすると本当に困ったことになる。これから事態は深刻化し新たな社会実験が始まるだろう。その中には身の毛がよだつような提案も含まれるかもしれない。日本はその最先端にいるのだ。