おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「ビブリア古書堂の事件手帖・2」 三上延

2012年01月12日 | ま行の作家

「ビブリア古書堂の事件手帖・2」 三上延著 メディアワークス文庫 12/01/11読了 

 

 物語の舞台が私にとってはあまりにもツボすぎて、ミステリーとして面白いのか面白くないのかも分からないまま読了。大船・鎌倉近辺在住の人に熱烈推薦したくなる一冊です。

 

 鎌倉・大船といっても有名な観光地はほとんど登場しない。サザンの歌詞にも出てこないオシャレ度0のジモティーしか知らないような交差点や坂の名前が随所に散りばめられている。例えば、「手広(てびろ)の交差点」とか、「建長寺前の信号で一時停止」とか、「柏尾川沿いの道路を南西に向かった」とか、「小動(こゆるぎ)峠を越えた向こうに…」「大船の駅ビルの中にある書店」とか、その11つの光景が目に浮かんで平常心ではいられなくなってしまう。予期せぬ、懐かしい友だちに出くわしたような、嬉しくて、ちょっと気恥ずかしいし気分。

 

 というわけで、ボーリングでいえば最初から50点のハンデをあげちゃっているようなものなので、正確な評価は不能。ただ、莫大な取材をして書いているであろうことが伝わってくるほどに、古書に関する情報が緻密で誠実で好感が持てる。古書オタクウルトラクイズ(仮称)の問題を何個か作れそうなぐらいのマニアック度でありながら、電車の中で気楽にページをめくれるぐらいなお気楽モードの文体になっていて誰でもすんなりと入っていける。

 

栞子さんと大輔くんのおままごとのような淡い恋は昭和の少女マンガチックだし、そもそも、栞子さんと大輔くんというメインキャラクターが「2010年代の若者」としてはいまいちリアリティに掛けるような気もするが…作者は私とほぼ同年代なので、まぁ、昭和っぽさから逃れられないのはなんとなくわかる。

 

ちなみにこの巻の最初の小話でとりあげている古書は「時計仕掛けのオレンジ」(アントニー・バージェス)。キューブリックの映画のタイトルとして有名になった作品だけど、ちゃんと原作があって、しかも映画の印象で世の中の人が描いているのとは全く違うストーリーだったという―ちょっと物知りになった気分が味わえます。


「日本沈没」 小松左京

2012年01月12日 | か行の作家

「日本沈没」上・下 小松左京著 小学館文庫  

 

  恥ずかしながら、1973年の作品(執筆開始はなんと1964年!)を今さら初読する。子どもの頃、この映画が話題になっていたことはかすかに覚えている。でも、さすがに、まだ、こんな恐ろしげな映画を見る年齢ではなかったので、なんとなく「タイトルだけ知っている作品」のまま過ごしてきてしまった。

 

しかし完成から39年経った今読んでも、まったく古くささは感じない。それどころか、もしかして、小松左京という人は2011年の日本を見てきて書いたのではないか―と疑いたくなるような薄気味悪いぐらいのリアリティ。東京が震災に襲われる場面を読んで、311日の揺れを思い出して足がすくむような思いがした。そして、39年前よりも過密化が進んだ今、本当に直下型の地震が来たら、この小説の中で描かれている程度の混乱では済まないであろうことは容易に想像できる。

 

日本のSF小説の金字塔と言われているが、全くの空想小説ではなく、予見というか、警告的小説だったのかもしれない。さすがに、簡単に日本列島が沈没するようなことはないにしても、所詮は、プレートの境界に乗っている島に過ぎないという心構えでいなければ、

 

ちなみに、日本人のほとんどは当たり前のように地震とプレートとの関係を知っているが、その知識が広がったのは「日本沈没」がきっかけだったらしい。物語としての力があればこそ、人の心に知識を刻むことができたのだろう。