おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

勢州阿漕浦&桂川連理柵 @ 国立劇場

2010年09月05日 | 文楽のこと。
勢州阿漕浦&桂川連理柵 @ 国立劇場9月文楽公演

【勢州阿漕浦】
 初見の演目。ほとんど予習なしで見たわりには、ストーリーに入りこみ易く、楽しめました。なんといっても、玉也さんが遣われる治郎蔵がイカしてるんです♪

 伊勢神宮の御料地では殺生が禁じられていて、漁をすることも禁止。しかし、平治は母の病気を治したい一心で、病気に効くと言われる魚を深夜に密漁しようとする。網にかかったのは、魚ではなく、三種の神器の一つである「十握の剣」。しかし、その様子を、平瓦の治郎蔵に見とがめられ、つかみあいの争いをした結果、「平治」と名前を書いた笠を奪われてしまう…。

 まあ、その後は、いかにも文楽的にはよくある展開で、犯人である「証拠」を残してしまった平治は、あやうく身柄を捉えられそうになる。ところが、「実は」治郎蔵は平治の家来筋にあたることが判明し、最後の最後、治郎蔵が平治のために一肌脱いで、「笠にある平治の文字は平瓦の治郎蔵の頭の文字をとったもの」と言って、身代わりとなって平治の危機を救う。

 治郎蔵、脇役なのに、主役を食ってましたね。「阿漕の平治殿といふはここでえすか」「アイヤ、大事ないものでえす」。この「でえす」という、朴訥な口のきき方にハートくすぐられてしまいます。玉也さんが遣われるお人形は、いつも、キャラクターがきっちりと作られていて、観る者がそれに素直に乗っかっていかれる。だから、本当に、見ていて楽しくなるのです。最後に、治郎蔵が男気を見せるところは、あまりにもカッコよくて、大きな人形が一段と大きく見えました。

 勘弥さんの女房お春も、ふとした仕草に、子どもへの気遣いとか、夫への思いが溢れていてとってもよかったです。
 そして、清十郎さんは代官役でしたが… やっぱり、私、清十郎さんは女形の方が、圧倒的に心に響いてきます。

 住師匠、1時間半に渡る語りは圧巻でした。80歳を過ぎて、これだけの長丁場、たった一人で大熱演。本当に頭が下がります。予習なしでストーリーについていけたのは、住師匠のナビゲートあってこそ。でも、やっぱり、私が文楽を見始めてからの2年半の間にも、少しずつ、声量が落ちてきているような気はします。


【桂川連理柵】

 ブラボー嶋師匠! ブラボー簑師匠!
 いやぁ、この2人に完全にヤラれました。凄過ぎます。
 
 桂川は8月22日の内子座文楽で拝見したばかり。内子で「帯屋」を語った呂勢さんが、あまりにもノリノリで楽しくって、逆に、本公演を楽しめなかったら勿体ないな-と、ちょっとだけ心配していました。しかし、それは、まったくの杞憂でした。 もちろん、内子座での呂勢さんが素晴らしかったのは間違いないし、いずれ呂勢&咲甫時代が必ず来ると思いますが、でも、やっぱり、嶋師匠は別格なんです。観客を物語の中に引きずりこむ吸引力が強烈。有無をいわせず、一挙に、劇場を支配してしまうような勢いがありました。

 今回、妙に印象に残ったのは儀兵衛を遣われた玉輝さん。正直なところ、これまで、私的には全くのノーマークでほとんど記憶に残らない方だったのですが… 今回、とっても楽しそうに遣われているオーラが溢れていました。人形遣いをノリノリにさせるのも嶋師匠パワーでしょうか。

 そして、やっぱり、簑師匠のお半はイヤらしかった。最初の登場シーンからして、長右衛門に送る視線が、もう、「まだ14歳の少女の視線」ではなくて、あきらかに「少女であることを武器にした女」なんです。どう考えても、長右衛門が年若い女を手籠にしたのではなくて、間違いなく、お半が、最初から長右衛門をハメるつもりだったんだと思います。 やっぱり簑師匠ってすごいなぁ。どれだけ女を泣かすと、こういう演技ができるようになるのか、一度、お聞きしたいものです。

 通常は「帯屋」のみなのですが、今回は「帯屋」を挟んで前後の段も上演されたことで、ストーリーが立体的になり、これまで、今一つ、唐突感のあったエピソードの意味がよくわかりました。登場人物のキャラクター付けも明確になるし、エンタメ性も十分にあるので、圧倒的に「通し」の方が良いように思います。

 それにしても長右衛門…。この絶句するほどのロクでなしぶりは何なのでしょう。女たらしとはちょっと違う。というか、長右衛門は、まったくもって、遊んでいるつもりはないんでしょうね。全部、本気。お絹といる時には、お絹が大切。お半といれば、お半がすべて。で、多分、遊女といれば遊女に本気。いい加減、自分のそういう性格が周囲の人を混乱させ、迷惑をかけていることに気付けよ~と思いますが、まるで自覚なし。

 さすがに、勘十郎さまが遣われていても、こんなヤツには惚れられません。

 やはり、この物語は、お半とお絹という、怖い女2人がいて成り立っている物語なんだと思います。簑師匠のお半は、あざとさ全開! 紋寿さんのお絹は控えめで、ひたすら夫を立てる妻のそぶりをして、実は、一番、男を追い詰めるタイプ?

 床は、ともかく嶋師匠が圧巻でしたが、六角堂の文字久さん&富助さんもステキ。この2人、とってもいい組み合わせのような気がします。 三味線の連れ弾き。元締め役が清治さんの時と、寛治師匠の時とでは、音質が違うように感じます。世話物には、やっぱり寛治師匠のふくよかな音がよくあっているような気がします。

 ところで、清志郎さんって、最近、音だけでなく、顔も清治さんに似てきているような気がするのは、私だけでしょうか?