「ビブリア古書堂の事件手帖・2」 三上延著 メディアワークス文庫 12/01/11読了
物語の舞台が私にとってはあまりにもツボすぎて、ミステリーとして面白いのか面白くないのかも分からないまま読了。大船・鎌倉近辺在住の人に熱烈推薦したくなる一冊です。
鎌倉・大船といっても有名な観光地はほとんど登場しない。サザンの歌詞にも出てこないオシャレ度0のジモティーしか知らないような交差点や坂の名前が随所に散りばめられている。例えば、「手広(てびろ)の交差点」とか、「建長寺前の信号で一時停止」とか、「柏尾川沿いの道路を南西に向かった」とか、「小動(こゆるぎ)峠を越えた向こうに…」「大船の駅ビルの中にある書店」とか、その1つ1つの光景が目に浮かんで平常心ではいられなくなってしまう。予期せぬ、懐かしい友だちに出くわしたような、嬉しくて、ちょっと気恥ずかしいし気分。
というわけで、ボーリングでいえば最初から50点のハンデをあげちゃっているようなものなので、正確な評価は不能。ただ、莫大な取材をして書いているであろうことが伝わってくるほどに、古書に関する情報が緻密で誠実で好感が持てる。古書オタクウルトラクイズ(仮称)の問題を何個か作れそうなぐらいのマニアック度でありながら、電車の中で気楽にページをめくれるぐらいなお気楽モードの文体になっていて誰でもすんなりと入っていける。
栞子さんと大輔くんのおままごとのような淡い恋は昭和の少女マンガチックだし、そもそも、栞子さんと大輔くんというメインキャラクターが「2010年代の若者」としてはいまいちリアリティに掛けるような気もするが…作者は私とほぼ同年代なので、まぁ、昭和っぽさから逃れられないのはなんとなくわかる。
ちなみにこの巻の最初の小話でとりあげている古書は「時計仕掛けのオレンジ」(アントニー・バージェス)。キューブリックの映画のタイトルとして有名になった作品だけど、ちゃんと原作があって、しかも映画の印象で世の中の人が描いているのとは全く違うストーリーだったという―ちょっと物知りになった気分が味わえます。