徒然なるまゝによしなしごとを書きつくる

旧タイトル めざせ、ブータン

IBMがニューラルネットワークチップを開発

2015年02月02日 | 物理

我々は脳で考え行動をしている。私がいまこの文章を考えて書いているのも脳のおかげだ。脳の構造と機能は複雑で、まだほとんど解明されていない。ただ、それを構成しているのは全て同じ機能を持つ基本素子=神経細胞だ。

神経細胞単体の機能と構造はよく研究されていてタンパク質レベルでその解明が進んでいる。その機能は多入力・1出力の積和素子で一個の神経細胞にシナプスを介して多入力が入りその総和が閾値を超えると発火し他の神経細胞に電位を伝える。脳の基本的機能は学習とそれに基づく行動だが、学習機能は入力部のシナプス間隙における伝達物質の量の変化、つまり入力に対する重み付けの調整で行う。

IBMはこの神経細胞を模したニューラルネットワークチップを開発し人工知能を実現させようとしている。 http://arstechnica.com/science/2014/08/ibm-researchers-make-a-chip-full-of-artificial-neurons/

54億個のトランジスタからなるこのチップは、神経細胞と似た働きをする基本ユニットセルを64x64=4096個ネットワークで繋いだ構成となっている。

それぞれのセルはひとつの神経細胞に該当し他の任意の256個のセルと入力および出力を結合する事が出来る。

人の脳は3億個の神経細胞から成ると言われており4千個は余りにも少ないが現在我々が持っている最高度のテクノロジーで脳に近づこうとしている事は評価できる。

このチップで何が出来るか? まず期待したいのはパターン認識の分野だろう。例えば音声認識は50年以上ノイマン型ソフトウェアで追及がなされているが未だに未完成だ。iPhone6にもその機能は搭載されているが単語レベルの認識もおぼつかないでたびたびトンデモナイ認識結果を示す。ノイマン型はこれが苦手なのだ。画像認識もしかりで画像をモニターして異常を検地するシーン解析というアプリケーション分野があるがその方面でも期待できる。

もう一つの特徴は学習機能だろう。繰り返しパターンを認識させて間違いを指摘しているとニューラルネットはそれを学習する機能がある。これはノイマン型では出来ない事で面白い事になりそうだ。S.キューブリックの2001年宇宙の旅でHALがメリーさんの子山羊から学習を始めたようにこのコンピューターも学習を始めるのだろう。

私自身もニューラルネットとは30年近い付き合いがあり仕事で応用システムを開発したこともある。しかし、当時のシステムには柔軟性がなく簡単なアプリケーションでもすっきりとした動作はしてくれなかった。ローカルミニマム(局所解)という落とし穴に捕まるとなかなか最適な答えにたどり着かないのだ。人の脳ではそれをカオス発振で避けているという説があるがこのIBMチップはそのような工夫がなされているのか興味がある。単純な積和だとこれだけ大規模なネットワークではまともに動作しないだろう。

ヒトの脳は機能が局在していて視野や言語野あるいは海馬、扁桃核とか色々な機能に特化した部分があり、マクロ構造が単純ではない。これはおそらく進化の過程で機能が徐々に積み重なった結果だろう。人類の最も新しく得た部分が新皮質で特にホモ・サピエンスでは新皮質・前頭葉が発達している。このマクロ構造に関して最も解析が進んでいるのが小脳だ。小脳は自転車乗りとか水泳とかの身体機能の学習を行っていてスポーツ等で運動・練習を重ねることで小脳のネットワークが発達し俊敏で正確な動作が出来るようになる。

このIBMのチップは均一な4000個のニューロセルからなっており、どちらかと言うと小脳に近い。著名なニューラルネットの研究者の言だが、今後、ヒトの脳の機能の理解に達するには300年はかかるだろう、と書いている。脳はお手本だがあまりに複雑で300億ニューロンという巨大なシステムだ。IBMはそれに本気で挑戦を始めたようだが、はたしてどのような成果が出るのか....